WTO改訂と食料主権確立へ 国際シンポジウム開く世界の運動に新たな息吹 連帯の輪さらに広げよう日本の多彩な運動に海外の3氏が感銘 パネリスト4氏
「シンポジウムを通じて、運動が確信になり、新たな広がりへと展開する息吹を感じた」――。こんな思いを共有した「WTO改定と食糧主権確立を求める国際シンポジウム」が、四月十〜十一日、東京・あいおい損保新宿ホールで開かれました。農民、消費者、労働者、研究者など、多彩な顔ぶれの四百十人の参加者は、インドネシア、メキシコ、アメリカ、日本のパネリストの発言に熱心に耳を傾け、大きな確信をつかみました。
大きな前進感じさせた農民連と食健連が関わって国際シンポジウムを開くのは二〇〇〇年三月以来、二回目。民衆のパワーが初めてWTO閣僚会議(シアトル)を決裂に追い込んだ直後の前回から四年。そして、またカンクンで民衆が勝利した半年後に開かれた今回のシンポジウムは、国際連帯の幅の広がり、内容の深さという点で、大きな前進を感じさせるものでした。パネリストは、ヘンリー・サラギ氏(インドネシア)=農民組合連合委員長、「ビア・カンペシーナ」東・東南アジア代表=、ビクトル・スアレス氏(メキシコ)=全国農業取引連合(ANEC)前代表、下院議員=、ニール・リッチー氏(アメリカ)=農業・貿易政策研究所(IATP)全米組織部長=、白石淳一氏=農民連副会長=。 パネリストの四氏は口々に、自国の農民の苦難の根源にある多国籍企業の横暴やWTOをはじめとする国際機関の支配を告発。それを打ち破ってWTO改定と食糧主権を確立することの必要性を力強く訴えました。 大規模なプランテーション農業の一方で、大多数の農民が農地を所有できず、貧困にあえいでいるインドネシア。サラギ氏は「ハシゴから落ちたうえに倒れてきたハシゴでまた頭を打たれたようなもの」と、WTO以降ますます悪化する農民の窮状を表現。「食糧主権を実現しない限り、食糧不足と飢餓の問題は解決しない。インドネシアでは、その前提として『誠実な農地改革』が必要だ」と述べました。
WTO廃止しない限りメキシコはNAFTA(北米自由貿易協定)によって主食・トウモロコシの自給率が急速に低下しています。スアレス氏は、その影響について「NAFTAがメキシコにもたらしたのは、食糧の輸入依存と食品企業の大規模化、物価の上昇と失業の増大、そしてアメリカへの大量の出稼ぎだけだ」と怒りを込めて告発。「NAFTAとWTOを廃止しない限りメキシコの農家はいなくなってしまう」と訴えました。リッチー氏は、「アメリカの農民も、世界の農民と同じ理由で苦しめられている」と述べて、都市との所得格差が広がり、荒廃の一途をたどっている農村の実態を紹介。そのうえで「農民は収入の四割を政府の助成金に頼っているが、これで最も得をしているのは、農民から買いたたいた農産物を輸出して大もうけしているアグリビジネス企業だ」と指摘しました。 白石氏は、稲作農家の苦悩を紹介し、政府の米つぶし農政を批判。「自国で生産できるものまで輸入を強要し、生産を脅かす権利は誰にもない。私たちは食糧主権を強く主張する」と述べて、ミニマム・アクセスの廃止や価格保障制度を認めることなど、WTOの屋台骨をゆるがす抜本改訂を要求しました。
日本の経験生かしたい一日目に全体会、二日目には海外パネリストを囲んで分散会も開かれたシンポジウムを通して、参加者が共感し、確信を深めたのは、WTO改定と食糧主権確立を求める民衆レベルでのグローバルな連帯を広げることが可能だということです。また、フロアからは日本国内での多彩な運動が紹介され、海外のパネリストに感銘をもって受けとめられたことも大きな特徴です。リッチー氏は、労働者が自らの賃金引き上げの要求と結んで農産物の価格保障を求めていること、学校給食に地産地消を推進するとりくみなどをあげ、「このシンポジウムでみなさんの経験から多くのことを学んだ。国内での活動に生かしていきたい」と発言。また、スアレス氏は、日本とメキシコが大枠で合意したFTA(自由貿易協定)について「日本とメキシコの農民、労働者のために、国会で承認されないように運動を強めよう」と提起。サラギ氏は、今年開催が予定されているWTO香港閣僚会議の反対運動に「日本の農民が先頭に立ってほしい」と呼びかけました。 また、三氏からは、イラクで日本人が拉致された事件への深い憂慮が述べられるとともに、「イラクに派遣しているすべての軍隊を速やかに撤退させるべき」との意見が表明されました。
経済支配は多国籍企業コーディネーターの暉峻衆三氏(農業・農協問題研究所理事長)は、まとめで「シンポジウムを通じて、各国の経済を支配し、政府とWTOなどの国際機関を動かしているのは、多国籍企業だということがはっきりした」と指摘。「民衆の運動と国際連帯が、WTO閣僚会議を二度の挫折に導いた」と述べて、「このシンポジウムの成功を力に国内、国際レベル¥での連帯の輪をさらに広げよう」と訴えました。
(新聞「農民」2004.4.26付)
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[2004年4月]
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