「農民」記事データベース20030811-598-06

安全でおいしい

国産小麦をもっと食卓に

自給率なんと11%だって

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国産小麦にこだわるパン工房を訪ねて

“味、安全…これが一番”

 この道20年 胸はって語る林さん

 「本物の味を伝えたい。安全性ではなんといっても国産小麦が一番」――こんなこだわりのパン屋さんが、埼玉県大里町でがんばっています。田んぼの真ん中に忽然(こつぜん)とたたずむ注文生産のパン工房『ウィンク』。この道二十年というパン職人の林修一さんは「国産小麦はグルテンが少なくてパンに向かないというけれど、作り方の工夫でおいしいパンができます」と胸をはります。

 その「作り方の工夫」とは、グルテンを足すこと。「足りないものは足せばいい。簡単なようだけど誰もやっている人がいなくて、コロンブスの卵のようなアイデアだったんです」と林さん。

 林さんがパン工房を開いたのは二十年前。「残留農薬で虫が死んでしまうような小麦のパンは、お客さんには売れない」と、ポストハーベストのない安全な国産小麦のパン作りが、開店当初からのこだわりでした。「でも最初はレンガのように固くなってしまって。本当に試行錯誤の繰り返しでした」と言います。

 でもそんな苦労の末の“企業秘密”だというのに、林さんは惜しげもなく人に教えてしまいます。「もっともっと国産小麦のパン屋さんが増えてほしい。全国のパン屋が五割くらいは国産小麦を使えば、自給率ももっと上がりますよね」との願いからです。

 ウィンクではグルテンは山形のメーカーが作る国産グルテンを、粉は埼玉県内の製粉業者の「前田食品」が北海道のホクシンや農林61号などをパン向けにブレンドした国産小麦粉を使用。さらにパンの種類に合わせて様々な国内産地の粉をブレンドして使っています。「前田食品との出会いも一つの転機でした。この出会いがなかったら国産小麦のパンは続けられなかったかもしれません。パンに使いやすいように製粉したてでなく二カ月寝かした粉を届けてくれるのも、とても助かっています」と林さんは言います。

 日本ではパンといえばヤマザキやフジパンなど大手パンメーカーに代表される「柔らかい」「腐らない」パンが主流ですが、実は効率優先で、添加物を多量に使っています。「天然酵母の力で何度も発酵を繰り返すなかで、酵母がおいしい成分を作り出すんですが、メーカーでは発酵工程を短縮してこのおいしい成分を添加物でごまかしているんです。工場生産だと微調整の必要な国産小麦もきっとイヤでしょうね。でも私は素材のもつ自然なおいしさをぜひ知ってもらいたい」と林さんは語ります。


安全・安心が「売り」です

 前田食品株式会社(埼玉県幸手市)代表取締役 入江三臣さん

 うちは内麦(国産小麦)が七割。大手とは違って、安全・安心が基本で、それが売りです。国産小麦を自分の所で製粉すれば、素性も明らかですし、トレーサビリティ〈生産過程の記録〉も完璧ですから。

 埼玉県はもともと良質な小麦の産地で、うちはずっと地粉の製粉を手掛けてきて、取引先も県内が多く、愛着もあります。学校給食のさきたまロールの県内小麦粉もうちで製粉しています。地産地消、身土不二ですね。

 近年はパン用などに北海道や群馬県産の小麦も扱っています。パン用にはハルユタカという小麦がたいへん需要が高いのですが、生産量が少なく、昨年は百トン欲しいところ四トンしか手に入りませんでした。農業改良普及所にも、関東で栽培できる高タンパクの小麦の品種開発をお願いしているところです。

 機械も内麦を主体に、最新鋭のビューラー式のラインを組んでいます。製粉の技術文献では、外麦の製粉ばかりで内麦の製粉の記述がありませんでしたが、わが社なりに研究し、お客さんとのやりとりのすえに、いい粉に製粉できるようになってきました。

 生産者の方には、ぜひ高い品質の小麦を生産してほしい。出荷した先でどのように加工され、消費されるのか――生産者と実需者、消費者を結ぶネットワーク作りが必要だと思いますし、我々も国産小麦の普及の一部を担っているという自負をもって、取り組んでいきたいと思います。

(新聞「農民」2003.8.11付)
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2003年8月

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