農業・食料・気候危機打開と
アグロエコロジー、「家族農業の10年」を
進める農政へ、要求で広く農民と結びつく
農民連づくりを
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農民連第25回定期大会決議案
2022年12月7日
農民運動全国連合会常任委員会
(7)食料主権・国連 「家族農業の10年」 ・農民の権利宣言の実現に向けて
世界が食料危機に陥ったのは今回が初めてではなく、07年〜08年にも発生しました。このとき国連と国際社会は、アグリビジネス主導の食農システムでは危機に対処できず、貧困削減という目標を達成できないとし、食料と農業に関わる政策の大転換を打ち出しました。それが、「農民の権利宣言」(18年)、国連「家族農業の10年」(19〜28年)とつながります。
これらに貫かれているのは、食料や農業を市場任せにせず、地域を守る小規模家族農家の特別の役割を認め、その発揮のため権利を保障し、抜本的に支援するという考え方です。
食と農の危機に対して最もぜい弱なのは、食のグローバル市場に依存を強めた国であり、日本です。しかし、日本政府は国際社会の変化を尻目に、従来の市場原理モデルを継続しました。
これに対して、農民連は、国際社会の変化に呼応しながら、日本の政治を家族農業重視に転換するためのとりくみを進めてきました。
19年には農林漁業者、食と農の転換を求める市民と共同して、「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」(FFPJ)を結成し、農民連が事務局を担ってきました。FFPJは、月一度の連続講座の開催を軸に、みどりの食料システム戦略や食料・農業・農村基本計画への提言を行い、家族農業10年の国内行動計画を政府に策定させるため、行動計画案の作成にとりくんでいます。
コロナ禍で十分な動きになっていませんが、和歌山県や福島県で地域プラットフォームも結成されました。
スペインなど14カ国では国内行動計画案が策定され、日本を含む28カ国で策定に向けた準備が進んでいます。国連食糧農業機関(FAO)などが主催し、9月には、国連「家族農業の10年」の第1回世界フォーラムが開かれ、家族農林漁業への支援を継続・強化していくことを確認するなど、家族農業10年のとりくみは国内外で進展しています。
【4】地域で消費者とともに農業守る運動を積み上げることが農政転換の力
(1)米危機打開、国産食料の増産へ転換求める
(1)MA米を削減・中止、運用改善させる運動
95年に始まったMA米輸入は国内産米の需要を奪い、米価下落の要因として米農家に重大な影響を与え続けてきました。
しかし、国産米の低米価が続く中で、外国産米の需要も抑制され、SBS(売買同時入札)輸入米は17年度を最後に10万トンの全量を落札できたことはなく、21年度はわずか2万トン止まりとなりました。しかし政府は、不足分は一般MAとして輸入し、「政府統一見解」を唯一の根拠に年間77万トンを達成し続けています。
21年から続く国際的な穀物価格の高騰、急激な円安の進展により、MA米は国産米をはるかに超える価格になっていますが、それでも政府は輸入を強行し続けています。
毎年、アメリカ産米がMA輸入量の約半分を占めており、対米「密約」が指摘されています。1トン当たり25万円もするアメリカ産米が2万円で飼料用に販売されれば、赤字は2倍以上の800億円以上にまで膨れ上がることになります。
税金で穴埋めする無駄遣いをやめさせるため、MA米の削減・中止を国民合意の運動で実現させましょう。
(2)戸別所得補償を復活させる運動
市場米価に左右されないで米を作る基盤づくりのために戸別所得補償の復活を要求してたたかいます。60キロあたり2000円補てんなら700万トンで約2400億円、3000円ならば3600億円の財源で可能です。肥料価格をはじめ資材高騰でダメージを大きく受けている稲作農家の経営維持に大きな役割を果たすことになります。
(3)食料支援の制度化
アメリカでは農務省予算で消費者への食料支援が制度化され、生産者への販売支援の役割も果たしています。アメリカの低所得者用の食料配給プログラムの受給額は、家族構成と月収に応じて決定され、対象食品の指定もなく、カードを提示するだけで野菜や果物、肉や魚、乳製品やパン、シリアルやドリンクなどの援助を受けることができます。
日本でも憲法25条にもとづく生活困窮者への支援策と農業支援策の一石二鳥の食料支援制度の実現を要求します。
(4)水田活用直接支払い交付金カットをやめさせるたたかい
69年に始まった米生産を減らすだけの「減反」政策は、自給率の低い麦・大豆・飼料用作物の増産をめざす政策へと変化してきました。しかし、岸田政権は、長年の農家の協力に冷水を浴びせ、「水田活用の直接支払い交付金」カットを強行しました。
さらに飼料用米助成の大幅カット、備蓄米の削減を狙っています。
農民連は、見直し中止を求めて地域の農協・自治体・議会へ要請運動を展開し、多くの自治体決議を獲得するなど、「見直しやめよ」の世論をつくってきました。
農水省は地方から意見を集約し、課題ごとに対応を検討するなどとしていますが、「見直し」を強行する姿勢は変えていません。引き続き、食料自給率向上とは真逆の交付金カットを撤回させる運動を強化しましょう。
日本の米作りを持続可能なものにするために、前大会で決めた「米を守る7つの要求」を掲げて米を守り、農業と地域を守るとりくみを強化しましょう。
(2)危機に瀕(ひん)する畜産を守る運動
飼料、資材が高騰し、乳価や畜産物価格がコスト以下の価格にとどまっており、このまま推移するなら短期間に日本から畜産の灯(ひ)が消えかねない危機的事態です。
畜産危機は国民が国産の畜産物を手に入れることができなくなる食の一大事であるとともに、環境循環型農業に欠かせない国内産の堆肥を失うことになります。
畜産経営のセーフティーネット制度である配合飼料価格安定制度や牛・豚マルキン制度が破たんしているもとで、もはや国による直接補てんなしには経営は継続できません。政府を突き動かす「直訴運動」や「11・30畜産危機突破中央行動」で結びついた畜産農家や広範な消費者団体との共同をさらに強め、「畜産危機は食の危機」の国民的運動を展開します。
畜産危機は、アメリカの食料戦略に従って輸入飼料依存型の畜産を推し進めてきた戦後の畜産政策の破たんにほかなりません。政府に抜本的な自給飼料の増産対策と、生産費を基準にした畜産物の価格安定制度の実現を要求します。豚熱(CSF)の再発生、鳥インフルエンザなど家畜疾病から経営を守るとりくみを強めます。
(3)消費税減税とインボイス制度の中止を求める運動
最も効果的な物価対策として消費税減税を求める声が大きく広がり、「潮目の変化」が生まれています。
導入から34年が経過した消費税を「社会保障の財源」とうそぶく政府は、軍事費を5年後に12兆円規模にすることを明言し、財源確保のためにさらなる増税を検討しています。また、23年10月からインボイス(適格請求書等保存方式)制度を実施するために、売り上げ1000万円以下の免税事業者に課税事業者への転換を求めているのは、今後の消費税増税のための布石です。
インボイス制度の事業者登録に対しては23年3月末以降も経過措置があるため、急ぐ必要は全くありません。消費税は最悪の農業破壊税です。学習を広げインボイス制度を中止させましょう。
(4)消費者や国民諸階層と手を結んで食料自給率向上、食と農、地域を守る運動
(1)新婦人産直の原点に返り、改定「4つの共同目標」の実現をめざす
新婦人は、情勢を共有し、食と農を守る運動を共同で進めるパートナーであり、新婦人との産直運動は、SDGs・家族農業の10年、食料主権を実現する実践の場でもあります。
新婦人は、19年11月の中央委員会で、国連「家族農業の10年」や日米FTAなどの自由貿易協定、気候変動などの情勢の劇的な変化のもと、「日本の農業と食料、食の安全を守るために、産直運動を大きく発展させることが何より大事であり、産直運動は地域を元気にしている公益性のある運動」と位置づけました。
コロナ禍で食と農のあり方が問われ、SDGsや持続可能な農業と食料システムに貢献する産直運動の発展が求められています。「家族農業の10年」の運動を地域で広げ、家族農業が見直される社会をつくっていく上で、核となる新婦人との産直運動をさらに発展させましょう。
新たな「4つの共同目標」と「確認事項」にもとづき全国の組織全体で教訓を共有することを呼びかけます。「4つの共同目標」実現のために、農民連組織をあげた議論と学習を行い、組織としての信頼回復と運動のさらなる発展をめざします。
「新婦人と農民連の産直運動4つの共同目標」
(22年5月27日改定)
1、新婦人と農民連は、安全で新鮮でおいしい国産の農畜水産物を作って食べて、日本の食料自給率を向上させ、自らと家族の健康を守り、食文化を次世代へ継承します。
2、私たちは、お互いの顔と暮らしが見える交流を活発にして、持続可能な地域社会と農業の担い手づくりをめざします。
3、私たちは、気候危機の打開、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に大きな役割を果たす家族農業が大切にされる社会への転換を求め、アグロエコロジー、食料主権の確立をめざします。
4、私たちは、お互いの組織の発展に貢献する産直運動をめざし、定期的な協議をおこない、課題を共有して改善に努めます。
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(新聞「農民」2022.12.19付)
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