「農民」記事データベース20051205-711-04

9割の農民を切り捨て「担い手」をふるい落とす(1/3)

「品目横断的経営安定」対策の正体

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自給率の向上に逆行

生産意欲そぐ「支援」対策

  ところ変われば、農業の姿もずいぶん違うなぁ。私らの町は約二万ヘクタールの農地に、農家は七百五十戸。私は三十六ヘクタールの農地で、てん菜、小麦、大豆など豆類を作っている。十勝の畑作はこれにバレイショを加えた四品目で輪作をやる。

 私自身は、認定農家の面積基準(十ヘクタール)をクリアするが、実は町内に十ヘクタール以下の農家も百四十戸近くある。当面、農業を続ける意欲があるすべての農家が支援を受けられるようにすることが課題だ。私たちの町は、本人から申請があったものについてはすべて認定農家に認定することにした。

しかし先日、農水省に「自治体が認めた農家はすべて支援対象にせよ」と要請したが、ついに首を縦に振らなかった。

 そうなると、支援を受けて一俵(60キロ)九千円の小麦を作る人と、支援を受けられず二千三百円で作らざるをえない農家が出てくる。これでは機械の共同利用も崩れてしまうよ。

 「ナラシ」「ゲタ」これも大問題だ

  二千三百円じゃあ、種子・肥料・機械代にもならないだろう。結局、支援を受けられない農家は農業をやめなきゃならない。一方の「担い手」はどういう支援を受けられるんだい。

  通称、「ナラシ」と「ゲタ」と言われるんだけど、これも大問題さ。ゲタ対策は、過去の作付面積にもとづく支払いと各年の生産量・品質にもとづく支払いに分けられるが、生産量にもとづく支払いはWTOの削減対象。年々削られる可能性が高い。また、作付面積にもとづく支払いは、過去に四品目を作付けした農地にしか支払われない。

  というと、例えばお前さんが、離農した酪農家が牧草を作付けしていた農地を引き受けて小麦や大豆を作ったとしても、支援を受けられないということか。

  そうだ。農水省に「それは対象外です」ときっぱり言われたよ。

  それじゃあ、小麦や大豆の作付面積は減ることはあっても増えることはないじゃないか。したがって自給率も上がらない。

  これまでの品目ごとの対策は、がんばって収量をあげれば収入にはね返ってきた。ところが今度の対策では、農家の努力が報われない。努力する気力がわかない対策だ。

  農家の生産意欲を高めなければ、自給率向上は絵に描いたもちだ。ますます外国産の遺伝子組み換え大豆や残留農薬まみれの小麦が増えて、そんなもので作った豆腐や納豆、しょう油、みそ、パン、うどんばかりになっちゃうぞ。


ハードルさらに高く

農水省も引き上げ否定せず

  私は今のところ支援を受けられるが、それもいつまで続くか。というのは、「品目横断的対策」を提唱した財界が、「短期に限る」と言っているからだ。それに面積基準の四ヘクタール(都府県)・十ヘクタール(北海道)・二十ヘクタール(集落営農)はあくまでスタート地点なんだ。農水省が今年三月、新「基本計画」と一緒に公表した「農業経営の展望」には、“あるべき姿”として、個別経営十五〜二十五ヘクタール、集落営農三十四〜四十六ヘクタールとなっている。農水省に「将来、基準を引き上げるつもりがあるのか」とただしたら、否定しなかった。

  さっき話していた作付面積にもとづく支払いだが、これは要するに対象農地をもっていればもらえるってことだろう。農水省はゲタ対策の支援水準を、大豆で三万円、小麦で四万円などと試算しているが、これが地代化する可能性がある。つまり金持ちが土地を買い集めやすくなるってこと。

 フランスでは、直接支払い導入後、大規模層がどんどん農地を買い集め、農家数が急激に減少した。一九七〇年代に二百万戸あったのが、今は六十万戸を切っている。


作ることが最大の反撃

地域の営みを守る運動を

  今、小泉内閣は農協合併、自治体合併からはじまって、郵政民営化、三位一体改革など、ものすごい地方切り捨てを進めている。

  うちの町は、合併して町内に五つあった保育園を一つに統合してしまった。保育園に通うのに片道十三キロもある。こんなところに農業後継者が帰ってくるだろうか。

  さっき寅さんが言ったように、小さい農家やじっちゃん、ばっちゃんがコツコツと耕作しているから、そこに営みが生まれ、地域が存続している。たまには、都会に出て行った息子や娘も帰ってくるし、その子らに、作った米や野菜も送るだろう。そこで都市と農村の交流も生まれる。

 しかし、そういうじっちゃん、ばっちゃんを、「担い手」に農地を集めるんだといって、田んぼから追い出したらどうなるか。ますます過疎化が進行するし、息子たちが定年になっても帰ってくる家も田んぼもない。

  今度の対策の本質は、“農業をやめろ”“農村に住み続けるな”というところにあるというべきだ。だから、農村に住んで、ものを作り続けることが最大の反撃ということだな。

  同時に、地方切り捨ての攻撃がさまざまな分野でかけられているのだから、農業を守るということをスタートに、まさに住み続けられる地域をどう守っていくのかという視点で、運動を組み立てる必要がある。

(新聞「農民」2005.12.5付)
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2005年12月

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