「農民」記事データベース20140203-1103-07

1年間の運動報告と
今後の方針について
(3/7)

2014年1月21日
農民連運動全国連合会常任委員会

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4、TPPをテコに“戦後農政の総決算”をねらうアベノミクス「農政改革」

 (1)安倍内閣のねらう「農政改革」は

 “日本を世界で最も企業活動の自由な国にする”という安倍内閣は、TPPへの参加をテコに、農業・農村を企業のビジネスチャンスにするための「農政改革」に踏み出しました。その内容は、“大規模経営と企業経営が農業の8割を担う構造作り”にあり、生産調整や米政策、経営所得対策、直接支払政策、農地・構造政策、農協・農業委員会制度など、相互に関連する政策を総見直しするもので、まさしく戦後農政の総決算というべきものです。「攻めの農政改革」は、その第一歩で、農民を「攻め」落とし、地域農業を根底から破壊するとんでもないものです。今後、農業生産法人の要件緩和や企業の農地所有など、企業のビジネスチャンスにするためのさらなる規制緩和もねらわれています。

 (2)政府の責任放棄と、家族経営を締め出す「攻めの農政改革」

   (1)農地中間管理機構について
 「攻めの農政改革」の第1の柱は、各県ごとに公的機関として設置する農地中間管理機構です。農地を「機構」に預ける農家や集落、すでに借り受けている農家にも「協力金」として補助金(手切れ金)をばらまいて農地を拠出させ、大区画化などの整備を行い、公募で大規模経営や農外企業に貸し付けるというものです。しかし、借り受け手が見つからなければ農地が所有者に戻され、協力金は受け取れないという矛盾に満ちたものです。また、これまでの農地は耕作する農民や地域が管理するという農地法の原則を踏みにじり、農業委員会の役割も否定するものです。

   (2)米の直接支払交付金を今年から半減し4年後に打ち切り
 第2の柱は、(1)2010年度に民主党政権がはじめた生産調整を達成した全販売農家を対象に10アールあたり1万5千円を固定払いする「戸別所得補償制度」(安倍政権で米の直接支払交付金に名称変更)を2014年産から7500円に半減させ、2017年産で打ち切る、(2)米価が標準販売価格より低下した場合、差額を生産者の拠出なしに補てんする「米価変動補てん交付金」を2014年産から打ち切る、(3)畑作物の直接支払交付金(ゲタ)は、価格を大豆で60キロあたり350円増、小麦で40円減などの見直しを行い、2015年度からは認定農業者と集落営農、認定就農者に限定する、(4)水田・畑作の収入減少影響緩和対策(ナラシ)は、2014年は米の固定払いの加入者に限りナラシに加入していなくても国費分の50%を交付し、農家拠出は求めない、2015年からはゲタ同様に対象を絞り込む―などの内容です。

 「岩盤対策」としてきた「経営所得安定対策」の縮小・廃止は、「改革」の核であり、農家を追い出して企業と大規模農家に農地を集中させる冷酷なテコです。制度を利用している百数十万戸のすべての稲作農家が影響を受けますが、打撃が最も深刻なのは、「担い手」として育成の対象とされ、農地を集積してきた大規模農家や集落営農組織であり、地域農業への打撃は計り知れないものがあります。

   (3)政府が米政策から撤退して市場に丸投げ
 第3の柱は、「生産者が生産数量目標に頼らず、自らの判断で需要に応じた生産が行われるように環境を整備する」として5年後に生産調整(減反)を廃止することです。

 生産調整は、1970年に100万トンを減産して以来、43年間続けられてきました。生産調整は、アメリカの食糧戦略を背景にした自民党農政の失政の象徴であり、農業と農村を衰退させ、田んぼを荒らした政策ですが、今回の生産調整の廃止は、これまでの反省を踏まえたものではありません。TPPで関税の撤廃を受け入れれば、アメリカやベトナムなどから米が輸入されるため、生産調整が機能しなくなるからです。TPP参加を契機に、政府が米の需給と生産への責任を全面的に放棄するもので、政府が生産コストを9600円(1俵60キロあたり)に大幅に引き下げることを目標にしているように、米価の大暴落は避けられません。

 「米価下落対策」として検討されている「収入保険」は、本来、政府と農家が掛け金を負担し、暴落時の収入減を補てんするものですが、検討されているのは国の関与のない単なる「民間保険」であり、政策の名に値しません。

   (4)飼料用米をフル活用の中心にするというが
 水田フル活用の“目玉”として、今後、需要増が見込まれる飼料用米を本作として打ち出し、数量払いを導入して最高で10アールあたり10万5千円(最低で5万5千円)を交付するとしています。毎年8万トンずつ生産を拡大し、農家所得が13%増える(農水省)と豪語しています。

 生産費を償う価格を確保して飼料米を生産することは必要ですが、現状は、養鶏以外の畜種に飼料米が普及されず、農家と飼料実需者とのマッチング、施設の不備などの問題もあります。需要増が見込まれるといいますが、TPPで関税が撤廃されて畜産農家が激減すれば需要減は避けられません。百数十万戸以上の農家が対象となっている「経営所得安定対策」をバッサリ切って捨て、“絵に描いた餅”になりかねない飼料用米を根拠に“所得増”と幻想を振りまくことは許されません。

   (5)構造改革を後押しするための「日本型直接払い」
 「改革」のもう一つの目玉は2014年から発足させる「日本型直接支払制度(多面的機能支払い)です。地域が共同して行う農地、水路、農道を維持するためのとりくみのコストを補てんするもので、「農地維持支払い」と「資源向上支払い」からなり、水田、畑、草地に対して面積払いするものです。

 地域のとりくみへの支援の拡充は必要ですが、この制度のねらいは「担い手の負担を軽減し、構造改革を後押し」することにあります。農地の8割を大規模経営や農外企業が担うことになれば、多くの農家が“土地持ち非農家”となり、総出で行ってきた農地や水路、農道の維持管理が困難になり担い手の負担が増えます。特に「農地中間管理機構」を通じて農外の企業が参入すれば、地域の共同作業は一層、困難になります。

 農家の多数を農業から締め出して集落機能を弱める方向に踏み出しながら、草刈りと水路の維持管理に「土地持ち非農家」をつなぎとめるねらいが見え見えで、今後、現場での矛盾は避けられません。

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稲刈り交流会(福岡・みのう農民組合)

5、米をめぐる情勢

 2013年春から始まった需給のゆるみと米価の下落は歯止めがかからず、2013年産米価格にも深刻な影響を与えています。20%もの取引価格の下落が米農家を直撃し、在庫を抱える米業者も経営に重大な影響を受け、農民連ふるさとネットワークや各地の産直組織の経営にも影響を与えています。

 農民連は早くからこうした事態を想定し、備蓄米の買い入れなどの対策を要求してきました。しかし、政府は100万トン備蓄に25万トンもの買い入れ余地がありながら「米価に影響する買い入れはしない」として要求を拒否してきました。全農など民間が独自に「需給調整対策」を行う動きも伝えられていますが、政府は傍観者的態度に終始しています。こうした政府の需給と価格の安定に背を向けた市場任せの姿勢こそが、米関係者の不安と混乱を助長し、「過剰感」を増幅させています。昨年夏には「政府の見通しの狂いは20万トン」と言われていたのが、いまや「80万トンは過剰」と米業界から指摘されるまでに至っています。

 民間の「需給調整対策」が実施されても時期が遅すぎること、消費税増税前の乱売合戦とその後の消費の後退が必至であること、などから米価の回復は限定的なものにならざるをえません。

 5年後には経営所得安定対策の交付金をなくし、生産目標数量の配分もやめるとしながら、今年産は過去最大の26万トンもの減反の推進など、矛盾に満ちた米政策に生産、流通いずれの現場もいっそうの混乱は避けがたいものになろうとしています。

(新聞「農民」2014.2.3付)
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2014年2月

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