緊急特集 農協問題農協つぶしはねかえした下郷農協(大分県中津市)横山金也組合長にきく
大分県中津市(旧耶馬溪町)にある下郷農協は、農家組合員五百人余りの小さな農協です。創立して五十七年、産直事業を中心に「消費者と連携し地域農業を守る」を経営理念に、地域になくてはならない農協として発展してきました。ところが昨年、県中央会から「二年続きの赤字で自己資本比率が四%を下回る状況にある。だから合併を」との指導がありました。しかも「減損会計」(注)という聞きなれない会計基準が信用事業を行う農協に適用され、全国監査機構の監査が入りました。「減損会計」は合併推進の農協攻撃として全国で使われています。この農協つぶしの攻撃とどうたたかったのか、下郷農協の横山金也組合長に話を聞きました。
消費者と一致協力し事業利益を黒字 資本比率も改善自立再生の土台築く―見事に合併攻撃をはねかえしましたね。横山 まず、全国のみなさんから大きな支援をいただき、本当にありがとうございます。〇五年度決算は、九百万円余りの黒字、自己資本比率八・八二%で攻撃を跳ね返すことができました。この場を借りてお礼申し上げます。 私たちはこの存亡の危機にあたって、昨年十月の臨時総会では出席者のうち一人の反対もなく“合併しない”ことを決定しました。経営改善計画は、(1)職員退職給与アップ分の凍結(2)農産物の仕入れ価格の引き下げ(3)役員報酬の全額不支給(4)販売努力―の四本柱でした。農協法第一条には、「農業者の協同組織の発達を促進」して、「農業生産力の増進を図り」とあります。その原点にたちかえって、農家組合員と役職員が一丸となって、「そのために何ができるのか」を合言葉に、血のにじむような努力をした結果だと思っています。
「減損会計」の適用は合併押しつけのテコ―「減損会計」の押し付けとは、どうたたかったのでしょうか。横山 当初、全国監査機構の監査は、画一的な押し付けをしてきました。がんばって経営改善しても、「これらは一時的な措置」であり、「事業利益は赤字」と判断される危険もありました。しかし、減損の対象を一つのグループで見るのか、それとも各工場・部門ごとに見るのか、で議論になり、最後には産直事業として一つのグループと見ることで一致しました。 また、役員報酬の全額不支給が寄付行為かどうかが争われましたが、これも「事業利益を出すための経営方針の一つ」として寄付行為ではないことが認められ、「事業利益は黒字」との判断が下されたのです。これによって、自立再生の土台を築くことができました。 ―監査の言いなりになっていれば、事業利益を黒字にすることはできなかったということですね。 横山 そうです。言いなりになっていたら、黒字を出すことはできず、自己資本比率も達成できませんでした。現場の実情にしっかり立った自己主張がいかに大事か、あらためて学びました。 農家組合員から、「〇五年度は乗り切ったが、これから先はあるのか」と、心配の声を聞きます。〇六年度がまさに下郷農協にとって正念場です。二千三百万円余りの黒字計画に向けて、年度当初からあらたに三事業本部体制を組んで、不退転の決意でがんばっていきます。
(注)減損会計とは…
私たちも下郷農協を支えています原洋二さん=元酪農部会長= 経営改善達成のために、昨年は乳価の四円引き下げを受け入れました。経営上たいへん厳しいものですが、農協がなければ生産しても販売できません。いま、生乳がだぶついて廃棄しているのは北海道と大分だけです。私たちが安心して生産できるのも農協があるからです。高〓(※)俊一さん=養豚部会長= 農協の支援で、黒豚の一貫生産システムをつくって一年。三人の息子と増産に取り組んでいますが、農協と私たちは一蓮托生(いちれんたくしょう)。農協がつぶれたら、私たちもつぶれます。農協が地域農業を守っているんです。生産をあげて農協の経営にも貢献できれば、と思っています。 葉山牧子さん=産直の会・会長(北九州市戸畑区)= 下郷と産直を始めて二十年以上。下郷がなくなって、安全でおいしい本物の農産物が食べられなくなるかもしれないということで、いろいろ議論しましたが、無料だった配達料の有料化を受け入れました。会員や利用高をもっと増やし、下郷の良さを知らせて、買い支えしていきたい。 森陽子さん=産直「土の会」会長(北九州市門司区)= 私たちは、下郷の安全・安心でおいしい農産物や加工品が食べたいのです。なくなったら手に入らなくなります。田植えや稲刈りなど、生産者の顔が見える交流を続けてきました。私たちができることは、買い支えです。下郷のことをどんどん知らせて、若いお母さんたちにもぜひ体験してほしいと思っています。 横山親幸さん=下郷農協・食肉工場長= 合併には、なんらメリットがありません。これは、昨年の経験を通じて、職員の確信になっていると思います。昨年度はなんとかクリアできましたが、今年は本当に経営を安定させたい。食肉部門では、主力の黒豚が増産体制に入りますが、販路を広げて売り上げを伸ばしたい。 中島享一さん=下郷農協労組・書記長= ベースアップは七年間で一回。ボーナスはこの六年間支給がありません。「これでは生活できない」と途中退職者も出ています。しかし、下郷で生まれ育った職員を中心に、働く職場を残そうとがんばっています。合併では、雇用の場がなくなることは明らかですから。 ※〓は、「崎」の異体字、つくり(右半分)が、「立/可」。
(新聞「農民」2006.7.17付)
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[2006年7月]
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