「農民」記事データベース20240205-1587-07

仲間を増やして亡国農政を
変える国民運動を
(2/5)

2024年1月18日
農民連全国委員会決議

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3 新農業基本法(案)について

(1)明日の食料・農業・農村の再生に役立つ新基本法に

 岸田政権は通常国会に食料・農業・農村基本法改定案(新基本法)提出を狙っています。

 異常気象、コロナ禍とロシアのウクライナ侵略、さらに異常円安によって、飼料や肥料、原油価格が高騰し、日本の食料と農業は危機に直面しています。国連は22年に、世界が戦後最大の食料危機に見舞われていると警告しましたが、食料自給率38%、肥料・種子・燃料の輸入依存を踏まえると実際は10%といわれる日本の危うさは明白です。

 いま直面している食と農の危機の原因は1961年旧農業基本法以来の総自由化と新自由主義政策の推進にあり、日本の食と農にとっては、アメリカの食料戦略に屈服し続けた「失われた60年」でした。新基本法では、これをどう転換するのかが問われています。農民連は6月に「新農業基本法に対する提言」を世に問い、「失われた60年」に対する根本的な総括と転換を要求してきました。

 しかし、岸田政権がめざしている新基本法は(1)現行基本法にかろうじて盛り込まれた食料自給率向上目標を放棄し、(2)戦争する国づくりのもとで、いざ有事となったら、国民にイモやコオロギを食えという食料有事体制づくりです。実際、23年12月27日に公表された「食料安定供給・農林水産業基盤強化官邸本部」の決定文書には「食料自給率」という言葉は一切使われておらず、農業基本法改定が、自給率向上を放棄する最悪の改定になりかねません。

 農民連はこういう新基本法を拒否し、明日の食料・農業・農村の再生に役立つ新基本法を実現することを要求します。転換の方向は明白です。

(2)食料増産・自給率向上で国民の食と食料主権を守る

 岸田政権は「国内生産増大」「食料自給率向上」の旗を降ろす一方、「花農家に米やイモをつくるよう命令し、価格統制や配給制なども視野に入れた」食料有事立法の検討に熱中しています。その前提は2012年に農水・外務・防衛など10府省協議会が決定した「緊急事態食料安全保障指針」であり、同指針に基づいて農水省は、非常時には日本人に3食イモを食べさせ、米は1日1食、卵は1・5カ月に1個、牛乳は4日にコップ1杯という終戦直後並みの飢餓メニューを示しています。

 農水省の検討会は、食料有事立法の「基本的な考え方は現行の『緊急事態食料安全保障指針』を法制度化すること」だと述べ、国民に飢餓メニューを法律で強制することを宣言しています(議事概要、11月8日)。食料自給率向上を放棄したうえで、国民の食生活に配給と統制、農民に生産統制を押しつけて、戦争する国づくりへと誘導する食料有事立法は、絶対に許すことはできません。

 さらに「イモを食え」だけでは足りずに、国民に「コオロギを食え」、家畜にはハエのウジから作った飼料を食べさせろなどの「フードテック戦略」が推進されています。「自然の肉や牛乳、豆腐がほしい!」の願いに背く荒涼たる未来を私たちは断固拒否します。

 農民連は、食料自給率の向上を農政の最大の目標に掲げ、自給率向上のための実効ある計画策定、達成度の検証、検証結果と政策の見直しの国会への報告を法的義務として政府に課すことを新基本法に盛り込むことを要求し、「食料自給率向上を政府の義務にする」国民署名運動にいっそう力を入れます。

 会計検査院が11月7日、農水省に対し“食料自給率目標を掲げても達成していない。しかも未達成の要因の検証すらしていない”と批判したことは、農民連の要求の正当性を裏付けています。

 日本農業には本来豊かな生産力があります。アジア・モンスーン地帯に位置し、旺盛な生産力を持つ日本の農地の人口扶養力は、1ヘクタールあたり9人で、ヨーロッパ諸国の2〜4倍、アメリカの10倍、オーストラリアの90倍です。また、米は小麦の2〜4倍の人口扶養力を持っています。こういう力を生かす政策に転換すれば、食料自給率を引き上げ、「失われた60年」から転換することは十分可能です。

(3)農産物輸入総自由化をやめ、不要な米・乳製品の輸入ストップを

 1961年の旧基本法は日米安保条約と貿易自由化、99年の現行基本法はWTO(世界貿易機関)協定の受け皿法としてスタートしました。

 旧基本法では、アメリカが輸出拡大を狙う麦・飼料と大豆の国内生産を放棄することを宣言し、畜産も米国産の輸入飼料穀物依存が前提とされました。その結果、小麦や大豆の自給率は壊滅的に低下しました。

 さらにWTO協定では、牛肉・オレンジが自由化され、米まで直撃されてミニマム・アクセス(MA)米の輸入を押しつけられました。そして21世紀に入るとTPP(環太平洋連携協定)、日米・日欧FTA(自由貿易協定)・RCEP(地域的な包括的経済連携協定)など巨大FTAが強行され、究極の自由化の嵐が吹き荒れました。

 義務でもないMA米の赤字は22年度で674億円に膨れ上がっています。水田活用交付金の削減で日本の稲作農民からは110億円搾り取る一方、アメリカ米に674億円も大盤振る舞いするのは、亡国の極みといわなければなりません。

 私たちはMA米、カレントアクセス(CA)乳製品の輸入をただちにストップし、輸入総自由化路線から転換することを要求します。

(4)生産コストを償う価格保障・直接支払+学校給食などの公共調達の実現を

 現行基本法のもとで、価格は市場原理に任せるという新自由主義政策が吹き荒れ、食管制度を廃止し、価格保障制度の改悪を強行してきました。その結果、米、酪農をはじめ、農家経営は資材価格の高騰と異常な所得低下に直面しています。

 特に象徴的なのは、稲作農家の時給がわずか10円という事態です。「営農類型別農業経営統計」によると、平均的な稲作経営の1戸当たり農業所得は21、22年に1万円で、これを労働時間で割ると、最低賃金(時給)約1000円の時代に、ついに2年連続で10円になってしまったのです。

 米価暴落・畜産危機、後継者不足を打開するうえで、生産コストを償う価格・所得の実現はキーポイントです。問題は、誰がどう負担するかです。農産物価格が生産コストを大きく下回っている現状では、価格転嫁だけでは「食べたくても食べられない」人々の苦難に応えることはできません。「提言」はこの点に力点を置き、価格保障+価格転嫁+直接所得補償+公共調達による買い支えというハイブリッドな対策を要求しています。

 直接所得補償はEU・スイスで「基礎的所得支持」として広範に実施されており、日本では民主党政権時代に「戸別所得補償」として実施されましたが、自公政権復活とともに廃止されました。その結果、農家の所得に占める補助金の割合はドイツ77%、フランス64%に対し日本はわずか30%にすぎません。

 公共調達は政府や自治体が食料を買い入れて学校給食や食料支援制度向けに供給することを通じて、農家に対する買い支えの役割を果たしており、アメリカ・EU、韓国など世界中で実施され、日本でも千葉県いすみ市など少なくない自治体で力を発揮しています。また、これはコストが多少高くならざるをえない有機食品へのバックアップにもなっており、有機農業の普及を促進しています。

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全国委員会で「ビバ!農民連!」とコールしました(1月18日)

(5)危機の時代にふさわしく農林水産予算の思い切った増額を

 自給率向上と大軍拡は両立しません。岸田軍拡のもとで、1980年には農水予算の3分の2だった防衛予算は24年には3・6倍の7・9兆円、農水予算の3・4倍に膨れ上がっています。24年に防衛予算が前年比1・1兆円増だったのに対し、農水予算はわずか3億円増では「食料安保へ胸張れる」などととうてい言えません。

 また、岸田政権は「経済安全保障」の名のもとに、アメリカと台湾、日本の巨大な半導体企業に補助金を湯水のごとく注ぎこんでいます。その実績は4兆円(21〜23年)で、農業予算の2年分です。

 日本の国民1人あたりの農業予算はアメリカ・フランスの半分、韓国の3分の1にすぎず、圧倒的に貧弱です。農民連は自給率向上と食料の安定的供給のため、思い切った農業・食料予算の増額を要求します。

(6)食と農の再生に役立つ新基本法実現のために大奮闘を

 私たちはいま、新基本法とのたたかいという歴史的瞬間に立ち会っており、次の通常国会は特別に重要です。市民と野党の共同を食と農の分野でも大きく広げ、明日の食料・農業・農村の再生に役立つ新基本法を実現するために奮闘しようではありませんか。

 そのために全国でも地方でも次のような取り組みを強めましょう。(1)パンフ『新農業基本法に対する提言』『アグロエコロジー宣言(案)』を思い切って普及する、(2)すべての自治体で学習会・集いを必ずやりきる、(3)自給率向上100万署名を国会開会から、審議終了まで繰り返し提出行動を行う、(4)地方議会から意見書を提出してもらう、(5)農協・農業委員会・畜産酪農団体・商工会議所など広範な団体への要請行動に取り組む、(6)これらを推進するために食健連や新婦人、県労連、生協などとの協力・共同をいっそう強める、(7)必要な時期に中央行動・地方行動を配置する。

 とくに税金学習会の中でも、学習の積み重ねによって、自給率署名を呼びかけ、署名を集める担い手をどんどん増やしていきましょう。毎月のように国会に署名提出行動を行っていきましょう。

(新聞「農民」2024.2.5付)
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2024年2月

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