「農民」記事データベース20221219-1534-04

農業・食料・気候危機打開と
アグロエコロジー、「家族農業の10年」を
進める農政へ、要求で広く農民と結びつく
農民連づくりを
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農民連第25回定期大会決議案
2022年12月7日
農民運動全国連合会常任委員会

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(3)国際連帯とビア・カンペシーナ

 多国籍企業の食と農の支配に対抗して、農民連が加盟している国際農民組織ビア・カンペシーナ(農民の道)は、市民社会組織とともに運動を強めてきました。

 ビア・カンペシーナは、国連食料システムサミットのボイコットを呼びかける対抗行動を実施し、6月に開かれたWTO(世界貿易機関)第12回閣僚会議の際には、「自由貿易は飢餓を拡大する。WTOは農業から出ていけ」をスローガンに現地の街頭で抗議デモを実施しました。11月に開かれた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)にも代表団を送り、気候危機打開のカギは、食料主権とアグロエコロジーにあると訴えるなど、活発な国際活動を展開してきました。

 ビア・カンペシーナは、根本的な解決策として、自由貿易体制の転換、食料主権や農民の土地・種子・生産資材への権利などを網羅する「農民の権利宣言」の実施、アグロエコロジーに向けた転換への支援、生産費を支える公正な価格を保障する公共政策、平等と尊敬に基づく新たなジェンダー関係の構築などを求めています。

(4)まやかしの 「みどりの食料システム戦略」

 22年4月に「みどりの食料システム法」が成立し、7月から施行されました。これは、▽国が「みどり戦略」の推進基本方針を策定、▽都道府県・市町村が共同で基本計画を策定、▽基本計画にもとづいて農家や地域を認定、▽認定した農家・地域を金融・税制、補助金で支援する――と明記しています。新たな「担い手の差別・選別」政策です。

 国連食料システムサミットに合わせて作られた「みどりの食料システム戦略」は、2050年までに農林水産業でのCO2排出ゼロを実現するため、化学農薬の50%削減、化学肥料の30%削減、有機農業の面積を100万ヘクタール(全農地の25%)に拡大するなど、14の目標を掲げています。

 しかし、「戦略」がかかげるのは、遺伝子組み換え技術を使ったRNA農薬やスーパー品種の開発、巨大デジタル産業を軸とする無人操舵(だ)のトラクターやコンバイン、ドローン駆使など農民不在のスマート農業です。特に「40年までにネオニコチノイド系農薬など従来の殺虫剤を使用しなくてすむような新規農薬を開発」とするなど、すでに世界的に使用禁止が広がるネオニコ系農薬を、日本は40年まで使い続けることを宣言しています。

 有機農業の目標も、「40年までに多くの農業者がとりくむことができる技術を開発し、50年までに25%にする」としています。これは、農民と消費者が共同で築き上げた有機農業の技術を横に置いて「工業的スマート農業」を推進するものです。

 いま求められているのは、日本国内でとりくまれている有機農業の豊富な実践を検証・普及し、家族農業経営や新規就農者に手厚い支援を行うことです。そうしてこそ、有機農業の面積も、その担い手も40年を待たずに飛躍的に広がるでしょう。

(5)「食料・農業・農村基本法」見直しのねらい

 岸田政権は「食料・農業・農村基本法」の見直しを進めています。戦後最悪の食料危機に直面しているいま、旧基本法以来60年の歴史を振り返って未来を見据えることが求められています。

 (1)自由化と新自由主義農政を押し付けた60年――その成れの果てが今日の飼料・肥料高騰による壊滅的な打撃
 1961年の旧基本法は日米安保条約と貿易自由化計画、99年の現行基本法はWTO協定の受け皿でした。

 とくに旧基本法の「選択的拡大」と麦・大豆・飼料の“安楽死”政策によって、輸入自由化と効率主義・規模拡大が推進されました。拡大品目に指定された畜産はアメリカ産の輸入飼料依存が押しつけられ、野菜など耕種農業は化学肥料・農薬依存にさせられました。この成れの果てが今日の飼料・肥料・燃油高騰による壊滅的な打撃です。

 「選択的拡大」品目であった牛肉・オレンジの自由化に続いて、米まで直撃されて77万トンものMA米の輸入を押しつけられています。さらにTPP(環太平洋連携協定)、日米・日欧FTA(自由貿易協定)・RCEPなど巨大FTAが強行されるなど、究極の自由化が吹き荒れた60年でした。

 さらに安倍政権以来、米生産調整の自己責任化、種子法廃止、農協改革、農地法「特区」など、新自由主義農政が押し付けられました。

 この結果、食料自給率は下がり続けています。食料危機のいま、このぜい弱性を抜本的に立て直さなければなりません。

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酪農・畜産農家の窮状を訴えた畜産危機突破緊急中央行動=11月30日

 (2)「輸出戦略」に前のめり、 食料危機は他人事
 農政審(食料・農業・農村政策審議会)の「基本法検証部会」の議論は始まったばかりですが、失政の立て直しどころか、さらに新たな危険な方向をめざす逆行性が現れています。

 第一に、農水省は検証部会に、「人口が減少する国内市場のみを対象とすることは、持続可能な農業の制約要因」だとして、「農業を海外市場も志向する産業に転換する必要がある」と報告しています。

 しかし、人口減少で「過剰」になっているのは米だけであり、畜産物や野菜、果実は軒並み自給率が低下しています。これらの作物や麦、大豆、飼料の国内向け需要は無限といっていいほどあります。「農業の制約要因」どころか、国内生産拡大にとってはチャンスであり、増産が今ほど求められているときはありません。

 政府の本当の狙いは「みどりの食料システム戦略」で、有機農産物の輸出で生き残る農業だけに重点投資し、50年に輸出のための有機栽培面積が100万ヘクタールあれば十分、あとは野となれ山となれで、国民の食べる食料は輸入で賄えばいいというものではないかといわざるをえません。

 検証部会で合瀬宏毅委員(元NHK解説委員)は「自給率の低い日本が輸出を目指す意味は何なのか。米国などと同じではないはずだ。消費者は、税金を使って海外の人たちにおいしいものを食べさせるような政策に疑問を持つだろう」と発言するなど、批判が相次いでいます。

 第二に、輸出戦略に前のめりの政策をあらわにする一方、食料や飼料・肥料については「輸入の安定に関する施策を検討する必要があるのではないか」などと、きわめておざなり、他人事です。無反省もはなはだしいといわなければなりません。

 (3)国内増産に必須の価格保障は放置
 農水省は「農業と他産業との所得格差を是正」するために「価格により所得確保をはかる」としてきた旧基本法を拒否して、「価格形成は市場に任せ、所得は政策にゆだねる」ことにした現行基本法の政策を続けると宣言しています。

 しかし、都市勤労者並みの生産費を償う価格保障を行うのは農業政策の基本です。

 検証部会で中家徹委員(全中会長)は「現行基本法では『合理的な価格』としか書かれていないが、『再生産可能な価格』の実現は、今回の基本法見直しの最重点事項だ」と発言しています。

 アメリカ・EU(欧州連合)では生産費にもとづく価格で政府が穀物・乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持しており、米欧の乳価は2年間で34〜55%上昇しています。この違いは何なのでしょうか!

 (4)基本法見直しの行き着く先は 「輸出産業化」と「IT化」、これでは打開策にはならない
 岸田政権は、食料安全保障の名のもとに小麦や大豆の「国産化」、「みどり戦略」による肥料・農薬の削減・国内資源の活用をうたい、20年基本計画に「多様な担い手」を書き込み、一定の方向転換をしたかのように見せかけています。

 しかし、基本法見直しの名のもとに進められている「輸出産業化」と「IT化・工業的大規模農業化」政策は、自由化と新自由主義農政のままであり、とうてい「打開策」にならないことは明白です。

(6)増産と環境にやさしいアグロエコロジーこそ持続可能な農業

 農民連は第24回大会で、「アグロエコロジーに挑む」と決議し、その実践のためアグロエコロジー推進委員会を設立し、全国研究交流集会や委員会、新聞「農民」紙上での模索を続けてきました。

 アグロエコロジーを進める農民連の原則は次の点にあります。(1)アグロエコロジーは分断を生み出す考えではなく、日本農業の伝統知を引き継ぎ、生態系の能力を引き出して土も作物も強くする、(2)生態系を生かす方法は土地によって異なり、原則を学び、自分の頭で自分の地域に合ったアグロエコロジーを探し出せる力を身に着けよう、(3)技術論にわい小化することなく、日本の農政や食料システム・環境政策を変えていく運動として位置づける。

 全国の実践交流も、新婦人との有機野菜ボックス(栃木)、「あだたら食農スクール・ファーム」(福島)、学校給食パンの小麦を県産にする運動(和歌山)、環境保全米づくり(宮城)、生産する消費者との共同(奈良)など様々です。

 こうしたとりくみの上に、第25回大会に提案される「アグロエコロジー宣言(案)」を討議しながら実践を仲間とともに進めましょう。

(新聞「農民」2022.12.19付)
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2022年12月

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