農業・食糧をビジネスチャンスにする大企業のねら
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戦争の口実とされたイラクの大量破壊兵器について、アメリカ政府調査団の最終報告は、「イラクは大量破壊兵器を保有せず、開発計画もなかった」と結論づけ、あらためて戦争の無法さを浮き彫りにしています。イラクから軍を撤退させる国<が相次ぎ、米英の国際<的孤立が深まっていま<す。
戦後はじめて戦地に武器を持った自衛隊を派兵し、イラク全土が戦場になっているにもかかわらず自衛隊を駐留し続けている小泉内閣の危険性とアメリカへの追従ぶりは際立っています。
「九条が日米同盟の妨げになっている」(アーミテージ米国務副長官)という改憲要求の中心は、アメリカと一緒に、あるいはアメリカの代わりに自衛隊が海外で武力行使できるようにすることにあります。
改憲は九条に集中的に向けられていますが、国民の生存権と社会保障の権利を規定した二十五条をはじめ、国民の生活や人権、教育基本法など、憲法を土台にしたあらゆる分野に向けられています。
自民党と公明党、民主党が憲法改悪を競いあい、日本経団連も「国の基本問題検討委員会」を設置して憲法や安全保障の議論をスタートさせるなど、憲法改悪をめぐる動きは緊迫した状況を迎えています。
同時に、改憲勢力のねらい通りに、一路強行される事態になっていないことを正しくみることも重要です。「九条の会」アピールへの賛同や、地域や広範な階層で「九条の会」に連帯する組織づくりが広がり、農民連、全労連など中央六団体が呼びかけた「共同センター」の発足など、憲法改悪を許さない世論と運動も急速に広がっています。国のあり方の根本に関わる憲法改悪を許さず、憲法を生かした政治を実現するたたかいは、最重要課題です。
また、義務教育費の削減など、地方自治体と住民に重大な犠牲を押しつける「三位一体改革」、国民へのサービスを切り捨て、国民の財産を財界に売り渡す郵政民営化など、基本的人権や憲法二十五条に規定された生存権、教育を受ける権利さえも否定する動きが強まっています。
こうした財界の画策は、国民全体にますます痛みや犠牲を押しつけ、国の経済を破滅させかねないものだけに、国民との矛盾を深め、破綻せざるをえません。
その内容は、二〇一〇年までにカロリー自給率を四五%に引き上げることをめざした現行の「基本計画」を「達成は困難」(九月十六日の審議会企画部会報告)として責任を放棄する一方、「国境措置に過度に依存しない政策体系を構築する」とし、WTO交渉の関税引き下げや、EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)による関税撤廃に対応する農政の枠組みをつくるというものです。
そして、すべての農家を対象にした小麦、大豆などの価格保障制度を廃止し、一割の大規模経営や法人経営などを対象に「日本型直接支払い」を実施し、対象外の農家は輸入農産物との競争にさらすというものです。
また、「戦後農政の最終決算」の争点である農地制度の解体・株式会社による農地取得と農業支配を認めるかどうかについては、当面、「経済特区」を突破口に、全面的な農地制度解体をねらっています。
これは、WTO交渉が暗礁に乗り上げているなかで、資本が海外に進出するために、農産物の総自由化をはじめ、すべての物品の関税を撤廃するFTAに加え、投資や労働力の移動などの規制も撤廃しようというものです。
「みどりのアジアEPA推進戦略」は、新たな「開国宣言」というべきもので、食料自給率を向上させる責任を全面的に放棄して、企業の海外進出や開発輸入の支援など、財界の意向に応える方向を露骨に打ち出しています。
「戦略」は、EPAを通じてアジア諸国の飢餓や貧困の解消に貢献するとしています。しかし、この「戦略」によって、日本の大企業がアジア諸国の経済・農業支配を強め、外貨稼ぎの輸出用農産物を押しつけて飢餓をさらに深刻なものにし、途上国の自立や発展の重大な障害になることは明白です。そして、輸出用農産物は、日本への洪水輸入となって日本農業を破壊するという悪循環となることも明らかです。
政府は十一月に開かれたAPEC首脳会議やアセアンプラス日韓中首脳会議でも「みどりのアジアEPA推進戦略」の推進を強く主張しており、まさにアジア・太平洋全域を対象に自由化交渉を進めようとしています。
今回の「枠組み合意」は、無制限の貿易自由化を進めようとする多国籍企業やアメリカの思惑と、WTOのもとで拡大した貧富の格差、農業破壊を踏まえ、民衆と発展途上国の利益を重視した新しい貿易ルールを求める動きが正面からぶつかりあった結果、「合意」内容は複雑なものになっています。
それは、シアトル、カンクンの決裂をうけ、「今回決裂したらWTOは再起不能になる」という危機感から争点を先送りしたためです。しかも、交渉の段階でいえば振り出しに戻ったというのが実際の姿です。
同時に、今回の「枠組み合意」は「玉虫色」とはいえ、関税のいっそうの引き下げと輸入枠の拡大、最終的には「関税ゼロ」にするというWTOの基調にはなんの変化もありません。アメリカは、日本の米の関税を四九〇%から二〇〇%程度に引き下げることをねらっており、これを許せば一万二千円(60キロ)の外米が輸入されることになります。
また、日本にとって大きな問題であるミニマム・アクセス米輸入の削減・廃止問題は、日本政府が交渉の場にまともに持ち出さなかったため、なんの前進もありませんでした。「センシティブ品目」(一般的に重要品目)について関税の引き下げを猶予するとしていますが、他の品目に比べれば関税の下げ幅が少ないというだけであり、その代償にミニマム・アクセス枠を拡大させられる余地が残っていることは重大です。
この原因は、政府が十五年産米の買い上げを一万トン余りにとどめたまま、十五年産米の不足分八十万トンに対して超古米を含む百二十万トン以上の備蓄米を放出して流通段階に米をだぶつかせたためです。政府は十六年産米が出回っている今も外食産業などに九年産米の販売を続けています。
二年連続して作況が一〇〇を割り、政府の備蓄が底をつくなど、米不足のなかでの米価の暴落は二重に異常であり、政府が米の需給調整や流通から撤退する「米改革」の弊害が初年度から吹きだしているというのが今日の現実です。
農水省が「勤労者なみの所得(年間五百三十万円)を確保する」として打ち出した経営規模は、「米改革」で打ち出した担い手の面積基準を上回る十四ヘクタールですが、どんなに経営規模を拡大しても、価格の下支えがないまま、市場原理一辺倒で政府が主食の生産と流通の責任を放棄する「改革」では稲作も、地域農業も成り立たたないことは明らかです。
「米改革」のもとで大手卸の価格介入や流通支配など、主食・米をビジネスの対象にする動きが強まり、米の先物取引も準備されています。政府が米不足のなかで超古米を放出したことによって国民の米離れが進んで価格暴落を加速させるという悪循環を生んでいます。これは、「回転備蓄」の制度上の弊害です。現在の備蓄は、超古米を除けば八日分しかないのが実態であり、わずか百万トンという備蓄水準の再検討を含め、備蓄のあり方が問われています。
若齢牛のBSE検査はムダだと主張するアメリカの検査の実態は、対象を疑いのある牛に限定し、出荷頭数三千五百万頭に対して一%以下に過ぎません。外見上疑いのない三十カ月齢以下の牛の危険部位は除去されず、交差汚染の可能性がある豚・鶏などへの肉骨粉の使用を続けています。アメリカの圧力で食の安全と主権がゆがめられることは、絶対に容認できません。
国内で輸入解禁を政府に迫っているのは牛丼チェーンなどの大手外食産業であり、多数の消費者やチェーンストア協会など精肉販売業者は、安全対策が不十分なままでの輸入解禁や、全頭検査の見直しに反対しています。世論と運動の広がりは、「十一月まで(アメリカ大統領選挙)のできるだけ早い時期に解決する」(島村農相)という政府を追い詰め、県が独自に全頭検査を継続せざるをえない状況をつくっています。
「食糧主権」は、世界の農民組織とNGOが運動の中で練り上げたもので、国際的な農民組織であるビア・カンペシーナが一九九六年のローマ食糧サミットの際に提唱したものです。
その内容は、すべての国と民衆が自分たち自身の食糧・農業政策を決定する権利であり、WTO流の自由貿易主義から国内市場を守る権利、生産コストをカバーできる価格を保障し、家族経営をベースに持続可能な生産を援助する政策実施の権利、貿易よりも国内・地域への食糧供給を優先する権利などをあげ、WTOに代わる国際的な体制を提案しています。
しかも、食糧主権は、この数年、国連人権委員会でも、世界人権宣言にもとづく「食糧に対する権利」と「食糧主権」の関係が検討され、二〇〇四年三〜四月にジュネーブで開かれた国連第六十回人権委員会では、次のような勧告が採択されています。
「食糧に対する権利に重大な否定的な影響を及ぼしうる世界貿易システムのアンバランスと不公平に対し、緊急の対処が必要である。いまや、食糧主権のビジョンが提起しているような……農業と貿易に関する新たなオールタナティブ(代替)モデルを検討すべき時である」
この勧告に日本を含む五十一カ国が賛成し、反対はアメリカ、棄権はオーストラリアだけでした。これは「食糧主権のビジョン」を国連機関が受け入れたものとして注目すべき動きです。
こうした国民の根本的利益に背を向け、国と地域の経済を破綻させ、戦争する国づくりを進める政治は、多数の国民との矛盾を深め、彼ら自身の支持基盤さえ崩壊させて破綻せざるをえません。
農業・農村の分野でも、「米改革」や「農業構造改革」が推進されているもとで、地産地消の推進や、担い手を拡大して地域農業を発展させる努力、自治体合併の押しつけに対し、住民を主人公にした農業や地場産業振興による自立した自治体づくりの動きも広がっています。
流通の分野でも、大企業の支配や横暴に抗して、消費者の安全・安心の要求実現や商店街の活性化のために、農村や生産者と結びついた努力がはじまっています。
こうした流れは、生活点から生み出される、けっして押さえることのできない力強い「もう一つの流れ」をつくりだしています。
アメリカの覇権主義やWTOを頂点とするグローバリズムに反対し、世界平和や人類の持続的発展、すべての人々が健康的に暮らすことのできる権利や食糧主権を求める国際的な流れも、私たちがめざす方向と一致するものです。
今日の情勢は、希望のない方向に向かっているのではありません。平和や暮らし、農業、流通など、あらゆる分野で抑えがたい要求による力強い「もう一つの流れ」が生まれています。この流れを私たちの奮闘でいかに強く大きくするかが求められています。
[2004年12月]
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