「農民」記事データベース20081222-858-09

農民連第18回定期大会決議(案)

「ものを作ってこそ農民」、
今こそ食糧主権を!20周年の蓄積を生かし、
たたかいと組織を飛躍させよう!(3/6)

2008年12月5日 農民運動全国連合会常任委員会

関連/「ものを作ってこそ農民」、今こそ食糧主権を!20周年の蓄積を生かし、たたかいと組織を飛躍させよう!(1/6)
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(4)国際的な食糧危機のなかで際立つ農政の混迷

 穀物在庫が史上最低を記録するなかで、穀物相場が短期間に2倍、3倍に高騰し、途上国では暴動が起き、穀物の輸出を禁止する国も相次いでいます。この原因は、気候変動、人口の増大と発展途上国の経済発展による食糧需要の増加、バイオ燃料ブーム、そして、こうした食糧需給のひっ迫につけ込んだ投機にあります。

 食糧危機は、食糧の奪い合いを激化させ、多くの国や多国籍企業が飢餓に苦しむ途上国の農地を奪いあう事態となっています。憲法改悪をねらう勢力は、食糧の安定確保のためのシーレーン防衛が不可欠だとし、そのための自衛隊の海外派兵を主張しており、食糧危機は、こうした世界の平和秩序を脅かす要因にさえなりかねません。

 穀物相場は、一時期より下落したとはいえ、高止まりにあり、FAO(国連食糧農業機関)は「金融危機が途上国を含む多くの国の農業に悪影響を及ぼし、食糧危機は、今後ますます深まる恐れがある」と指摘しています。

 いま、金を出せばいつでも食糧を買いあさることができる時代は終わりつつあり、食料自給率がカロリーで40%、穀物で27%の日本にとって死活にかかわる事態が進行しています。

 戦後、工業製品を輸出することと引き換えに、農産物の輸入自由化で食糧の外国依存政策を推し進め、国内農業の縮小政策を推進してきた政治の行き詰まりを象徴しています。

 いま求められているのは、あらゆる資源を投入した農業生産の拡大であり、食料自給率を向上させる農政への転換です。しかし、自公政治は、こうした変化に対応できず、世論に押されて自給率を50%に引き上げることを打ち出しながら、EPA・FTA戦略、生産者の大多数を生産から締め出す「農業構造改革」の推進、市場原理の名のもとに資本の買いたたきと流通支配のための規制緩和・撤廃、米を輸入しながら4割に及ぶ強制減反など、破たんした政策に固執し続けています。この結果、米価は時給換算で179円(07年)まで低下しており、畜産、畑作、果樹も重大な困難に直面しています。農業破壊による農業経営の危機は、雇用、福祉・医療などの悪政とも相まって、農村集落を「限界集落」「危機集落」へと追いやっています。

 1、窮地に立つミニマムアクセス米

 汚染されたミニマムアクセス米の不正流通事件は、WTO協定上は「輸入機会の提供」にすぎないミニマムアクセス米を、アメリカの圧力で「義務だ」とねじまげて輸入し続けてきたこと、小泉「改革」で米流通への政府の責任を放棄して、規制を撤廃したことにあります。

 ミニマムアクセス米は、政府が国内の米需給に影響を与えないという約束で95年からスタートしましたが、主食にも加工用にも使われ、米価暴落と4割の強制減反、農村破壊と農民の苦しみの元凶になり、食の安全を脅かし続けてきました。

 農民連は、制度発足以来、制度の廃止と輸入削減を要求し、03年には黒龍江省の視察を踏まえ、国民の命と健康を守る観点からミニマムアクセス米流通業者の情報公開を要求するなど、一貫してミニマムアクセス米とたたかってきました。

 そして汚染米事件発覚以来、全国的な運動を力に真相解明と政府の責任追及、ミニマムアクセス米の輸入をストップさせるために全力をあげてきました。県、市町村議会への請願運動は、これまでの否決から可決に回った議会を含めて200を超え、農業委員会の建議も広がりました。繰り返し行った農水省や農政局交渉など、農民連の奮闘は、マスコミにも注目され、世論を揺り動かし、政府を追い詰める大きな力となりました。

 そして、これまでミニマムアクセス米にまともに向き合うことのなかったJA全中が、生産調整を強化されている中での義務輸入に怒りを表明し、輸入の削減、「義務的輸入」の政府統一見解の見直し、国内需給に影響を与えないことなどを政府に申し入れたことは大きな前進でした。

 こうした世論と運動に押されて政府は、「事故米」の商社責任による積み戻しや廃棄処分、業者名の公開、米商品への原産地・原産国表示の義務付けを検討するに至っています。13年間の粘り強いたたかいで、ミニマムアクセス米を重大な段階に追い込んだことは歴史に刻むことができる成果です。

 2、「農業構造改革」の破たんと混迷

 (1)「米改革」路線の破たん
 「米改革」が始まってからの5年間、米価は下がり続け、生産者の手取りは生産費を5000円(60キログラムあたり)も下回り、時給は179円(07年)と、安すぎる労働者の最低賃金の4分の1の水準になっています。

 米価下落の原因は、政府が米の管理責任を放棄して米流通の規制を撤廃したもとで、大手スーパーや大手外食産業、そして大手米卸が価格破壊と買いたたきを繰り返していることにあります。また、「回転備蓄」に固執する政府が古米を安値で放出して市場をかく乱していることです。MA米も米価下落の強い圧力になってきました。

 政府は米の需給実態を覆いかくすために期末在庫の基点を10月末から6月末に変えましたが、従来の10月末で見れば期末在庫は数年来、マイナス状態にあり、たった1年の不作や作柄の遅れで米パニックを招きかねない危うい状況にあります。

 しかし政府は、米価下落の原因を「米の過剰」にすりかえ、08年度は新たに10万ヘクタールの減反を上乗せし、ペナルティーを復活させ、自治体、農協に加え業界まで動員して推進しました。しかし、農家や世論の反発で500億円の「緊急対策」も消化しきれないまま、不発に終わりました。

 一方、過剰であるはずの米の価格が急上昇し、中小卸や米屋に十分に供給されないという事態が引き起こされ、政府は備蓄米として買い入れた新米を販売するにいたりました。

 こうした混迷は、米流通を民間任せにし、価格と需給のコントロールを生産調整だけで行うという「米改革」の限界を示しています。「米改革」を中止し、再生産が可能な米の価格保障と、国民に安全な米を安定的に供給することに政府が責任をもつ新たな米システムの構築は急務です。

 (2)「農業構造改革」をめぐって
 前大会でたたかいの焦点の一つと位置付けた品目横断対策(水田・畑作経営安定対策)は、実施1年にして制度の矛盾が噴き出し、面積要件についての市町村特認、認定農業者の年齢制限の廃止・弾力化、集落営農組織に対する法人化等の指導の弾力化、小麦、てんさいの交付金の上乗せなどの手直しに追い込まれました。しかし、自由化と市場原理を前提に、多数の農家を生産から締め出す政策は、一部を取りつくろっても本質的な矛盾の解決にならないことは明らかです。

 農民連は、多数の農家を生産から締め出すという対策の本質やねらいを暴露し、政府に対策の中止を要求して全国的な運動を展開してきました。また、すべての農家を対象に価格保障を軸にした政策への転換を要求し、世論の構築に努力してきました。こうした運動が、農家の怒りを呼び起こし、07年夏の参院選で自公両党に審判を下すことにつながりました。

 (3)規制緩和と買いたたき
 大企業製品と輸入食品の価格は上がる一方で、野菜や果物など国内産の農産物だけが超安値という状況が続いています。農産物価格の下落・低迷は、輸入農産物による影響に加えて、常軌を逸した買いたたきによるものです。イオングループは08年10月18日から食品を含む1000品目を10〜30%値引きするために、超安値の米、農産品を納入業者に要求し、主要スーパーも追随しています。

 こうした値引き販売が、大手スーパーの利益を減らさず、もっぱら生産者を買いたたいて実施されていることは許せません。買いたたきのテコになっているのが、規制緩和によって市場法が改悪されたためセリが消えて相対取引が主流になっていることです。買いたたきの規制と、買いたたきを許さない流通システムの構築は、国内産の増産をはかるためにも急務です。

 3、深刻な畜産危機、資材価格の高騰

 国際的な穀物相場の高騰は、飼料の75%を輸入に依存している日本の畜産を直撃しています。飼料価格は1年間にトンあたり2万5000円以上も値上がりし、畜産経営の存立にかかわる事態となっています。

 農民連と畜産農民全国協議会(畜全協)は、政府、乳業メーカーにコストアップを吸収できる乳価引き上げや飼料対策などを要求して運動してきました。運動が広範な畜産農民に影響を与え、酪農民の自主的な運動も広がり、あわせて13円の乳価の引き上げを実現したことは不十分とはいえ大きな成果でした。

 穀物価格高騰の主要因であるトウモロコシのバイオ燃料への使用を規制することや、穀物・原油市場への投機の規制は待ったなしの課題です。そして、穀物価格の高騰の長期化が予想されるなかで、輸入飼料に依存しながら多頭飼育を誘導してきた畜産政策を改め、日本の条件に合った畜産経営への転換を支援することが求められています。肥料、ビニール、ダンボールなど、あらゆる生産資材の高騰が農家経営を脅かしています。08肥料年度は平均で65%も値上がりし、今後の供給さえも危ぶまれる事態となっています。

 4、農地制度、都市農業をめぐって

 戦後農政の柱である耕作者主義にもとづく農地制度を解体し、株式会社が農地を所有できるようにする財界の要求にもとづいて、一貫して策動が強められてきました。また、農地法の適用を除外する経済特区や、政府が株式会社の農業参入を推進するなど、既成事実作りも行われてきました。しかし、農民連や農業委員会系統を中心にした運動で農地制度の解体を阻止し続けていることは重要です。

 同時に、国際的な食糧需給の悪化を口実に、自作農主義を転換して農地貸借の原則自由化や、農業生産法人出資制限の緩和などを内容とする農地法改悪が09年の通常国会に提出されようとしています。都市農業の重大な障害になっている市街地区域農地に対する課税強化の動きも重大です。

 食糧主権を実現するうえで決定的に重要な政策は農地改革です。日本の農地改革が発展途上国から農地改革のモデルとして注目されているなかで、“新地主”(株式会社)に農地を支配させようという動きは逆行であり、許されません。都市の農地は、貴重な生産基盤としての役割とともに、環境や空間、防災など重要な役割を果たしており、都市住民の財産として保全すべきです。

(5)農と食をめぐる国民世論の変化と運動

 世界的な食糧危機と中国製冷凍ギョーザ事件など、食の安全や信頼を脅かす事件が相次ぐ中で、消費者の動向に大きな変化が生まれています。内閣府が08年11月に発表した世論調査によると「外国産より高くても国内産を」という国民が94%に達し、87年の調査より22ポイントも増えています。一方、「外国産の方が安い食料は輸入を」は20%から3%に減っています。この世論は、私たちの運動の成果であり、日本で食糧主権確立を進めるうえで何よりもの力となるものです。こうした世論が反映し、消費者が生産者の顔が見える産直への期待を高め、直売所などの販売額の拡大にもつながり、スーパーなどでの地産地消コーナーも増えています。

 国際的な食糧需給や消費者の変化のなかで、ギョーザ事件の当事者となった生協のなかに、生協運動の原点に立ち返る努力が生まれていることは注目される動きです。

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G8サミット対抗行動で市民に訴える農民連の女性たち(08年7月)

(6)生活を脅かす大企業の利益のための「構造改革」「規制緩和」

 小泉「構造改革」以来の政治がもたらしたものは、雇用の非正規化、福祉・医療の破壊と負担増などの生活破壊でした。この結果 、年収200万円未満の労働者が1040万人を超え、金融危機を口実にした非正規労働者の雇用打ち切りが重大な社会問題になっています。社会保障の伸びを毎年2200億円も削減したことが、医師や看護師不足、救急患者の受け入れ拒否、後期高齢者医療制度などとなって国民を苦しめています。

 税制をめぐっては、大企業と大金持ちへの減税を継続する一方、07年度から所得税と住民税の定率減税が撤廃され、住民税は一律10%になって税負担が数倍に跳ね上がり、国保税や介護保険料の負担も大幅に増やされています。こうしたもとで、国保の滞納者が激増し、保険証が取り上げられて病気になっても医者にもいけないという国民皆保険制度が崩壊する事態になっています。

 また、麻生首相が3年後の消費税率引き上げを公言し、政府税調も増税の方向を打ち出すなど、重税をめぐって緊迫した事態がつくられています。

(新聞「農民」2008.12.22付)
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2008年12月

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