「農民」記事データベース20150202-1151-06

農政を転換する国民的運動と
農業・農山村の再生を担う
農民連の建設を!
(2/6)

2015年1月15日
農民連第21回定期大会決議

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V 各分野のとりくみと、今後の方針について

1、今後、2年間の運動の基本について

 (1)国連が「国際家族農業年」を呼びかけたように、家族経営こそが農業と地域、環境の持続可能性を保障するという見地に立ち、自由化や市場原理主義を前提にした攻撃とたたかい、農民の多様な要求を実現する運動、助け合いを基礎にした多様な形態で生産を維持するとりくみに全力をあげます。

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青年たちからも元気な発言が続きました

 (2)環境と安全に配慮した適地適作の産地作りや、地産地消、農商工連携による地域循環型の地域作り、都市と連携した販路作りで、農村にお金と人を呼び込むとりくみを広げます。そのためにも、とりくみを推進する自治体の農業振興策を確立させる運動を推進します。

 (3)新規就農支援制度も活用して親元就農を広げ、勤労青年を新規就農者として迎え入れて育成する運動や、定年退職者の帰農を促進・援助し、高齢者の知恵と意欲を引き出すなど、多様な“担い手づくり”“人づくり”を推進します。

 (4)循環型の地域作りの重要な柱として、再生可能エネルギーへ組織を挙げたとりくみを推進します。

 (5)こうしたとりくみのなかで、執念を持った会員拡大と組織作り、新聞「農民」の紙面改善と読者拡大のとりくみを飛躍させます。

2、TPPをめぐる情勢とたたかい――今年をTPP破たんに追い込む年に

 (1)TPPをめぐる情勢とたたかい

   (1)TPP首脳会議が示す二つの側面
 オバマ大統領が「合意に向けた協定文書案をまとめる場にする」と宣言して11月10日に開かれたTPP首脳会議は、達成期限も示せないままで終わりました。これには二つの側面があります。

 一つは、日本を含む国際的な反対運動と参加国政府の抵抗の強まりの前に、TPP交渉が「暗礁に乗り上げたWTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンドの二の舞い」(産経新聞)になる可能性があるという行き詰まりの側面です。

 もう一つは、日本政府がアメリカの圧力に屈して大幅に譲歩し、アメリカと日本が手を組んで参加国に圧力をかけて交渉を進めているという危険な側面です。首脳会議声明が「過去数カ月の交渉の大きな進展」によって「終局が明確になりつつある」としているのは、行き詰まりを隠す強がりの面もありますが、異常な秘密交渉の裏で危険な事態が進んでいる可能性が強いことを示しており、警戒が必要です。

   (2)交渉「進展」の実態
 甘利TPP担当相は、異常な秘密交渉に終始している責任を棚にあげて、「外部からみると、中身が見えないだけに進んでいるかどうか分からないと思うが、私に言わせれば確実に進んでいる」と述べています。しかし、秘密交渉から垣間見える交渉の「進展」の実態は、アメリカが要求を基本的に認めさせたうえで、一定の「柔軟性」をちらつかせて懐柔するというものにすぎず、「これでものまないのは、交渉をつぶすものだ」という圧力がかけられている可能性が高いといわなければなりません。

 本当に交渉は進んでいるのでしょうか。

 *最難関といわれる「知的財産」の分野では、巨大製薬企業の利益を優先して特許保護期間の延長を迫るアメリカ、日本に対し、新興国側はジェネリック医薬品の利用は国民の命にかかわる問題として強く抵抗し、独自の医薬品規制制度を実施しているニュージーランドなども「TPP加入によって医薬品に高いお金を払わせることはできない」と反発しています。

 *国有企業と外国企業を同等に扱う競争政策や政府調達をめぐっては、経済発展の段階や経路も異なる国々に、力まかせに自由化原理を押しつけようとすることが反発を呼んでいます。マレーシアは国有企業と政府調達を通じて中小企業と雇用を守るマレー人優遇政策を今後とも堅持する方針を明確にしています。また、相手国には政府調達の全面開放を迫りながら、「TPPで米連邦や州の政府調達の門戸を外国向けに広げる約束は一切しない」というアメリカのダブルスタンダードに対するカナダなどの批判は、今後ますます強まることは必至です。

 *「投資家と国家との紛争解決」(ISD)条項は、外国投資家の提訴によって参加国の環境・健康などの公共政策を破たんさせるとして難航しており、日本だけがアメリカの提案を支持しているのに対し、残りの諸国は反対を表明しています。

 *遺伝子組み換え食品の表示義務づけを含む食の安全にかかわる衛生植物検疫や貿易の技術的障害は「ほぼ合意」とされていますが、真相は不明です。日本はもちろん、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどの世論と運動が重要です。

   (3)最も警戒すべきは安倍政権
 安倍首相は総選挙中、国内では“TPP沈黙作戦”を貫く一方、外国マスコミには次のように公言しました(イギリスの雑誌『エコノミスト』、12月5日)。「TPP交渉参加国で一番強いリーダーの私が早期に妥結させる」「簡単な課題が残っているだけだから、最終段階」「選挙が終われば、抵抗する農民とたたかい、TPPを妥結させる」。

 海外に行っては「TPPを日米で牽引する」「40年以上続いてきた米の減反廃止と60年ぶりの農協抜本改革を断行する」「いかなる既得権益といえども、私の『ドリル』から無傷ではいられない」などと熱に浮かされたような前のめり発言を繰り返し、「国益」を損なってきたのが安倍政権の2年間でした。

 昨年4月のオバマ大統領訪日で、牛肉・豚肉関税の大幅引き下げなどが一度は合意されたといわれ、9月には「農水省などに相当突っ込んだ指示をして、ギリギリの妥協案を提示」(甘利TPP担当相)するなど、安倍政権がいったいどこまで譲歩を重ねているのか、底が見えないほどであり、国会決議違反は明白です。

 しかも、オバマ大統領が昨年11月に安倍首相に対し、米の輸入拡大を要求していたことが明らかになりました(日本農業新聞、1月5日)。アメリカはその後の協議でも牛肉・豚肉・乳製品に加えて、米も「聖域」にしない姿勢を強めています。

 オバマ大統領は、総選挙投票日目前の12月11日に「TPPが合意に達する確率は50%をかなり上回っている」と「自信」をのぞかせる一方、TPP交渉妥結の前提である「貿易促進権限法」(TPA)については「TPAと交渉妥結の順番にはこだわらない」と演説しました。この期に及んで「確率50%」というのは「自信」の現れではなく「自信欠如」というべきです。

 しかも「TPAと交渉妥結の順番」はどうでもいい問題ではなく、憲法上、政権がTPAを取得しない限りTPP交渉を妥結させることができないという問題です。しかし、オバマ政策の核心に触れる課題で、議会の多数を占める共和党と政権が対立している現状で、TPAがすんなり与えられる保証はありません。そのため、共和党多数の議会を満足させることができるような全面譲歩を安倍政権からもぎとり、これをテコにTPAを取得するというのがオバマ政権の戦略であり、そのために新たな圧力を仕組んでいる危険が強いこと、また、安倍政権がこれに屈服する危険が強いことを重視しなければなりません。

 現にアメリカの通信社「ブルームバーグ」は「(選挙後の)出発点に最もふさわしいのは、日本の最も非効率な部門をこじ開けるTPPである。選挙も終わり、安倍首相は農業団体の影響力を恐れる必要がなくなった」、「米議会がTPPの合意を阻む可能性は依然ある」ことを指摘したうえで、安倍首相に「農業や自動車分野の関税で重要な譲歩」を迫る社説を掲げました。

 オバマ大統領は安倍首相に「近年、日本の政治は不安定だったが、国民が安倍政権への信任を示したことは米国にとっても重要だ」と祝意を表明しましたが、安倍首相の前のめり発言に付け込み、選挙が終わった今こそ全面譲歩しろと迫ったものにほかなりません。

 もちろん、日米2国間の合意を他の10カ国に押しつけることが許されるはずはありませんが、日米協議がTPP交渉の重要なカギを握っていることはまぎれもない事実です。私たちが向き合うべき相手は安倍政権であり、安倍政権に対し、屈服を絶対に許さないたたかいを強めることが求められています。

   (4)今年をTPP破たんに追い込む年に
 私たちは、ガット・WTO交渉で、毎年末にかけて「今年は突破されるかもしれない」という不安に駆られながらたたかいを積み上げてきた歴史をもっています。大国と多国籍企業が主導する貿易協定は90年代後半から、ドーハ・ラウンドや米州自由貿易地域(FTAA)と相次いで漂流・とん挫し、TPP交渉も「年末までには合意する」という空約束を繰り返して5年目に入りました。追い詰めてきたのは内外の力を合わせた私たちのたたかいであり、追い詰められているのは大国と多国籍企業です。この動きはさらに加速しています。

 TPPの中でも最も毒性が強いといわれるISD条項をめぐっては、日豪EPA(経済連携協定)にISD条項が盛り込まれず、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉ではISD条項の交渉が凍結され、さらにインドネシア、インド、南アフリカなどが既存の協定からISD条項を次々にはずしているように、ISD排除は世界的な流れです。

 アメリカでも“自由貿易協定は雇用を奪い、賃金を下げる”が国民的常識になっているなかで、昨年11月の中間選挙では、民主党・共和党入り乱れての反自由貿易協定キャンペーンが行われました。アメリカのTPP反対運動は、このキャンペーンが「国民意識を高め、オバマによるTPA取得がさらに困難になった」と分析し、TPAを廃案に追い込む運動に全力をあげています。

 アメリカが推進する二大FTA(自由貿易協定)の一つであるTTIPは18カ月間実質的な交渉が行われず、漂流状態に陥っています。さらに1月7日にはEU委員会がTTIP交渉に関する情報を公開しました。これはTPP交渉の異常な秘密主義に対する痛烈な反撃であり、波及させる運動が重要です。

 行き詰まりの背景にあるのは、アメリカのルールをアジア太平洋地域と世界に押しつけ、参加国の国家主権を侵害し、農民と労働者の生活を悪化させ、多国籍企業のための「保護主義」ルールづくりのねらいがますます明確になっていることです。

 自由貿易原理主義に代わって、各国の経済主権と食料主権を尊重した互恵・平等の貿易ルールづくりが新しい世界の流れになっています。中南米では、WTO・FTAとは真逆の連帯と相互補完、食料主権、民衆参加を大原則とするALBA(米州諸国民ボリバル同盟)が発展しています。ASEANの大国、インドネシアでは、食料主権・食料自給・食料保障を三原則とする食料法が14年から施行され、農産物の輸出入管理、価格保障、農地改革などの政策が実行に移されつつあります。

 総選挙では、安倍首相をはじめ185人の自民党議員が全国農政連の推薦を受けて当選しました。党の当選者の6割強にあたります。農政連の要求はTPP国会決議を順守することであり、「早期に妥結させる」(安倍首相)ことではありません。今年は、TPP、米価暴落、農協つぶしという悪政の被害が最も身近に及ぶいっせい地方選挙が行われます。TPPを「封印」して票をかすめとり、選挙が終われば裏切るなどということをこれ以上許さない絶好の機会にしようではありませんか。

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「TPPはもうやめよう」と壇上に立つ農民連=2014年3月30日

 (2)運動の到達と今後の方針

 この2年間、幾度もの緊迫した事態を全国的な世論と行動で跳ね返し、いまだに「妥結」を阻止し続けていることは重要な成果です。

 TPP交渉の“妥結”を阻止している第1の要因は、政府・財界のTPPは「経済と農業の対立」という分断攻撃を、粘り強い学習と宣伝運動で跳ね返し、TPPの本質を浮き彫りにしたことでした。こうした運動の中で農民連が果たした役割は決定的に重要でした。

 第2に、全国各地の草の根運動の力です。特にJAや医師会、生協などと農民連や県労連などが立場や階層をこえたTPP反対の一点での共同運動組織が県・地域段階に張り巡らされ、日常的に強力な運動が政府を包囲しています。新潟県で県段階とともに2つの地域共同組織が創意あるとりくみを発展させていることは重要な教訓です。

 第3は、共同運動の画期的な広がりを力に、43道府県と8割を超える市町村議会がTPPに反対や慎重な対応を求める決議を採択していることです。また、中央段階での広範な市民や団体を結集した継続的な官邸前行動や多様なシンポジウムなどが大きな力になっていることで、全国食健連の果たした役割は重要でした。

 総選挙で与党が国会の多数を維持しており、「アベノミクスが信任された」「TPPはアベノミクスの柱」だとする安倍政権が、国会決議と国益を投げ捨ててTPP交渉で譲歩する危険が高まっています。

 TPP交渉からの撤退を要求するたたかいは、引き続き最重点課題です。関係団体と連携して中央・地方で「TPP交渉から撤退せよ」の運動に全力をあげましょう。

 運動を進めるポイントは、TPPへの国民の幻想を克服する学習と宣伝と、引き続きすべての都道府県と主要地域に「TPP反対」の一致点で立場を超えた共同組織を確立して創意ある草の根からの運動を広げることにあります。

 中央段階では、適切な情報の提供や山場での行動配置を行うとともに、さらに一点共闘を広げるために力をつくします。ビア・カンペシーナやTPP参加国の市民組織などとの連携を強め、多国籍企業の利益のためのTPPやFTA路線の転換と食料主権を確立する流れを大きくする国際活動を行います。TPP同様に高度な経済連携をめざすとしている日中韓、日EUなど、日本農業に重大な影響をあたえるFTAに反対する運動を強めます。

(新聞「農民」2015.2.2付)
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2015年2月

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