農民連の要求と提言(5/7)
―今こそ食料自給率の向上に踏み出す時、
農業・食糧政策の大転換は待ったなし
2009年6月 農民運動全国連合会
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提言4 農業再生のカナメ、 生産コストを償う価格保障を
米だけでなくリンゴやミカン、茶、大豆や牛乳など、ほとんどの農産物が価格暴落と売れ行き不振に直面し、農家の収入は生産コストを大きく割り込んでいます。世界中で農産物価格が軒並み上昇しているのに、日本だけは例外という異常事態です。
原因は大きくいって3つあります。第一は、政府がWTOいいなりに価格保障制度を根こそぎ廃止したことです。第二は、輸入の激増です。日本の何百倍、何千倍という経営規模の国や、日本の何十分の一という低賃金の国からの輸入が、日本の農産物を直撃しているのです。第三は、巨大な力を持つにいたった大手流通資本による常軌を逸した買いたたきです。小泉内閣以来の規制緩和が買いたたきをあおっています。これらがからみあって慢性的な価格暴落や低迷が続いています。
そのうえ、原油や穀物相場高騰のあおりを受けて、農業生産資材や飼料は大幅に値上がりしているのですから、農家はたまったものではありません。
現在の「水田・畑作経営所得安定対策」は、こういう不安にこたえるものではありません。(1)生産費ではなく過去の生産・収入実績を基準に補てん金を算出するため、増産意欲がわかない、(2)規模の大小で農家を選別しているなど、価格保障・所得補償の名に値するものではないからです。政府・与党も民主党も「価格保障をやめて直接所得補償へ」と主張していますが、アメリカ・ヨーロッパなど世界の流れは「価格保障も直接所得補償も」です。自給率が異常に低い日本に必要なのは増産であり、「生産刺激的」な政策を禁止するWTO農業協定を絶対視した政策をとることは自殺行為です。
農民連の提案
農民連は、こういう事態を打開し、国産農産物の増産による自給率向上と農業再生を実現するために、政府が本腰を入れて次の政策を実施することを強く要求します。
(1)1万7000円以上の生産者米価を実現する
米の生産コスト(1俵=60キロ平均1万7000円)と農家の販売価格との差額を政府が補てんする「不足払い」制度をつくり、米を販売するすべての農家の生産費を償うことを要求します(表2)。
(2)小麦、大豆、牛乳、甘味・でんぷん作物にも「不足払い」を 小麦、大豆、牛乳、甘味・でんぷん作物(ビート、サトウキビ、ジャガイモ、サツマイモ)にも同様の制度をつくり、生産費を償うことを要求します。
(3)米粉・飼料米に主食米並みの粗収益を保障する
自給率向上の決め手ともいえる米粉・飼料米をつくる農家が主食米並みの粗収益(10アールあたり14
万円)を確保できるよう直接所得補償制度をつくることを要求します。
(4)果実・野菜、肉、卵、茶なども手厚い支援で経営安定をはかる
果実・野菜、肉、卵、茶、花などについては、市場を通じた価格安定制度やジュースなど加工原料の価格下支え制度の充実・創設を要求します。
(5)4500億円を追加すれば、生産コストを償う価格保障・所得補償は実現できる
以上の対策に転作奨励金を加えた必要予算の合計は1兆1430億円です。一方、09年度の当初・補正予算のうち価格保障・所得補償予算は6900億円であり、約4500億円を追加すれば、十分に実現可能です。
(6)価格保障・所得補償を農業予算の主役に
主な価格保障制度ができあがった後の1975年当時、農林水産予算総額は2兆1767億円で、そのうち食管関係予算は42%をしめていました(図2)。ところが今ではわずか5%で、主役の座から端役に転落してしまいました。また、75年には農林水産予算の6割にすぎなかった防衛費(軍事費)は1・8倍の4兆7741億円に膨張しています。
不要不急な公共事業や防衛費を削って価格保障・所得補償を農業予算の主役に! 価格保障・所得補償の充実に必要な4500億円は、防衛費を1割減らせば生み出せます。
(7)大手流通資本による常軌を逸した買いたたきをやめさせる
経済・金融危機のなかで、生産コストも農家の暮らしの安定もまったく度外視した買いたたきの嵐が吹き荒れています。そのほこ先は、日本の農家だけでなく中小加工・流通業者に向けられています。「優越的地位の濫用」(独占禁止法)に対する規制を強化すること、市場に公正な価格形成の機能を回復させることなど、買いたたきをやめさせることを要求します。
また、政府米と自主流通米が併存していた時期に、政府米の存在が買いたたきを許さない防波堤の役割をはたしたように、農民連が提案する価格保障制度の実現は買いたたきをおさえる確かな役割をはたすでしょう。
無茶な買いたたきをおさえ、輸入をコントロールすることによって市場価格が妥当な水準に安定すれば、価格保障に必要な予算はもっと少なくてすむでしょう。
「米がたとえ1俵5000円になってしまったとしても、中国からどんなに安い野菜や果物が入ってきても、全ての販売農家の所得を補償する」(民主党の政権政策)という立場では、財源が無制限にふくらむことになります。民主党のある国会議員が「これでは消費税20%は必要」とまで言い出していますが、これでは農と食を守る国民的な合意などできるはずがありません。
(新聞「農民」2009.6.29付)
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