国際シンポジウム パネリストの報告食糧主権の確立をめざして国際的な運動と連帯の前進を農民連副会長 白石 淳一氏
私は、北海道岩見沢市で稲作と玉ねぎを栽培する農民です。一九七〇年に父の農業経営を受け継ぎ、以来営農を続けています。当時は、「努力すれば報われる」時代で、贅沢さえしなければ農業経営で十分生活ができました。その基礎には、農民には生産コストをつぐない、消費者には家計の安定を考慮して、国が米価を定める食糧管理制度がありました。 この事態を一変させたのが、九五年から動き出したWTO協定と、これに迎合し便乗した日本政府による悪政の数々です。とくに九四年以来、日本政府は「市場原理万能主義」、新自由主義の立場から、価格保障制度の廃止に乗り出すとともに、輸入農産物に対する農薬残留基準を大幅に緩和し、食の安全に対する責任を放棄し、日本の農と食をめぐる危機をますます深刻にしています。
「北」も「南」も農民に勝者なし今年は、日本政府も提唱し、国連が定めた「国際コメ年」ですが、この記念すべき年に日本政府が「改革」の名でやろうとしているのは、国内の米生産と稲作農家をリストラし、米まで完全に輸入に依存する政策です。結局、WTO体制のもとで増えたのは、農産物の輸入と稲作減反であり、ダウンしたのは農産物の生産者価格と米や野菜の生産量、そして食糧自給率です。そのうえ輸入農産物の急増は遺伝子組み換えや残留農薬、BSEや鳥インフルエンザなど、食の安全に対する不安を引き起こしました。WTO協定は日本の農民や消費者にとって、ただの一つもプラスをもたらしませんでした。 WTOのもとでは、「北」であろうが「南」であろうが、農民に勝利者はいません。アメリカやヨーロッパの農民は生産コストを大幅に下回る価格で穀物を買いたたかれ、これがダンピング輸出となって「南」の農民を直撃しています。「南」の国は、ダンピングされた穀物を輸入し、空いた土地で輸出用作物を作らされる。しかも、これを支配するのは多国籍企業です。そして「南」で作られた輸出用作物が「北」の家族経営を直撃しています。この構造でほくそえんでいるのは、多国籍企業と大国だけです。 日本は、年間雨量も多く四季のはっきりした気候です。豊富な雪解け水で田植えをし、梅雨と夏の暑さが稲を育て、澄み切った秋空が稲を実らせる。こうした気象条件に適した稲作が定着し、国民の主食として日本人の胃袋を支えてきました。 日本では、九〇%を超える消費者が「国産の米を食べたい」と望んでいます。米を作り続けたい農民がいて、その米を食べたい国民がいる。私たちは、こういう連帯を基礎にして、国民的なネットワークである食健連の運動を発展させてきました。その構成人員は三百万人を超えています。 自国で生産できるものまで輸入を強要し、生産を脅かす権利は誰にもないはずです。私たちが食糧主権を強く主張するゆえんです。
WTO協定の抜本的改定をこれまで、ビア・カンペシーナを先頭に練り上げられ、確立しつつある「食糧主権」の中身として、すべての国と民衆が自分たちの食糧・農業政策を決定する権利と国内市場を守る権利、小農・家族経営をベースにした持続可能な生産を支える公的補助を実施する権利があげられ、こういう権利が行使されてこそ、すべての社会構成員が安全で栄養豊かな食糧を得る権利が実現されると強調されています。そして、これを実現するために不可欠な政策として(1)生産コストをカバーできる安定した価格を保障すること、(2)輸出補助金付きのダンピング輸出を禁止すること、(3)アグリビジネスによる買いたたきや貿易独占を規制することなどをあげています。これは、日本の農民と消費者が熱く望んでいる方向と完全に一致しています。私たちはWTO協定を抜本的に改訂することを要求します。 その第一は「例外なき関税化」の強要をやめること。とりわけ不合理・不公正な「ミニマム・アクセス」を廃止すること。第二は価格保障制度などの「国内助成の削減・廃止」の強要と干渉をやめ、各国の条件に見合った農業政策を実施する権利を保障すること。第三に多国籍企業による買いたたきとダンピング輸出をやめること。第四に食糧主権と農業の多面的機能を尊重し、世界各地の多様な農業が共存できる新たな国際秩序を作ること。そして第五に、食料の安全を守るために、WTO・SPS協定を改定し、各国の安全基準を決める主権が保証されるようにすることです。 これらは、WTO農業協定の屋台骨の抜本的な改革要求です。WTO農業協定の廃止につながるものであり、「WTOは農業と食糧から出て行け」という要求と大局的には一致していると考えています。運動をローカル・ナショナル・グローバルに展開するために、各国のNGOや農民組織がそれぞれ個性的で多彩な表現と要求をかかげ、大局的な一致を追求することが求められています。
WTOの失敗は国際連帯の成果今回のシンポジウムは二〇〇〇年二月に私たちが開催した「WTOに関する国際シンポジウム」に次ぐものです。二〇〇〇年のシンポジウムにおいても農産物輸出国と農産物輸入国という違いはあっても、農業と小農・家族経営の置かれている状況は驚くほど共通の事態が進行していて、WTOに対する国際連帯の運動が大きく飛躍する条件があることが明らかになりました。私たちはこの成果の上に立って国際的な連帯の流れに加わり運動を強めてきました。シアトルに続くカンクンでのWTOの失敗は、こういう国際連帯の運動の成果でもあります。ともすれば八方ふさがりに見える農業・食糧問題も、このシンポジウムを通じて、世界の農民組織やNGOの運動にふれることで世界の流れを実感でき、日本での運動を大きく励ますことになるでしょう。嵐は若樹を鍛えるといいますが、WTO・多国籍企業主導のグローバリゼーションの進展は、世界中の民衆が連帯できる基盤をますます固めています。 たたかいをグローバル化しよう! 希望をグローバル化しよう!
(新聞「農民」2004.4.26付)
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[2004年4月]
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