詭弁とウソで日米
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筆者も「日米FTAはやらないと言ったわけでしょ。だから、日米FTAではないと言わないといけないから、稚拙(ちせつ)な言葉のごまかしで、これは日米FTAなんです」と即座に指摘した(テレビ朝日「グッド!モーニング」コメント、2018年9月28日)。
要は、日米FTAはやらないと言っていたのにやることにしてしまったから、日米FTAではないと言い張るためにTAGなる造語を編み出したということである。
そもそも、日米共同声明にTAG(物品貿易協定)という言葉は存在しない。英文には「物品とサービスを含むその他の重要な分野についての貿易協定(Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services)」と書いてある。物品だけの貿易協定と言っていない。
日本側が意図的にTAGと切り取っているだけで、極めて悪質な捏(ねつ)造だ。米国大使館の訳も「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定」となっている。物品とサービスの自由化協定は、次の定義からわかるように、紛れもないFTAである。
「特定の国・地域間で関税撤廃やサービス貿易の自由化をめざすFTA(自由貿易協定)や物品・サービス分野だけでなく投資、知的財産権、競争政策など幅広い分野での制度の調和もめざすEPA(経済連携協定)」(荏開津典生・鈴木宣弘『農業経済学(第4版)』2015年、岩波書店)
あまりにも稚拙で、普通の神経なら、恥ずかしくて、とても言えないはずだが、この国は、見え透いたうそがどこまでもまかり通り、さらに麻ひしてきているようである。
「今回はこれで乗り切りましょう」と進言した経済官庁の知性と良識を疑わざるをえない。しかも、FTAではないと言い続ければ、国際法違反の協定で、関税削減は発効できないという墓穴を掘っていることにも気づかないのであろうか。
「まず、TPPレベルの日本の国益差し出しは決めました。次は、トランプ大統領の要請に応じて、もっと日本の国益を差し出しますから、東京五輪まで総理をさせて下さい」というメッセージを送っていたのである。
しかも、TPP破棄で一番怒ったのは米国農業団体だった。裏返せば、日本政府の「影響は軽微」との説明は意図的で、日本農業はやはり多大な影響を受ける合意内容だったということが米国の評価からわかってしまう。
せっかく日本から、コメ(従来のWTO輸入枠に加えてTPP枠をつくり、毎年50万トンの米国産米の輸入を保証)も、牛肉も、豚肉も、乳製品も、「おいしい」成果を引き出し、米国政府機関の試算でも、4千億円(コメ輸出23%増、牛肉923億円、乳製品587億円、豚肉231億円など)の対日輸出増を見込んでいたのだから当然である。
しかし、これまた感心するのは、米国農業団体の切り替えの早さである。すぐさま積極思考に切り替えて、TPPも不十分だったのだから、2国間で「TPPプラス」をやってもらおうと意気込み始めた。それに応じて「第一の標的が日本」だと米国通商代表が議会の公聴会で誓約したのである。
米国の対日要求リストには食品の安全基準に関する項目がずらずら並んでいるから、それらを順次差し出していくのが、米国に対する恰好(かっこう)の対応策になる。
例えば、BSE(狂牛病)に対応した米国産牛の月齢制限をTPPの事前交渉で20カ月齢から30カ月齢まで緩めた(つまり、TPPで食の安全性が影響を受けなかったとの政府説明は「偽証」)が、さらに、国民を欺いて、米国から全面撤廃を求められたら即座に対応できるよう食品安全委員会は1年以上前に準備を整えてスタンバイしている。
さらに、すでに日本は米国からのWTOにもとづくSBS(売買同時入札)米を1万トン台から6万トンまで増加させ、TPPでの約束水準をほぼ満たす対応をしている。情けない話だが、米国にはTPP以上を差し出す準備はできているし、できるところから、すでに対応しているのである。
そもそも、米国の自動車関税の引き上げも、差別的に、日本には適用しない、というような適用は、明確な国際法(WTO)違反であり、そのような姑息(こそく)なお願いをするのでなく、フランスのように真っ向から国際法違反だからやめるよう主張すべきである。自分だけが逃れられるように懇願するために、国民の命を守る食と農を差し出す約束をしてしまったツケは計り知れない。
しかも、本当は、食と農を差し出しても、それが自動車への配慮につながることはない。米国の自動車業界にとっては、日本の牛肉関税が大幅に削減されても、自動車業界の利益とは関係ないからである。本当は効果がないのに譲歩だけが永続する。
例えば、TPPでは米国の強いハード系チーズ(チェダーやゴーダ)を関税撤廃し、ソフト系(モッツァレラやカマンベール)は守ったと言ったが、日欧EPAではEUが強いソフト系の関税撤廃を求められ、今度はソフト系も差し出してしまい、結局、全面的自由化になってしまった。それが米国にも適用されるからである。
しかも、TPPで米国も含めて譲歩したバター・脱脂粉乳の輸入枠7万トン(生乳換算)を、TPP11で米国が抜けても変更せずに適用したから、豪州、ニュージーランドは大喜びだが、これに米国分が「二重」に加われば、全体としてTPP水準を超えることも初めから明らかである。
TPP水準こそ大問題だったのに、今は、「TPP水準を超える譲歩はしない」として、TPP水準はすでにベースラインになってしまっている。そして、「TPPを上回る譲歩はしない」と言っている政府が、最後はどんな言い訳を持ち出してくるのか。
その前に、何度も何度もこんな見え透いたうそで「なし崩し」にされていくのを、ここまで愚弄(ぐろう)されても許容し続けるのかが国民に問われている。
表のように、日本政府の発表では「物品」だけを対象にした貿易協定に、サービスなどは含まれないかのような表現になっていますが、アメリカ大使館の訳では「物品、サービスなどを含む貿易協定」となっています。
共同声明の正文は英文。英文には「TAG」という略語はなく、日本政府のでっちあげです。
なぜこんなデタラメをやるのか。
5月8日、安倍首相は衆院本会議で、日米貿易協議について野党から追及されると「日米FTA交渉と位置づけられるものではなく、その予備協議でもない」と声を張り上げました。この答弁につじつまを合わせるための外交文書ねつ造です。
この構図は「私や妻が関係していたなら首相も国会議員も辞める」という首相答弁に合わせて公文書を改ざんした「森友疑惑」とそっくりです。
「TPP断固反対」「農産物重要5品目は守る」という公約を踏みにじり、今度は「FTAはやらない」という約束をくつがえすためにウソをつく――国民をなめるのもいいかげんにしろ! の声を大きくあげるときです。
[2018年10月]
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