「農民」記事データベース20051205-711-05

9割の農民を切り捨て「担い手」をふるい落とす(2/3)

「品目横断的経営安定」対策の正体

関連/徹底検証/農水省の「品目横断的経営安定対策」は日本の農業をどこに導くのか!?
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混迷するWTO交渉

たたかう展望は大いにある

まだ、たたかう場がある  ところで、「品目横断的対策」は、畑作物が中心だ。米は、「稲得」と「担経」を廃止して、面 積基準を満たす稲作農家だけ、ナラシ対策の対象にする。基準を満たさない農家には、手切れ金のようなごく少額の“新稲得”をつくるようだ。これも大問題だが、それにしても畜産や果 樹、野菜などには何もない。

  稲作地帯だと、転作の麦・大豆が何よりも問題。支援の対象外の農家は麦・大豆なんてやめちゃって米作りに戻る可能性が高い。そうなると米価はさらに下落する。

 次に狙うのは米、 乳製品か

  たしかに米を含めて五品目だけ抜き出して、「品目横断的対策」だという打ち出しには無理がある。ただ、この対策はまったくWTOにそくしたものだ。とりあえずこうして政策の土台を作っておいて、WTOで敗北するたびに、その品目を放り込もうと、政府は考えているんだろう。

 さしずめ、次は米。いま米には四九〇%の関税がかけられ、輸入米は一俵約二万四千円だが、関税が一〇〇%に下がれば八千円前後で入ってくる。そうなった時、稲作農家もゲタ対策の対象にするんだろうが、ケチな小泉内閣のことだ、内外価格差を埋める水準になるとはとうてい考えられない。その次は、乳製品か。

 WTO交渉を中止させよう

  しかし、WTOは今、香港での閣僚会議を前に破たん状態なんじゃないの。

  その混迷ぶりは想像以上だ。ここに大きな展望がある。WTOのラミー事務局長は香港での「完全な合意」を断念し、「香港を中間ステージにしなければならない」と公言している。

 そして、農民連は香港に百人を超える代表団を送る。私たちの要求は、もはや不可能になった合意の追求をやめてWTO交渉を中止することであり、最終的には農業・食糧の分野からWTOを追い出し、食糧主権にもとづく新しい貿易ルールを作ることだ。


自治体などに働きかけ

農家すべてを支援対象に

現場の基準で対象拡大を  そうなれば、今度の対策は前提を失う。ちょうど「新政策」がウルグアイ・ラウンド合意をあてこんではずれたのと同じように。

  早晩破たんする対策なんだから、それまでどうやって地域の生産を維持していくかが大事だな。そのためには熊さんのところのような自治体の柔軟な対応を引き出すことも必要だ。

 ところが、うちの市の基本構想では、農家所得の目標が六百三十万円になっている。この根拠がバカげていて米一俵二万二千円で計算している。

  それは“やる気がありません”と言っているようなものだ。

  北海道は、七百万円だった所得目標を四百八十万円に下げることを決めた。これは、認定農家の対象になる農家を増やすためだ。

 特例には、「農地が少ない地域」「転作受託組織」「複合経営など」の三つあって、「複合経営」の場合は、所得が自治体の決めた目標の半分というのが基準。特例のほかに、知事による特認もある。

  その特例は、対策そのものが現実離れしすぎていて、ハナから逃げを打ったという面もある。だったら、使わない手はない。当座、自治体に働きかけて、現場の基準でいかに対象を広げるかというのも現実的な運動のテーマになる。

  それともう一つは集落営農の問題。とにかく補助金をもらうんだと、特定農業団体づくりに目の色を変えている農協や自治体もある。これをどう見るか。

 集落営農の多様な発展の支援を

  本来、集落営農は、高齢化した農村が生産を続けられるように助け合いの精神で始まった。今の農業の現実は、共同という発想がなければ守れない。農家の自主性を生かし、地域に合った多様な展開が求められる。

 しかし、補助金目当てで作った集落営農がうまくいくとは思えないね。それは補助金が削られる、また米価が下がるという問題もあるが、最大の理由は押し付けだということ。

  補助金で釣ることは、せっかく農家が自主的につくった集落営農をつぶすことにもなりかねない。既存の集落営農の大部分は機械の共同利用だ。しかし支援の対象になるには、経理の一元化などをおこなって特定農業団体にならないといけない。ハードルを設けずに、今ある集落営農を支援することこそ重要だ。


農地法と農協の解体

これが財界がねらう戦略

  特定農業団体になるには、経理の一元化とともに、五年後に法人化する計画を立てる、主たる従事者の所得目標を持つことなどが条件だ。そこで農水省に「実現されなかったらどうするんだ」って聞いたんだ。そうしたら「(主たる従事者が)個別経営になればいいんです」と、さらっと言っていた。

  農水省だって集落営農が最終的にきれいにまとまるとは思っていないんだ。要するに過渡的な形態を作って、その間に中小農家をふるいにかけるのが目的だ。

  こういった政策をやって、農家をどんどん減らし、耕作放棄地を増やせば、農地の値段もどんどん下がる。最後のどんづまりは、集落営農が破たんしたり、個別大規模経営が投げ出した農地を資本がかっさらう。それまでに農地法を改悪して株式会社も農地を持てるようにしよう、農協も事業を分割してつぶしてしまおう――財界は、ここまでにらんでいる。

(新聞「農民」2005.12.5付)
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2005年12月

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