「農民」記事データベース20040426-633-08

農業・農民の苦難の根源―WTOを厳しく告発、食料主権守れ(2/3)

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「自由貿易協定」がもたらした農民の失業と貧困

メキシコ ビクトル・スアレス氏
(全国農業取引連合(ANEC)前代表・下院議員)

 私は特にNAFTA(北米自由貿易協定)のもとでメキシコの農民がどのような経験をしてきたかを中心に報告します。

 メキシコは、日本と同じようにもともと農業国で、世界の文明の中でも重要な役割を果たしてきました。メキシコの主食はトウモロコシで、メキシコはトウモロコシの文化の国です。豆類、かぼちゃ、トマトなど多くの原産地でもあります。メキシコには、約四百万人の中小レベルの農民がいて、農村人口は三千万人におよんでいます。農民の平均的な耕地面積は、三・五ヘクタールです。

 新自由主義貿易政策の押しつけ

 一九八〇年代のはじめから、メキシコは、世界銀行、米州開発銀行、GATTなどが、強制的に押しつけてくる新自由主義的な農業・貿易政策で、ぐちゃぐちゃにかきまわされてきました。これは、アメリカ・ヨーロッパそして日本という新たな経済大国の力関係の結果でした。そしてこの三つの国をこのような政策に駆り立てた最も大きな原動力が、いわゆる多国籍企業です。

 「新しいモデル」のねらうもの

 押しつけられた政策の内容は、第一に、貿易の自由化をすること。第二に、自国の農業政策に対する政府の力の弱体化。第三に、農村にかかわる政府の公社・事業体の民営化。第四に、農村地域に対する公益投資と補助金の削減。第五に、開発のための民間投資への依存です。

 そして、こうした政策にもとづいて新しい農業モデルが押しつけられました。それは、「比較優位」論にもとづいて世界の食料生産を一部の国々に集中させることです。もし農業を続けたいなら、今までやってきた小農民による農業を効率のいい農業に転換し、しかも商社マンの言いなりになってやれ、ということです。また人間の健康にとっても生態系にとっても、害のあるような技術をどんどん活用しろ、ということです。

 さらに、この農業モデルが、世界の農産物市場を独占できないということがわかると、政治的・軍事的な力で国際的な市場を支配しようとしてきました。

 農民ぬきで決められた貿易協定

 NAFTAは一九九三年に調印されました。NAFTAの主要な目的は、こうした新しい農業のモデルを作ることでした。NAFTAはアメリカが言い出したものでありアメリカはその裏庭であるメキシコをさらに独占化してヨーロッパと日本とのたたかいに勝とうともくろんだわけです。

 NAFTAの交渉は、農民のまったく知らないところで秘密裏に進められました。メキシコ政府はビッグビジネスの言うことだけを聞き、すべての農産物の完全な自由化に合意してしまいました。メキシコの主食であるトウモロコシと豆も、なんの例外も言い出さなかったのです。したがってNAFTAは、反民主的な協定であるといわざるを得ません。

 消費者にも値上げと危険な食品

 メキシコ政府は、「NAFTAは農民には不満もあろうが、消費者にとっては天国だ」と言っています。しかし、主食であるトウモロコシの価格は、二・七五倍に上昇しました。輸入されてくる食品の品質はどうかというと、「メキシコは北アメリカの農産物の残飯の掃き溜めだ」というのが実態です。アメリカで飼料用に作られた遺伝子組み換えのトウモロコシを、メキシコでは食用にしています。農薬と成長ホルモン剤がたくさん入っている牛乳や、アメリカでは食用として基準を満たしていない牛肉、豚肉、鶏肉などをダンピングして輸出してくるのです。そのなかには、BSEにおかされている牛肉もあります。

 巨利占めるアメリカ独占資本

 このNAFTA発効から十年間に私たちがわかったことは、このような自由貿易協定はメキシコだけでなく世界中で大失敗だということです。

 メキシコがNAFTAから得たものは、第一に輸入への依存です。メキシコは食料消費量の四〇%をアメリカから輸入する国になりました。第二には、食品部門の民営化と大企業への集約化がどんどん進みました。しかもその大企業はカーギル社などのアメリカ、カナダの企業です。

 メキシコと日本の自由貿易協定でも、実際に輸出をするのはメキシコの小農家ではなく、アメリカの巨大な食肉産業、貿易商社なのです。

 そして三番目にメキシコが得たものは消費者物価の上昇と、食料不安定の増大です。四番目は失業率の上昇と農村から都市への出稼ぎの増加、さらにはアメリカへの出稼ぎ農民が増加したことです。出稼ぎ農民たちに対する制度的と言ってもいいほどの人権侵害が平然と行われています。

 立ち上がる農民の大抵抗運動

 しかし、このような政策に対して、大きな抵抗運動が起きています。抵抗しているのは、小農民、先住民そして社会運動です。一九九四年にNAFTAが発効した日に、チアパス州でサパティスタ解放軍が率いる先住民の蜂起がありました。彼らは自決の権利、労働する権利、食料を得る権利、教育を受ける権利などを要求して立ち上がりました。さらに二〇〇三年一月一日、NAFTA発効十周年の日に、メキシコではこれに反対する農民運動がピークに達したのです。農民たちが「農村はこれ以上がまんできない」というスローガンのもとに、大きな集会を開きデモ行進を行いました。一月三十一日には十万人の農民がメキシコシティを大行進して、NAFTAに反対したのです。「食糧主権と農民の権利にもとづく農村政策をあらたにつくれ」、「農民が農民として生きられるようにしろ、出稼ぎ労働者にするな」と、強く要求しました。

 NAFTAとWTOは、廃止しなければなりません。これが続けば、農民がこの地上からいなくなり、農村社会が消滅するからです。それに変わるものは食糧主権です。そして公正な貿易です。私たちがたたかえば、いまの世界にかわる新しい世界を必ず実現できると信じています。

(新聞「農民」2004.4.26付)
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2004年4月

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