いまこそ要求で広く農民と結びつき、
国民の期待に応えられる農民連を!
農政を国連「家族農業の10年」の
方向に転換させるチャンス!
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農民連第24回定期大会議案
2020年12月3日 農民運動全国連合会常任委員会
U 新型コロナ禍が突き付けた問いと新しい社会を創る力
1.危機が突き付けたこと――不安定、不公正な持続不可能社会
新型コロナ危機は、不安定な食料制度、弱者がしわ寄せを受ける不公正な社会、ウイルスに弱い脆(ぜい)弱な社会を浮き彫りにし、経済効率性だけを優先する社会でいいのか、という根源的な問いを突き付けました。
(1)不安定な食料制度に依存する世界と日本の食と農
農産物貿易の自由化を前提にした食料供給網がコロナ危機で寸断され、多くの国でスーパーの棚から食料品が一時消えるなど、食料不安が広がりました。小麦輸出国のロシアやウクライナ、米輸出国のベトナムが輸出を制限するなど、農産物の輸出制限に踏み切った国は20カ国に及びました。「38%の異常に低い食料自給率で大丈夫か」。日本でも多くの人が危惧しました。
国連の報告書は、コロナ危機による景気後退で20年に飢餓人口が最大で1億3200万人増え、コロナ危機による所得減で十分な食事を取れない人が先進国を含め世界中で30億人以上にのぼると予測しています。日本でも、学校休校で給食を食べられないためやせてしまった子ども、子どもに食べさせるために食事を抜く親の事例が各地で報告されています。
(2)環境破壊とウイルスに弱い持続不可能な社会
コロナウイルスの感染拡大は、森林など多様な生物が生息する地域を破壊し、ウイルスが拡散しやすい環境にしたことが大本にあります。
世界銀行が主導する「農業に関する知識・科学・技術に関する国際アセスメント」の諮問グループの科学者が9月24日、「我々の食料制度を変革する」と題した報告書を公表し、頻発する感染症の増加の背景に、直接的または間接的に、工業的農業と結びついた土地利用があると指摘しています。森林伐採、資源採掘、プランテーションや、家畜の大規模な飼養によって、本来自然には備わっている自然淘汰が妨げられ、病原体が拡散しやすい状況が作られているというのです。報告書は、緊縮政策による農村の貧困、劣悪な衛生と医療の水準などが事態を悪化させ、グローバルに展開する食料供給網によってそれが世界中に広がりやすい状況が作られていると警告しています。
(3)経済効率性をすべてに優先させる社会でいいのか
人類が直面している危機は新型コロナ感染症だけにとどまりません。気候変動によって毎年激しくなる異常気象、台風や豪雨の被害、巨大地震、原発事故、経済不況、鳥インフルエンザや豚熱のような家畜伝染病、さらに今後、想定外の災害や疫病も懸念されます。その時に、経済効率を全てに優先させ、現在のような脆弱な社会でいいのか。コロナが浮き彫りにした不安定、不適切、不平等、持続不可能を見直し、新しい社会に転換することが求められます。
2.家族農業は新しい安定、公正、適切な持続可能な社会をつくる力
「経済効率最優先社会でいいのか」は、以前から指摘されてきたことですが、コロナ危機は改めて問題に光を当て、今解決に向かって進まなければ、取り返しがつかないことを示しました。
その解決策の要の存在が家族農業です。国連「家族農業の10年」は、家族農業を支援することで、安定、適切、平等、持続可能な新しい社会に移行することをめざす運動です。
(1)生産と生活の一体化による多様な役割の発揮
家族農業は、物質循環の促進、気候変動の防止、生物多様性や国土の保全、水源涵(かん)養、景観形成・維持、文化伝承など多様な役割を発揮し、自然環境的にも、社会経済的にも持続可能性が問われる現代社会において、大切な役割を果たしています。
生産と生活が一体化している家族農業を“時代遅れ”と攻撃し、ビジネスとしての農業に転換することが強調されてきました。しかし、生産と生活が一体化している家族農業だからこそ多様な役割を果たすことができます。いま家族農家は農産物貿易自由化と市場原理主義の徹底によって窮地にありますが、政策や財政的な支援を行うことで、多岐にわたる家族農業の潜在力を十分発揮させることができるのです。
家族農業を支援することは持続可能な開発目標(SDGs)達成のカギでもあります。SDGsは、貧困・飢餓の解消、格差是正などの社会経済的目標と、気候変動防止、生物多様性保護、生態系保全など環境目標で構成されています。家族農業を支援することで、これらの両方の目標を同時に追求することが可能になるからです。
(2)気候危機の時代に
気候危機が食料生産に重大な影響をもたらしているもとで、世界の人口は増大し続けます。食料生産者の役割がこれほど求められる時代はありません。
一方で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の土地利用の温暖化への影響に関する報告書(19年)は、(1)農林業面積の拡大や生産性の強化が温室効果ガス排出量の増加、自然の生態系の喪失、生物多様性の減少をもたらしている、(2)農林業からの温室効果ガス排出量が人為起源の総排出量の23%を占めている、(3)グローバル・フード・システムの排出量は総排出量の21〜37%を占めることを明らかにし、気候変動に対する大規模工業的農業の責任を明確に示しました。
気候危機の時代の農業は、化石燃料への依存を最小限にし、生態系に配慮しながら、増大する人口に食料を提供することが求められます。環境や生態系への配慮を怠り、化石燃料を浪費する大規模な工業的農業は時代遅れとなり、家族農業こそが持続可能な農業の担い手です。
(3)経済、社会的不公正を是正する力として‥飢餓・貧困、格差、ジェンダー不平等解消を
飢餓や貧困、格差拡大も、世界を持続不可能にする要素です。都市と比べて貧しい農村地域を援助し、家族農業を支えることが飢餓・貧困、格差解消の要です。
「家族農業の10年」が、ジェンダー平等や女性の権利を重視しているのは、貧困・格差などの矛盾が農村女性に集中しているからです。家庭の内外で女性が担っている役割が正当に評価されず、賃金は極めて低いか、全く支払われないことさえあります。最も苦境にある人を最も手厚く支援することで、経済・社会を持続可能にしていくことが求められています。
(4)アグロエコロジーに挑む
持続可能な社会をつくる家族農業の潜在力を発揮させるために推奨されているのがアグロエコロジーです。
アグロエコロジーは、環境に負荷をかける化学肥料や農薬を減らし、作物残さなどを再利用し、自然の循環を促進する環境に優しい農業と食のあり方です。化石燃料への依存を最小限にすることで、気候変動防止にも貢献します。また、地産地消や短距離の食料供給網も、温室効果ガス排出量の削減や環境負荷を引き下げることにつながります。多様な作物や種子の栽培を通じて生物多様性を保全し、災害に対しても強じん性を発揮することができます。
化学肥料、農薬、商業的種子、化石燃料などへの依存を減らすことによる経済的な強みも強調されています。同様に、産直や協同組合、農民の組合などを通じて農家を経済的に支えることが大切にされます。
さらに、科学的知識を重視しながらも、トップダウンによる押し付けを拒否し、農法や知識の参加型の学び合いに価値を置くなど、民主的な情報伝達・共有を大事にしています。
3.国際的潮流の新展開――自由貿易から権利尊重の世界へ
「食料への権利」は、世界人権宣言(48年)に盛り込まれ、国際人権規約(66年)に受け継がれ、国際農民組織ビア・カンペシーナが提唱した食料主権と合流して、18年に採択された「農民の権利宣言」でより豊かに結実しました。
ところが世界では「食料への権利」を脅かす世界貿易機関(WTO)が存在し、WTO以上の自由貿易協定(FTA)が近年相次いで成立しています。
こういう潮流が併存してきましたが、コロナ禍のもと、食料への権利の側から、貿易体制を再構築する新たな提案が出されていることは注目されます。
(新聞「農民」2020.12.14付)
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