「農民」記事データベース20021209-566-06

農民連第十五回定期大会決議(案)

関連/I 農業、暮らし、平和を踏みつぶし、日本を破滅させる小泉政治と国民の対決の情勢
   II 農民連のたたかいと国民との共同によって切り開いた成果――一年を振り返って
   III 米・農業つぶしを許さず、暮らしと農業経営を守る運動方針
   IV たたかう主体的力を――組織の拡大と新聞「農民」の購読を広げよう
   むすびに


 輸入の激増と米価をはじめとした農産物価格の暴落、日本の畜産を根底から揺るがしたBSEの発生など、農業と農民経営の危機は重大であり、農民の苦悩は深まるばかりです。こうした事態を引き起こした政府は、農政の破綻を棚上げし、WTO体制のもとで大企業の農業・食料支配を強め、主食に対する国の責任を放棄して、ますます農民に困難を押しつける農業版「構造改革」を推し進めようとしています。

 農民連は、農民の苦悩や要求の解決を国民要求と結びつけ、国民諸階層と連帯して果敢にたたかい、BSEや食品安全問題などで政治や行政を動かして成果をあげてきました。また、「ものをつくってこそ農民」の真価を発揮して安全・安心・信頼できる農畜産物の生産に全力をあげてきました。農民連のたたかいは、広範な農民や国民の間に共感を広げ、存在感を大きく高めています。

 第十五回大会は(1)自民党政治が農業だけでなく国民の暮らしの困難を解決する能力を失い、最低限の暮らしさえ破壊しているもとで、「生活できる最低限のルール」を要求する共同のたたかいを地域から構築すること、(2)また、国による食料政策の放棄に等しい農業版「構造改革」を許さず、米・農業を再生する展望と、地域ぐるみで生産を広げ、全国ネットワークの機能を強めて国民の食料を守る展望を打ち出すこと、(3)新たな情勢のもとで「農業でがんばる人を増やす」仲間づくりと新聞「農民」読者を広げ、すべての都道府県で農業再生を担える農民連組織を実現すること――こうした方針を確立することを目的に開かれます。

I 農業、暮らし、平和を踏みつぶし、日本を破滅させる小泉政治と国民の対決の情勢

1、戦後農政の柱――米・農地・農協を総決算する小泉政治

(1)日本農業を根底から 破壊する農業版「構造改革」

 現在政府が進めているのは「競争力のない産業がいつまでも根強く残っているから日本経済はよくならない、これを淘汰しなければならない」という立場からの破壊的な「改革」です。そのホコ先は、戦後日本農業の復興と農民経営の発展に決定的な役割を果たしてきた米(価格保障)・農地・農協の三本柱に向けられています。

 その方向は(1)暴落した米価を回復させるどころか、稲作経営安定対策の廃止によって一俵(六十キロ)八千〜三千円にまで引き下げて、農民が米作りをあきらめざるをえないようにする、(2)現在百一万ヘクタールの減反面積を百二十〜百五十万ヘクタールに増やすことを前提に、転作奨励金を廃止して、減反をタダあるいは安上がりで押しつける、(3)現在百七十四万戸の稲作農家(販売農家)を八万戸・一万事業体が水田耕作の六〇%を担う「構造」にリストラし、これ以外の農家を「ガーデニング」農家などとヤユして、農政の対象からはずす、(4)農地法の解体的改悪によって大資本・株式会社に農地を明け渡す、(5)主食・米に対する国の責任を完全に放棄し、大資本の流通支配にゆだねる、(6)大資本支配の邪魔になる農協の事業は解体・変質させる――というものです。

 そのため今度の通常国会では、食糧法・農地法・農協法の改悪がたくらまれています。

 現在、米が攻撃の突破口にされていますが、これは農業全体にかけられているものです。攻撃は今でさえ輸入と価格暴落に苦しんでいる野菜や果物、畑作物、畜産物に及び、世界でも異常に低い食料自給率はさらに低下して、国民は「国内産農産物がほしい」と思っても、危険で国民のコントロールがきかない輸入食料に依存するしかなくなるでしょう。アメリカの食糧戦略に屈した食糧政策の放棄、「米を作らない国」づくりであり、“政策”の名に値しない米つぶし・農業つぶしは破綻せざるをえません。

(2)広がる「食への不安」、 国民との幅広い共同

 「BSE」に端を発した「ニセ表示」問題や、農薬残留輸入野菜の蔓延、日本人をモルモットにするかのような遺伝子組み換え食品の輸入拡大など、輸入依存と大企業のモラルハザードのもとで、二十一世紀の日本の食は「何でもあり」の観をていし、国民的な不安の広がりは未曾有のものがあります。また「遺伝子組み換え技術を駆使した工業型農業」が大々的に進められる危険も強まっています。

 「安全・安心な食糧の安定供給は日本の大地と家族農業経営から」の世論と運動を広げる条件はますます成熟しています。

(3)食料主権の確立と価格保障こそが世界の流れ

 (1)ますます矛盾を広げるWTO体制

 WTO協定は、途上国でも先進国でも農産物価格を大暴落させて農業を破壊し、すべての農民が敗者、多国籍企業の一人勝ちという状況を作り出しています。

 二〇〇一年秋にテロに対する結束を最優先し、矛盾を抱えたまま新ラウンドがスタートしました。しかし、WTO実施後の十分な検証なしに、さらなる関税の引き下げなど、WTOの危険な本質を拡大し、WTOをアメリカの経済覇権主義の道具にしようとするねらいに対し、食料主権の確立を対置してたたかう世界の民衆の世論と行動と、WTO加盟国の三分の二以上を占めるにいたった発展途上国の力が前進しています。

 二月には、東京でWTOの非公式ミニ閣僚会議が開かれます。重大な矛盾に直面しているWTO協定を改定させるため、日本での世論と行動を前進させ、高まる「WTOノー」の国際世論との連帯を広げることがますます重要になっています。

 (2)農産物の価格保障は世界の流れ、日本の政治の逆立ちは異常

 日本に米の自由化を押しつけた張本人であるアメリカでは、九六年に廃止した「不足払い制度」を「二〇〇二年農業法」で復活させ、予算を七〇%増額して価格保障を充実させています。タイでも政府が米を買い支える制度を創設し、インド、フィリピン、パキスタン、イラン、スリランカなどでも支持価格の引き上げが行われており、アジアの主要国のなかで米価を暴落にまかせているのは日本だけです。

 WTOの農業つぶしのルールよりも、農産物価格の暴落による自国の農民の苦境を救うことを優先するという当たり前の政治こそが世界の流れです。こうした流れに逆行し、財界の要求にそって価格保障制度を次々に廃止し、市場原理によって農業を破壊している日本の逆立ちぶりはまさに異常です。

 (3)ミニマム・アクセスの廃止・削減の大きな流れを

 国内で余っているものまで輸入を強要するミニマム・アクセスの矛盾をこれ以上放置することは許されません。米の主産地帯である東北・北海道、北陸十一道県の農協中央会が連名で「ミニマム・アクセス輸入米の廃止」と「輸入量の大幅削減」を要求しましたが、ミニマム・アクセスの弊害を明確にし、その削減・廃止を含むWTO協定の改定を腰を据えて主張することこそが国益を守る道です。

2、暮らし、経済、平和を破壊する小泉政治

(1)小泉「改革」による国民犠牲政治

 小泉内閣が進めてきた政治は、大企業の忠実な代弁者となり国民に情け容赦なくムチを振るう弱者切り捨て政治、アメリカに追随して憲法の理念を踏みにじって戦争国家に突き進む政治、公共事業を食い物にした利権政治など、まさに自民党政治そのものでした。農民に対しては、内閣が発足して最初にやったことは、セーフガードの本発動の妨害でした。

 いま、農産物価格の大暴落、リストラによる失業と中小零細企業の倒産などで国民所得が九兆円も減り、国民の暮らしと経営がギリギリまで追い詰められています。

 さらに〇二年十月から実施している老人医療費の負担増をはじめ、社会保障だけで三兆円もの新たな国民負担、消費税率の引き上げや各種控除の廃止による大増税計画、さらに中小企業の倒産と負債農家を離農に追い込む「不良債権処理」などを進めようとしています。また、公務員は人事院の史上初のマイナス勧告により、ボーナスから平均で十五万円も天引きされ、日本経済に及ぼす影響は一兆円といわれます。農業でも事態は同じです。

 経済危機が深刻化しているとき、こんな悪政を許したら、国民の生活や営業、そして日本経済そのものが崩壊します。

 自民・公明による政治が政権担当能力を失い、その堕落ぶりがますます深化しています。同時に、自民党政治を終焉させ、新しい国民の立場に立った政治が望まれているなかで、国民のたたかいをどう広げるか、私たちが活動する農村や農民の中で共同を広げ、たたかう力をどう強めるか、そのことが鋭く問われています。

(2)アメリカの戦争に加担し、憲法を踏みにじる危険な小泉政治

 テロへの報復を理由にアフガニスタンへの軍事攻撃を行ったアメリカ・ブッシュ政権は、ますます一国覇権主義の立場を強め、イラクへの軍事攻撃をもくろんでいます。

 重大なのは、小泉内閣が報復戦争に「テロ特措法」を強行して自衛隊の艦船を派遣し、今また、アメリカのイラク攻撃を容認する態度をとっていることです。また、アメリカの引き起こす戦争に国民を動員する「有事三法案」を制定しようとしていることです。

 こうした動きに呼応して、憲法九条を否定する改憲の策動も重大です。

 平和こそ農業発展の土台です。有事法制を阻止し、いかなる理由による軍事攻撃にも反対し、憲法の平和的、民主的条項を守り、憲法を暮らしと政治に生かすたたかいがますます重要になっています。

(3)悪政によってますます墓穴を掘る自民党政治

 小泉内閣の悪政は、ますます国民との矛盾を深め、彼らの支持基盤を掘り崩しています。

 平和を願う国民のたたかいによって「有事三法案」は阻止されています。医療制度改悪は強行されたものの、三千万人近い署名が寄せられ、自民党の強固な基盤である「日本医師会」も反対の声をあげ、今後、自民党支持を見直すことを表明しています。農民との矛盾もいっそう深化しています。

 農産物価格の暴落や国民負担の強行のもとで、一見、悪政を進める側が大きく見えるものの、国民のたたかいが彼らを追い詰めており、早晩、破綻は避けられません。

 こうしたなかで、長野県知事選での田中知事の再選は、自民党型政治の基盤の崩壊、利権型政治はもはや通用しないことを劇的に示し、住民の健全なエネルギーを力強く示しました。農業を基幹とする秋田県湯沢市や福島県霊山町などでの革新首長の誕生も同様です。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2002.12.9付)
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2002年12月

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