農村からTPP反対、戦争法廃止の声を
参院選で安倍暴走政権を追いつめよう
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2016年1月14日
農民運動全国連合会常任委員会
(2)TPPは決着済みではない、たたかいはこれから
安倍政権と日本のマスコミは、TPPが決着済みであるかのように描き出していますが、これは三重、四重の意味でまやかしであり、たたかいはこれからです。
(1)食の安全や医療、国の主権を脅かすISD(投資家対国家の紛争解決)条項に対する国民の不安は「デマ」(菅官房長官)であるどころか、内外の研究者・NGOの分析によって、TPPが「予想以上にひどい」ものであることが明白になっています。遺伝子組み換え食品の表示義務にイチャモンをつけるための作業部会の設置、医薬品価格を野放しにするための特許期間の延長、世界の流れに逆行するISD条項の設定などは、そのほんの数例にすぎません。
(2)TPPは史上最悪の農業破壊協定ですが、さらに関税撤廃品目の拡大や撤廃時期の繰り上げを行うための協議が義務づけられるなど、農業破壊をエンドレスに続けるための規定が盛り込まれており、TPPは「アリ地獄」協定というべきものです。「決着済み」などとはとんでもありません。
(3)TPPを主導したアメリカでは、10人を超える大統領候補のうち明確にTPP支持を表明している候補がただ一人であることに示されているように、TPPに対する国民的不人気ぶりが高まっています。アメリカ議会からは、為替操作に対する規制や日本・カナダなどの農産物市場開放などの課題で「再交渉」を要求する声が強まっており、議会の声を無視すると否決される可能性が強まり、一方、11カ国に「再交渉」を要求しても拒否されることは必至という状況に直面しています。アメリカ議会での審議入りは最速で5月下旬で、オバマ政権のもとでの批准は絶望的とさえ言われており、参院選前の5月に批准をもくろむ安倍政権の異常さは際立っています。
(4)TPP協定の発効には、少なくとも交渉参加国のうちGDP(国内総生産)の合計が85%以上を占める6カ国の批准が必要です。アメリカのGDP比率は62%、日本は16%であり、TPP協定は(ア)日本かアメリカの議会のどちらかが否決すれば成立しない、(イ)日米2国だけの批准でも成立せず、廃棄処分になります。これは、異論を唱える経済規模の小さな国に圧力をかけることをねらった大国主義的な条項ですが、皮肉なことにこの条項がTPPの墓穴を掘る可能性を強めているのです。これはWTOや他のFTA(自由貿易協定)にはない条件です。
今、何よりも求められているのは安倍政権が暴走を重ねているこの日本で、TPP拒否の運動と世論を大きく広げることです。
4、安倍亡国農政の特徴
政府が先頃発表した2015年農業センサス(概要)では、就農人口が5年間で約2割に相当する51万6000人減少して209万人となり、平均年齢は66・3歳となるなど、農業の衰退が一層顕著になっています。
安倍政権は、こうした歴代の自民党政権が作り出した農業の現状を打開する責任を棚上げして、問題をさらに深化させる方向に突き進んでいます。
農民連第21回大会決議は、「アベノミクス『農政改革』は、関税を撤廃するTPP参加を前提に、『国際競争力のある強い農業構造をめざす』として、農地を集積して経営規模を拡大する、『農業の成長産業化』を口実に、農業、食料、農村を大企業のビジネスチャンスにすることにあります。その内容は、企業的経営が農業の8割を担う構造作りであり、戦後の家族経営を前提にした経営所得対策、生産調整、農地政策などを土台からの見直しと、こうした制度と不可分の関係にある農業委員会、農業協同組合の解体的見直し、株式会社の農地所有に踏み込もうとしています」と指摘しました。
安倍政権は2015年に「農協改革」関連法を可決成立させましたが、その内容は、農協、農業委員会の機能を骨抜きにし、農業生産法人の要件を緩和して企業の農業支配と農地所有を強めるものであり、TPPを前提にしたアベノミクス農政の具体化でした。
同時に、TPP「大筋合意」を受けて打ち出した「TPP関連政策大綱」では、「攻めの農林水産業への転換(体質強化策)」としてさらなる規模拡大と成長産業化・輸出産業化をめざし、担い手への施策の集中を加速化させるとしています。農地集積のテコとして農地中間管理機構を活用し、中間管理機構へ農地を出す農家には減税、出さない農家には「遊休農地の課税強化」を打ち出しています。
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全国委員会であいさつする白石淳一会長 |
これは、条件のいい地域に限定して「成長戦略」の名で企業を参入させ、あとは“野となれ山となれ”といわんばかりの無責任な農政と言わなければなりません。今後、2018年から経営所得安定対策や、国による生産調整配分を廃止、農業共済制度を廃止して収入保険制度への移行、JAの株式会社化など、家族経営を維持するためのあらゆる制度の解体が企まれています。
こうしたアベノミクス農政は、現場での矛盾と混乱をさらに広げることは明らかです。こうした農政は、農業生産の一層の縮小と食料自給率の低下、地域コミュニティーの破壊と人の住めない農村を加速させることは避けられません。それはまた、FAO(国連食糧農業機関)をはじめとした国際社会が家族経営による食料増産を人類社会の持続可能性にかかわる重大課題と位置づけていることへの逆行であり、いずれ破たんすることは避けられません。
5、米をめぐる情勢
2014年産米の未曽有の大暴落は、農家の経営に深刻な打撃をあたえましたが、「価格に影響をあたえる対策は取らない」という冷血な安倍政権は、さらなる生産削減や飼料用米への転換策を打ち出し、抜本的な価格回復策を放棄したまま、2015年産米の収穫に突入しました。2015年産米は、西日本を中心に天候による品質低下が深刻でしたが、JAが仮渡金をわずかながら引き上げたこともあって、価格を若干回復させたものの、生産費を大きく下回る水準にあり、引き続き再生産が危ぶまれる事態にあります。安倍政権の米政策は、家族経営による米生産を淘汰(とうた)し、大規模な企業経営にシフトし、そのことによって不足する米は輸入に依存するというものにほかなりません。
(1)2015年産米の需給と価格の動向について
(1)政府と農協系統が強力に推進した2015年産の飼料用米生産は前年産の2・3倍の42万トンとなり、10月15日現在の2015年産主食用米の予想収穫量は前年比94・4%、44万トン減の744万トンとなりました。これは、2015年11月の基本指針での27、28年需要見通しの770万トンよりも26万トンも少ないものです。米穀機構が実施した2014年産米の「売り急ぎ防止対策」の36万トンを全農や大手卸が所有していることから、市場価格への影響が払しょくされることはありませんが、農協の概算金引き上げもあり、2015年産米の市場価格は前年より1000円程度上昇して取引が始まり、さらに長雨など日照不足の影響で収穫量の減少と品質の低下、出荷時期の遅れなどから、わずかながら価格の上昇は続いており、少なくとも下落が進むという状況にはなっていないというのが一般的な見方です。
(2)2015年11月の相対取引価格調査では、前年同月比108・7%、60キロあたり1061円上昇し、引取数量も前年比1・2〜1・3倍となっています。しかし、第2次安倍内閣発足以来の3年間で下落した4800円(60キロ)の回復には遠く及ばない水準にあります。さらに、わずかな価格上昇にもかかわらず、業界からは「家庭用、外食関係問わず、米の売れ行きが悪い」との声が聞かれ、現実に荷動きの悪さから年明け以降、決算期を控えて一時的に価格がゆるむとの観測もありました。
農水省も2015年11月30日の食糧部会で「相対取引価格の上昇が需要量に及ぼす影響を踏まえた必要な補正」として「27、28年主食用米等需要量」を7万トン削減し、763万トンとしました。これは、価格上昇を求める生産者・業界の声に対して、「価格が上がれば消費量が減る」との脅しであり、政府が2016年産も引き続き、飼料用米の増産をテコに生産調整の「深掘り」で需給の引き締めを計画していることとの整合性はありません。
(3)このような情報誘導を行う理由は、低価格を演出しながら、今のうちに大手量販や中・外食産業と産地が直接つながることにより、2018年以降の生産の安定がはかられるかのように誘導するのがねらいだからです。2016年産が「深掘り」通り進めば、2017年6月末在庫の見通しは180万トンです。これは米需給が相当タイトとなる水準であり、米穀業者はそれを見据えた産地の囲い込みなどの対応に追われています。農水省自らも産地と量販・中外食産業とのマッチングのとりくみを行っています。2016年産米の生産・集荷の体制強化と産地における仲間づくりのとりくみの強化が求められます。
(新聞「農民」2016.2.1付)
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