主食・米への完全な責任放棄政府報告は撤回せよ
転作奨励金も「稲作経営安定対策」もいっきょに廃止。国民の主食・米の安定供給に対する国の責任を完全に投げ捨てる――。政府は、十月十七日に再開された「生産調整研究会」に、こういうねらいをもりこんだ“米改革”案を提出しました。十一月に入ってから集中的に審議し、二十九日に最終報告をまとめる予定。いっせい補欠選挙後、国民の批判の声が届かないときにまとめるというやり方自体に、政府の自信のなさが如実にあらわれています。事態はいっきょに緊迫し、国民の主食・米を守るたたかいは正念場を迎えています。
米改革の報告は、生産調整研究会の「中間取りまとめ」(六月二十八日)が提出していた「宿題」に対する「答案」。「宿題」も「答案」も、国民の主食・米つぶしをねらう点ではまったく同類で、国民と農民の立場から見れば“落第点”以下。小泉政権には米を守る気も能力もないことを示してあまりあるものです。 米改革案のねらいは、価格保障を一切やめて米を減産して、生産調整をやらないですむような「あるべき姿」を八年後の二〇一〇(平成十二)年までに実現すること。これが実現できないなら、日本の稲作がほろび、主食・米まで輸入に依存してもいっこうにかまわないというもの。 このねらいを実現するために、かつてなく凶暴な米・農業つぶしの提案を並べ立てています。
外米輸入削減で減反拡大やめよ生産調整については四つの選択肢を示し、期限を切って目標配分と転作奨励金の廃止を迫っています。とくに第一類型では二年後の二〇〇四年で廃止、第二・三類型でも五年後に廃止をうたっています。 これには農協系統代表の研究会委員が猛反発。生源寺座長は「ただちに廃止という議論はこれまでの研究会にはなかった」となだめたものの、これらを「ミックス」して最終案を作ることをほのめかしています。 第一類型以外では、当分の間、生産調整が続きますが、その場合、目標配分は「面積」ではなく銘柄ごとの「数量」配分(都道府県・市町村までは数量、農家には数量と面積)。確認は面積で行うという提案です。また目標配分の根拠になる需給見通しは「第三者機関」(全国米需給検討会議)で検討することにし、ここでも政府が撤退。 一部には、ミニマム・アクセスの問題は放ったらかしにし、主食・米の安定供給全体から国が手を引こうとしていることを全面的に批判するのではなく、「生産調整からの撤退」だけを問題にし、逆に農家を生産調整(減反)にガンジガラメにしばりつけようとする議論があります。しかし、これは問題の矮小化であり、本末転倒だといわなければなりません。 私たちは、(1)減反面積が耐えがたいまでに増えている原因であるミニマム・アクセス米の削減によって減反を大幅に緩和すること、(2)転作奨励金の継続と充実によって、自給率が異常に低い麦や大豆の増産をはかることを要求します。
米価回復どころか一俵三千円も米価暴落をなんとかしてほしい――政府はこういう腹の底からの声にこたえるどころか、あの手この手で価格保障を決定的に改悪しようとしています。 第一は、唯一の米価下支え制度である稲作経営安定対策の廃止。これは「中間取りまとめ」で“一丁上がり”という態度です。 第二は、主食用から業務用、加工用(六十キロ一万円〜三千円)、さらに中国米やタイ米の価格を大きく下回るエサ用(千円弱)まで、「あらゆる需要に応じた米づくり」の名目で米価をとことん引き下げる姿勢をいっそう鮮明にしたこと。 第三は、そのために現在の「自主流通米価格形成センター」を本格的な「米市場」に再編して米の買いたたきと投機の場にすること。 第四は「政府買入価格は…再生産確保を旨として定める」(食糧法第59条2項)という条文が市場原理主義のジャマになるとして廃止し、備蓄用の政府米は集荷業者(農協など)から「入札」で買い入れるという提案。 こうして稲経制度を廃止し、さらに「再生産確保」という文言を法律から完全に消し去ったうえでの、“ウルトラC”ともいうべき提案が、次の第五の手口です。 つまり(1)転作目標を達成しても豊作などによって出る「過剰米」処理の責任を農家に負わせる、(2)その場合、農家に対して米を担保に一年限りの融資を行い、農家はその金を使って過剰米を処理する、(3)処理できず、金を返せない場合、農家は担保である米を“質流れ”にする――という構想です。 問題は、融資の単価、つまり担保の評価ですがなんと六十キロ三千円です! 最悪の場合、農家は三千円で米をとりあげられるのです。 農水省は、これを「アメリカの融資制度的な仕組みだ」と説明していますが、これはカラスを鷺と言いくるめるようなものです。アメリカの融資制度は、農務省が“国営質屋”になって、市場価格が暴落した場合に、五年間の農家平均受取価格の八五%相当の金を貸し、価格が回復しなければ“質流れ”にさせる下支え制度です。 八五%は、日本の米価でいえば一万三千円相当。一方、農水省が示したのはわずか三千円。中国米の輸入原価並みの価格を示しておいて、恥ずかしげもなく「下支え制度」だという厚かましさ。しかも、米に関する「公定価格」は、この三千円以外にはなくなるのです。 竹中平蔵氏は金融担当大臣になったとたんに、「大銀行をつぶす」と言ってのけて株価をドン底まで下げましたが、この三千円構想は“竹中効果”と同じ役割を果たしかねません。
主食・米の大企業支配は許さないしかも、米価暴落をさらに誘導する仕組みの検討だけは熱心なくせに、「担い手」に対する「経営所得安定対策」は、二年も前の古ぼけた提案の焼き直しにすぎません(内容は、カナダですでに破綻が証明済みの「収入保険」)。 「保険」は米価が暴落を続けている状態では一〜二年で破綻し、「担い手」の経営困難を救えないことは、農水省自身が今回の報告で、一段と小さな文字で次のように書いていることからも明らかです。 「(経営安定対策の)本格対策の実施時期は…米価に傾向的な下落がないなどの状態(になってから)」 米価が三千円に下がれば「傾向的な下落がない」状態にはなるでしょうが、そのときには(それ以前にも)、「担い手」自体が日本から姿を消しているだろうと言わなければなりません。 また、報告書は意図的に言及を避けていますが、一方で農地法と農協法を大改悪して、農地も農業も農産物も、そして農協の事業も大企業に支配させるための条件作りが急ピッチで進んでいます。 米流通の野放しによる「米ビジネスの活性化」は、農地法・農協法改悪と結びついて、主食・米に対する大企業支配をもたらすことは必至です。 瑞穂の国から稲作を消さない、国民の主食・米を守る運動をいまこそ強めるときです。 農民連の見解と提案を報道した新聞「農民」号外と雑誌『農民』をぜひお読みください。
(新聞「農民」2002.11.4付)
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[2002年11月]
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