関税率の大幅引き下げ、ミニマム・アクセス拡大ねらうWTOモダリティ1次案は撤回を!(1/2)
“日本に農業はいらない”(アメリカ通商代表)「日本の農業は経済や雇用の一〜二%を占めるにすぎず、日本の農民の多くは専業農家ではない。これにこだわり、非農産品やサービスの自由化を遅らせるのは間違った戦略だ。農業に日本経済の未来があるわけではない」(「日経」二月十五日など)――アメリカのゼーリック貿易担当大臣(通商代表)は、WTO非公式閣僚会議を前にこう言ってのけました。日本に農業は要らないといわんばかり、「大きなお世話」の暴論ですが、いまWTO農業交渉で行われている議論や提案を見れば、これは単なる失言ではありません。 東京ミニ閣僚会議をめざして出された「モダリティ(自由化の枠組み)第一次案」。各国の意見を聞き、三月中に決める交渉の大枠(モダリティ)を決めるために「柔軟措置」も盛り込んだという触れ込みですが、眼中にあるのは農産物輸出国とアグリビジネス巨大企業の利益だけ。
こんな自由化提案が実現したら、日本農業は壊滅的な打撃を受けます。「自由化ノー、WTOは改定しかない」の声と運動を急速に強めるときです。
自由化案のここが問題 モダリティ案のポイント(1) 米の関税を半分に 誰でも輸入可能に前回の交渉(ウルグアイ・ラウンド)で「例外なき関税化(自由化)」を押しつけた見返りに保証していた高関税を大幅に引き下げる――これが第一の問題です。 日本の米でいえば、現在の関税率四九〇%を四五%引き下げて二七〇%になります。そうなれば中国産の場合、現在の十キロ四千二百九十円から、国産米卸売価格より三割安い二千七百六十円に(図1〈図はありません〉)。 輸入価格には国内の流通経費が上積みされますが、味や安全性の問題を度外視し、“ニセ国産米”にブレンドすることを前提にすれば、大手米流通企業にとっては採算が合う水準です。ミニマム・アクセスとは別枠で、大手商社などが米輸入に乗り出す可能性があるといわなければなりません。
小麦や牛肉、バター、オレンジなども大打撃もちろん影響は米だけではなく、小麦や牛肉、バター、脱脂粉乳、オレンジ、でん粉、コンニャク、落花生などなど広範囲に及びます(表1)。
(2) 廃止どころかミニマム・アクセス拡大を提案「減反しながら輸入とはなにごとか!」――これが農民の強い怒りですが、第一次案はミニマム・アクセスについて、廃止どころか拡大を提案しています。 ミニマム・アクセスの基準年を九九〜二〇〇一年にしたため、基準消費量は多少減りますが、パーセンテージを最大一〇%、特定品目について八%としたために、ミニマム・アクセス米輸入量は増えます(一〇%の場合九十八万トン、八%の場合七十八万トン)。 なぜ要りもしない米の輸入を押しつけられなければならないのか、WTOで初めて導入されたミニマム・アクセスを八年間実施してみた結果はどうだったのか、その説明は一切なし。 「ミニマム・アクセス数量が消費量の一〇%に満たない場合は、一〇%にまで拡大する」「(他の)品目のミニマム・アクセス数量を一二%に拡大することを条件に、一部の品目について八%にとどめることができる」というのが第一次案の表現ですが、これが意味不明のシロモノ。 たとえば、米を八%にとどめるために他の品目を一二%に拡大するということになりますが、日本の場合、小麦はすでに八九%を輸入しており、牛乳・乳製品で三二%、肉類で四七%と、ほとんどの品目で「一二%」をはるかに超えて輸入しており、“おつり”をもらいたいくらい。 農民連は二月十三日の農水省交渉で「トータルで見れば、一〇%をはるかにオーバーしている。これ以上拡大する必要などないではないか。こんな粗雑な提案を相手にするつもりなのか」とただしました。担当官はグッと言葉につまったうえで「第一次案は各国の事情をまったく考慮に入れていない機械的・画一的な提案だ」と答えざるをえませんでした。
(3) 輸出国と大企業の味方WTO「消費量の一〇%以上の輸入」がそれほど意味のある基準であるとすれば、「消費量」に対してカロリーで六〇%、穀物で七二%を輸入に依存している日本は、WTOの“優等生”といってもいいくらい。逆に、穀物や豆類を消費量を上回って「過剰」に生産し、消費量の一〇%以上を輸入している品目がほとんどないアメリカこそ「市場閉鎖的」という理屈になるはずです(図2〈図はありません〉)。 まして「輸出補助金」や「輸出信用」「援助輸出」などによって、農産物を生産コストをはるかに下回る価格で輸出し、世界の国々の農業を荒廃させているアメリカのやり方こそが「貿易歪曲」の最たるものです。 ところが第一次案は、これに対しては大甘で、「更なる検討を行う」というだけ。輸出国と輸入国のバランスがとれていないというだけでなく、巨大輸出国とアグリビジネス多国籍企業の味方・WTOの面目躍如というところです。
(4) 大企業の「開発輸入」を誘導第一次案はさりげなく「先進国は、後発開発途上国からの全輸入に対して無税・無枠を供与する」ことを提案しています。 東南アジアの後発開発途上国はバングラデシュ、カンボジア、ラオスの三カ国ですが、これらの国で日本の大商社などが米や野菜、果実、加工品の「開発輸入」を行った場合、関税ゼロ、無制限で輸入する――これがこの提案の意味です。 二月十三日の農水省交渉で農民連がこの点をただしたところ、「誰が作ろうとも後発開発途上国産であり、理論上は開発輸入であっても関税ゼロで無制限に輸入するということになる」という答でした。 私たちは発展途上国、とくに後発発展途上国の貧困と飢餓を解決することが二十一世紀の課題だと考えています。しかし日本を含む世界中の巨大企業が途上国の低賃金を目当てに乗り込んで、現地の農民と労働者を収奪し、さらにそこでできた食料を開発輸入して「北」の国の家族経営農民の暮らしを破壊するやり方は、二十一世紀の課題に沿うものではありません。
(新聞「農民」2003.3.3付)
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[2003年3月]
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