「農民」記事データベース20040426-633-07

農業・農民の苦難の根源―WTOを厳しく告発、食料主権守れ(1/3)

国際シンポジウムパネリストの発言

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輸入関税率の引き下げで「世界最大の米輸入国」に

インドネシア ヘンリー・サラギ氏
(インドネシア農民組合連合委員長ビア・カンペシーナ東・東南アジア代表)

 私は、農産物の自由化がインドネシアの農民にどのような影響を及ぼしているのかを中心に報告します。

 種苗、肥料…外国資本が農民収奪

 インドネシアは、全人口の約八割が農村に住む農業国です。しかし、農民の六〇%が小さな農地しか持たない小農か、まったくの土地なし農民です。そのため、多くの農業労働者がプランテーション労働者として働いています。

 インドネシアの農業分野の自由化は、IMF(国際通貨基金)や世界貿易機関(WTO)による関税引き下げの強要から始まったのではなく、スハルトが政権を握った一九六七年頃、経済成長を追い求めた開発の時代からすでに行われてきました。外国資本による外資系プランテーションや林業、水産業への国内投資が認められ、パーム油や紙パルプといったプランテーション産物が外国資本に支配されてきました。外国企業は種苗、肥料、農薬を自ら供給したため、今でもインドネシアの農民は、先進国の企業の農業資材を購入しなければならないのです。また、農地をめぐる紛争も増大し、土地を奪われた農民は労働者にならざるをえなかったのです。

 この結果、一九九三年には一ヘクタール未満の土地しか持たない農民が、約二千二百八十万人(八四%)にのぼり、アブラヤシのプランテーション面積は、六〇万ヘクタール(一九八五年)から三百万ヘクタール(一九九九年)に増大し、このうち六〇%を占める面積が二十七の大企業によって支配されています。そのうち七五%が外国企業なのです。

 復興支援の名で金融・貿易介入

 インドネシアは一九九四年にWTOに加盟し、九五年には「農業と貿易政策改革」と呼ばれるプログラムが始まりました。その後、アジアで起こった経済危機は、インドネシアにも波及。経済復興支援という名の国際金融機関の介入をもたらし、民営化、貿易の自由化、そして広範な優遇措置による外資導入がはかられました。

 輸入依存率は2年間で倍増

 農産物貿易の自由化によって、インドネシアは世界最大の農産物輸入国になり、特に世界最大の米輸入国です。米の輸入量は、二〇〇一年百五十万トン、二〇〇二年には二百五十万トンで世界の米のストックの約五〇%をインドネシアが輸入しています。米の輸入量が増えているのは、国内の生産量が減ったためではなく、輸入関税の引き下げが原因です。特に一九九八年から九九年までの米の関税率はゼロ%に設定され、二〇〇〇年から約二五%になっています。さらに世界食糧プログラム(WFP)などによる貧困者への「食料援助」、米の配給で入ってくる外国米によっても、農家の生活はますます苦しくなっています。

 このような過激な関税政策は、インドネシア政府とIMFが交わした合意文書にもとづくものです。アメリカ産が大部分を占める大豆の輸入が増大していますが、これもインドネシア政府が輸入関税を低く設定しているからです。そのために二〇〇〇年のインドネシアの輸入依存率は、一九九八年の二倍にあたる五五%になりました。

 政府は投資を経済危機克服の重要なセクターとしていますが、これによって農民は何をどうやって作るかを決める自由を奪われています。モンサント社は、綿花農家が在来品種を使わないように強制しており、農民たちは同社の種を植えるために同社から借金をしているのです。

 また、新たな民営化では、農地灌漑を含めた水事業に民間も参入できることになりました。水の民営化は非常に危険です。なぜなら農地灌漑にも農民は金を払わなくてはならなくなるからです。このままいけば、農地にどの作物を植えるかも、灌漑を管理する者が決めることになり、農民はそれに従わざるをえなくなる可能性もあります。

 危機脱け出すための六つの方策

 WTOに加盟して以来、農産物の貿易自由化と輸出指向型農業によってインドネシアは、国内の食料需要を輸入作物によって供給する国にさせられてしまいました。こうした危機から脱け出すためには次のことを行わなければなりません。

 第一に、食糧主権を実現すること。すべての国、すべての人々は自立的に主要食糧を生産する能力を持つ権利があり、何を食するかを選び、どういう農業政策を行うかを決める権利を有しています。

 第二に、農地支配の不平等な構造を是正するための「誠実な農地改革」を早急に行うこと。誠実な農地改革は食糧主権の目的を実現するための前提条件です。

 第三に、インドネシアでもっとも人口が多い農民や先住民の権利を認め、尊重すること。

 第四に、インドネシア政府は、輸入作物に押されている国内の農産物価格に対して保護を与えること。また、自然災害のように農家の努力の範囲外のことが起こった場合には政府が補助金や低利子ローンを提供すること。

 第五に、植物を含むすべての生物に対するあらゆる特許権を否定すること。種、胚、その他の自然の恵みは農民や先住民の持つ権利であり、それは彼らの生活の長い営みの結果もたらされたものだからです。

 第六に、国民に対して政府が提供すべきサービス(責務)の民営化は、とくに水、交通、教育、保健といった多くの人々が暮らすうえで不可欠なものを含め、いかなる形態であれ廃止すること。

 食と農を守る世界的運動を

 土、水、自然は生活の源です。農業は単に作物を栽培することではなく文化であり暮らしそのものです。農民がいなければ食物はなく、食物がなければ生きていけません。

 たたかいを世界に広げよう。希望を世界に広げよう。別の世界を作り上げることは可能です。

(新聞「農民」2004.4.26付)
ライン

2004年4月

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