「農民」記事データベース20220131-1490-05

要求で農民と広く結びつき、
組織を飛躍させて
「家族農業の10年」の農政に
転換しよう
(3/6)

2022年1月13日
農民連全国委員会決議

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(4)家族農業・食料主権・農民の権利・アグロエコロジーで自然と共生する公正な社会を実現する

 (1)家族農業重視で食と農の力を発揮

 新自由主義的な食と農の政策は、輸入食料・飼料・エネルギーへの依存と自給率の低下、農村の貧困、高齢化、人口流出、農地や森林、生物多様性の減少、自然災害被害の甚大化を招き、ウイルスに弱い社会をもたらしました。

 食料主権に基づく政策に転換し、食と農が本来持っている力を取り戻すことで、危機を打開し、持続可能な環境と社会をつくることができます。そのために家族農業・農民の支援を抜本的に強めようという動きがすでに始まっています。

 国連は家族農業を「持続可能で包摂的な食料システムを創出・維持する主体であり、SDGsの実現に貢献する」と位置づけ、2019〜28年を「家族農業の10年」とし、18年には「農民の権利宣言」を採択しました。両方を一体的に日本で追求する枠組みとして「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」が設立され、政策提言や学習交流活動を行ってきました。

 (2)アグロエコロジーの特徴と推進の動き

 家族農業が潜在力をさらに発揮するために、いまとりわけ求められているのがアグロエコロジーです。アグロエコロジーは農民が主体となって生態系の力を活用してとりくむ持続可能な農業で、次のような特徴があります。

   1 自然と地域の循環
 生態系の力、地域に根ざした種子・作物・技術・資源を活用して循環と再生を促進する。

   2 公正な社会を実現
 農民と農村住民の生活、地域社会を豊かにし、都市との格差、農村内の格差や差別を是正し、社会の公正さや多様性を実現する。

   3 共生部門の拡充
 協同組合、産消提携、地域市場、学校給食をはじめとする公共調達、連帯経済など、持続可能な食と農を支えるために、利潤追求を目的としない共生部門を拡充する。

 国際社会はすでにアグロエコロジー重視で動きだしています。国連は10要件、13原則を発表するなど、推進のためのルール作りや情報発信に力を入れています。フランスは14年の「農業・食料・森林の未来法」でアグロエコロジー推進を打ち出し、EU(欧州連合)全体でもアグロエコロジーと家族農業重視の政策が進んでいます。同じ動きは中南米やアフリカ、アメリカでも広がっています。

 (3)農民連がアグロエコロジーの牽引者になろう

 農民連は、食料自給率の向上、産直・地産地消、ネオニコフリー、学校給食での地元産農産物の活用など、アグロエコロジーと重なるとりくみをしてきました。昨年は、アグロエコロジー推進委員会を立ち上げ、夏の全国研究交流集会のテーマにも据えるなど学習や交流を進めてきました。これらを土台にして、家族農業・食料主権・農民の権利・アグロエコロジーを通じた自然と共生する公正な社会を実現するために力を尽くします。めざすのは、人間も動物も健康になり、農家も農村、都市生活者も豊かになり、ミツバチやカエルのいる多様性ある生態系、美しい田園を取り戻し、自然災害にもウイルスにも強く、すべての人の食べる権利が保障される安心の持続可能社会です。

【3】地域から農業を守る運動の積み上げが農政転換の力

(1)米危機打開へ、 さらに反撃し転換を求める

 (1)市場任せの米政策の破たん

 20年春からの新型コロナウイルス感染拡大が外食需要を消滅させ、米の販売不振と価格下落をまねくという事態のなかで、農民連は全国農業協同組合中央会(JA全中)など農業団体、米穀業界団体への協力要請や、政府に対する要求行動をしてきました。

 しかし政府は、市場隔離を拒否しました。20年10月16日に開催した食料・農業・農村政策審議会食糧部会で、前年度の需要減少分20万トンのうち、10万トン程度はコロナによる減少と試算しながら、市場隔離を拒否し、新たに6・8万ヘクタール、30万トンの「減反」を生産者に押し付けることを決めました。この結果、21年産米の生産目標は「平成の大不作」となった1993年の生産量をも下回る693万トンに削減されました。

 しかし減反拡大目標は基本的に達成されたものの、政府の無策によって、21年産米の概算金が大暴落し、特に業務用に向けられる産地銘柄では前年比1俵(60キロ)3000円〜4000円も下落、7000円台まで暴落した銘柄もあり、全国の米農家の経営に大打撃をもたらしました。

 9000円米価では、物財費すらまかなえず、農水省が推進してきた大規模法人でも経営が維持できない水準であり、稲作が根底から突き崩される事態です。

 安倍内閣による「米戸別所得補償」の廃止と政府の米需給調整からの全面撤退、「需要に応じた米生産」という農民に自己責任を押し付ける米政策が大破たんし、そのしわ寄せが生産者にかつてない打撃をもたらしています。無責任な農政を転換することは喫緊の課題です。

 (2)全国の運動が農政を動かした!

 「米危機」のもとで農民連は、20年春から政府による米在庫の隔離対策、コロナ禍における生活困難者への食料支援の制度化、MA米の輸入停止などを求めて、繰り返し農水省要請を行い、全中・全集連(全国主食集荷協同組合連合会)・全米販(全国米穀販売事業共済協同組合)・日米連(日本米穀商連合会)・主婦連合会などとの懇談を重ねてきました。全国でも自治体要請やJA組合長との懇談、地方議会への請願・意見書運動、テレビ放映された軽トラパレードや対県交渉などが世論を動かし、5野党が農民連の要求に足並みをそろえて総選挙をたたかうという歴史的成果につながりました。

 「米危機打開11・25中央行動」での農民連の過剰米の市場隔離要求に対し、農水省は、隔離効果のある「15万トン特別枠」は保管2年目以降も市場に出回らせず、複数年にわたって隔離効果が続くことを明言しました。これまで、市場隔離要求を拒否し続けていた政府が政策転換し、事実上の「民間備蓄」の実施を言明したものであり、農民連のたたかいの成果です。

 しかし、米価問題は何ら解決していません。市場隔離と食料支援の実施、市場任せの米政策の転換を求めて運動を広げましょう。

 (3)暴落対策はとらずに減反拡大、 そのうえ補助金引き剥がしは許されない

 政府は今年から、今後5年間で米を作付けしない水田を「水田活用の直接支払交付金」の対象からはずし、補助金の減額・引き剥(は)がしを強行しようとしています。

 もともとは「米の生産ができない農地、米以外の生産が定着している農地を交付対象から除外すべき」との財務省の不当な圧力を背景にしたものですが、これが実施されれば、転作割合の高い北海道をはじめ、農家への打撃は計りしれず、米危機にいっそう拍車がかかることは必至です。

 水田活用交付金は、麦・大豆・多年生牧草は10アール3・5万円、そば・ナタネは2万円ですが、5年間米を作付けしない場合、これがすべてなくなります。長年、政府の方針に従って転作に協力してきた農家を交付金の対象から排除し、経営の存続さえ危うくするのは重大な裏切りです。

 まともな米価暴落対策をとらず、史上最大の減反を押しつけたうえに、水田・転作経営に不可欠な交付金を奪い取る岸田政権の暴政を絶対に許さず、全国で水田活用交付金改悪反対の大きな運動を発展させましょう。

 (4)MA米の削減・廃止を

 必要のない外米を77万トンも輸入し続け、農家には減反を押し付ける歪んだ米政策を改めさせる運動は、今後の米を守るたたかいの中で重視すべき課題です。政府はMA米の輸入が始まって以来、「米輸入による生産調整の強化は行わない」「主食米の需給に影響を与えない」などと、農民をだまし続けてきました。

 生産調整は農家自らが行うものとし、消費量減少の責任を農家に押し付けながら、毎年77万トンもの外米を輸入し、国産米の需要を奪い続けています。

 毎年、1トン当たり10万円もするアメリカ産米がMA輸入量の約半分を占めており、対米「密約」が指摘されています。最近は毎年60万トンが1トン当たり2万円で飼料用に販売され、外米処理だけで毎年300億円の赤字を発生させています。

 世界の米の貿易量は生産量のわずか9%程度で、米は穀物の中でも自給が基本の作物です。世界的な新型コロナ感染拡大や気候危機が飢餓人口を増加させているもとで、輸入に頼る日本の食料政策の転換は待ったなしです。広くMA米の害悪を知らせ、輸入量を削減・廃止させる運動が求められます。

 (5)水田の多面的機能評価に対する合意をつくりだそう

 水田の多面的機能は6兆9千億円と試算され、「田んぼダム」の公益的機能評価だけでも10アールあたり年間3万9千円に相当するとの試算もあります。生態系と環境を守り、水源の涵(かん)養、洪水防止など水田の機能に対する正当な評価と直接支払いを拡充し、家族農業を守り、アグロエコロジー技術を定着させ、稲作でも後継者が育つ環境を作り出すことが緊急課題です。そのためには、国民的合意を作り出す運動が決定的に重要です。

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農民連全国委員会で開会あいさつする長谷川敏郎会長(左から2人目)=1月13日

 (6)米を守る7つの要求で大同団結を

 21年10月末には60万トン以上の20年産古米在庫があり、22年10月末までに販売できないことは明らかです。22年産米価格を回復させるには「15万トン特別枠」だけでは、全く不十分です。引き続き、政府による買い入れなど、さらなる市場隔離が必要です。

 米危機打開は大同団結できる要求です。地域から米穀流通業者や消費者との共同を広げ、JAや自治体との懇談、政党への政策的な働きかけを強めましょう。

 各地で「農業を考えるつどい」を積極的に開催するなど、米を守り、農業と地域を守るとりくみを強化しましょう。

 無策な政府に対して、暴落補てんや来年の作付け対策など、独自の対策を実施する自治体が全国に大きく広がっています。富山県や群馬県館林市などでは、ひとり親世帯などに食料支援のために「おこめ券」が配布されています。

 各地で「農業を考えるつどい」を積極的に開催するなど、米を守り、農業と地域を守るとりくみを強化しましょう。

 日本の米作りを持続可能なものにするために農民連は次の7項目を要求します。

 1.生産者に責任を押し付けるだけの生産調整方式を改め、国が米の価格と需給に責任をもつこと。

 2.あらゆる用途の米を国がコントロールし、ゆとりある備蓄米制度を確立するとともに、備蓄米を機動的に需給調整に活用して米価の安定をはかること。

 3.生産費を基礎にした価格保障制度を実現すること。当面、廃止された戸別所得補償・米価変動補てん交付金を復活させること。

 4.多面的機能・環境保全型・中山間地対策など、直接支払い制度の利用拡大と支払額の増額を行うこと。

 5.国内消費に必要のない外国産米(MA米)の輸入は中止し、少なくとも国内の需給状況に応じた輸入抑制を直ちに実行すること。

 6.主食用米から飼料用米等への転換にあたっては、産地交付金などを増額し、主食用米並みの所得を生産者に補償し、稲作経営の安定をめざすこと。長年「減反」に協力してきた農家の苦労をないがしろにし、大幅な減収をもたらす水田活用交付金の廃止・削減は行わないこと。

 7.国産農産物の需要拡大にもつながるアメリカの補助的栄養支援プログラム(SNAP)のような食料支援制度を創設すること。

(新聞「農民」2022.1.31付)
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2022年1月

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