「農民」記事データベース20010917-508-08

全国研究・交流集会への報告(2/4)

農民連事務局長 笹渡 義夫

関連/
I 全国研究・交流集会の目的
II 選挙結果をどうみるか
III 農業・食糧をめぐる 情勢について
IV この間のたたかいの教訓
V 第14回定期大会を展望した当面の活動
VI 今がチャンス、大きな大志をもって新聞「農民」と会員拡大に全力をあげよう
VII むすびに


III 農業・食糧をめぐる 情勢について

 1、WTO協定後の六年間が農業・食料問題にもたらした深刻な危機

  (1)輸入の激増と価格暴落、ものを作らせない凶暴な農業つぶし
 WTO協定後の六年間が農業にもたらしたのは、農産物輸入の激増と価格の大暴落であり、史上最大の減反や青刈り、野菜や果樹の廃棄の押しつけなど、農民にものを作らせない凶暴なものでした。その結果、農業所得の低下や離農の増大、農地の荒廃、生産意欲の著しい低下を招き、このままではものを作る人がいなくなってしまうほどの事態に立ち至っています。

 一方、国民・消費者にはいっそうの自給率の低下と、安全基準の骨抜きによる残留農薬たっぷりの農産物の氾濫や遺伝子組み換え食品の押しつけなど、食の安定供給と安全を脅かす事態が広がっています。

 この最大の原因は、自民党政府がWTO協定を絶対視して農産物を自由化し、市場原理に委ねて価格の下支えや価格保障を全廃したこと、これにつけこんだ大企業が徹底した買いたたきや、低賃金をあてこんで中国などから開発輸入で洪水のように輸入をすすめてきたことによるものです。

  (2)WTO協定によって 破壊される世界の家 族経営農業
 多国籍企業・商社の農産物の買いたたきと開発輸入によって、アメリカ、カナダなどの農民は生産コスト以下に買いたたかれています。この“ダンピング価格”により、途上国は主食の生産の放棄や輸出向け農産物の生産を強要され、激しい収奪が行われています。まさにWTO協定路線によって“一人勝ち”している多国籍企業・商社による横暴は、日本だけでなく、世界の家族経営農業を破壊しているのが現実です。

 こうした流れは、各国の食料主権を乱暴に奪い取り、世界が直面する深刻な食料危機の打開に逆行するもので、世界の農民や人民との鋭い対立点となっています。

 一昨年、アメリカ・シアトルでWTO「閣僚会議」が決裂し、今日なお混迷の度を深めているのは、農民連・食健連のたたかいとともに、非同盟諸国や世界のNGOなどのたたかいによるものです。世界で高まっている批判は、多国籍企業の利益の代弁者となっているアメリカなど農産物輸出国の横暴に向けられたものですが、その根源となっているWTOの存在そのものに向けられる段階になっています。

 先進国の中で最低の自給率に追い込まれ、自国の農業生産を削減してまで農産物の輸入を激増させ、価格暴落によって深刻な打撃を受けている日本で「WTO協定を改定せよ」のたたかいを前進させる意義は重大であり、WTOに大きな影響を与えるものです。

 2、なんの反省もなく、WTO協定を絶対視して農業破滅の道を突き進む自公政治

 WTO農業協定第二十条は協定の「実施の経験」と「世界の農業貿易に及ぼす影響」について「総括」することを明記しています。

 しかし、日本政府の次期交渉に向けた「提案」は、関税化や国内支持価格削減の実施状況を並べたて、いかにWTO協定を忠実に守ったかの総括だけで、日本の農業と農民がどんな影響を受けたか総括をしようとしていません。なんの反省もなく、WTO協定に便乗して凶暴な農業破壊政治を突き進んでいるのが自公政治です。

  (1)飼料用米への投げ売りによる買いたたきと、減反拡大のレールを引いた「需給調 整水田」
 ただ同然で飼料用米への投げ売り押しつけに加え、今年度から減反が五万ヘクタール拡大され、さらに五万ヘクタールの「需給調整水田」が押しつけられ、史上最大の百六万ヘクタールを超える減反面積が押しつけられています。「需給調整水田」のねらいは、外米には手をつけずに農民に米を作らせないための「減反拡大」のレールを引いたものとして重大です。

  (2)大多数の農民を切り 捨てる農業版「構造 改革」のねらい
 WTO協定の具体化である新農基法の制定を強行した自民党政治は、「非効率部門を淘汰」する小泉「改革」の農業版として「構造改革」を打ち出しました。

 内容は、家族経営の概念を投げ捨て、十六万の認定農業者を中心に、四十万の経営体のみを農政の対象にし、三百十二万戸の大多数の農家を事実上、農政の対象からはずして切り捨てるというものです。しかも、農政の中身は、農家から掛け金を拠出させる「保険方式」による「経営対策」が中心で、規模の小さい農家や兼業農民を徹底して差別するものです。

 しかし、輸入を野放しにし、価格保障を一切やらないまま「保険」をスタートさせても掛け金が増えつづけるばかりで、「保険」の破綻は目に見えています。

 農村は兼業農家があって成り立っており、地域農業も兼業農家なくして語れません。兼業農民が生産する米は全体の九割を占めています。これを切り捨てれば、食料生産と自給率の向上、農村経済と農村の機能、国土と環境に取り返しのつかない打撃をあたえることになります。今回の「構造改革」は、単に農家を切り捨てるだけにとどまらず、家族経営農業の「壊滅作戦」であり、農業と農地への資本の参入・支配に向けた大がかりな攻撃です。

  (3)減反押しつけが唯一の役割になり下がった農協中央と農民との矛盾
 WTO協定にもとづいた農業破壊の自民党農政は、政府、自民党、農協中央が三位一体となって推進してきました。特に減反問題で農協中央は、農民に押しつけることをほとんど唯一の役割とする段階になりさがっています。

 農協中央が協同組合の旗を投げ捨てて、悪政の推進者になったことは、単協をはじめ、広範な農民との矛盾をますます深めざるをえません。単協や農業委員会、多様な農業団体との懇談・働きかけを強め、共同を追求することがいよいよ重要となっています。

 3、対米従属、多国籍企業の論理による開発輸入路線は破綻せざるをえない

  (1)「WTOノー」の国際的世論の広がりと、矛盾を深める日米政府
 アメリカの強い意向のもとでスタートしたWTOは、発足後六年にして、深刻な行き詰まりに直面し、十一月の「WTO閣僚会議」は、予断を許さない状況がつづいています。

 WTO協定の被害がもっとも大きな国のひとつである日本が、世界からの孤立を深めるアメリカに追随する立場を取りつづけるのか、それともアジアをはじめ公正な経済ルールの実現を求める流れと共同するのかは、WTO全体の焦点のひとつです。

  (2)農産物だけにとどまらない大企業・多国籍企業の開発輸入と日本経済の空洞化
 大企業・商社が中国など、アジアの超低賃金に目をつけ、日本から資本や技術を持ち込んで生産し、輸入するという「開発輸入」は、米や野菜などの農産物だけにとどまらず、衣料や電気製品、電子機器など、あらゆる分野に及んでいます。

 自民党政府は、企業や工場の海外進出を「経済構造改革法」を制定して援助するとともに、低金利の円借款や海外援助等、国民の税金をつぎ込んで後押ししてきました。

 こうしたグローバル化によって、このままでは、日本はものを作らない空洞化した国となり、農業だけにとどまらず、雇用の場の喪失や地域経済の破壊など、国としての基盤を失いかねない重大な内容をもって推移しています。農業版「構造改革」もこうした流れと根は一つです。

 こうしたやり方がいつまで続くのか、アジア諸国での低賃金を固定化して日本企業が収奪し続けることがいつまで通用するのか、国土と環境破壊がいつまで許されるのか、必ずアジア諸国人民との矛盾、そして、日本での暮らしや雇用、経営を守るルールの確立を求めるたたかいによって破綻することは明らかです。

IV この間のたたかいの教訓

 1、たたかえば情勢を動かせる

  (1)農民の世論とたたかいが政治を動かした暫定セーフガード発動
 WTO協定発足直後から農民連や食健連が要求してたたかってきたセーフガードの発動を求めるたたかいは、千八百を超える自治体決議に広がり、政府を三品目の暫定発動に追い込みました。三品目の暫定とはいえ、輸入一辺倒の政策をすすめてきた自民党政府を農

民のたたかいが動かしたものとして歴史的な成果でした。

 これを契機に、本発動を要求するたたかいと三品目以外の農産物のセーフガード発動を求める世論が大きく広がり、タオルなど他の業界にも飛び火しています。

 たたかいを通して、農業委員会や農協、作物別の業界団体などとの共同が広がり、農民連への期待や信頼が高まったことも大きな成果でした。

  (2)食の安全を求める国民世論の高まりと農民連の果たしてきた役割
 輸入農産物の激増は、「安さ」を売り物に国民をターゲットにしたものでした。

 しかし、輸入農産物が氾濫するなかで九割の国民が外米を拒否し、八三・四%の国民が「高くても国産を食べたい」という願いをもち、その傾向はますます高まっています。

 農民連は、「食品分析センター」の力を発揮して、遺伝子組み換え食品の告発や、ベビーフードまで農薬汚染されていたこと、ハンバーガーのパンなどからの猛毒・マラチオンの検出など、輸入食品の危険性を暴露し、農業・食料のあり方や、私たちの生産する農産物の安全性や栄養価などをアピールしてきました。自給率の低い大豆や菜種作りの努力、「遺伝子組み換え食品いらないキャンペーン」と協力した「大豆畑トラスト運動」も広げてきました。

 いま、大手スーパーなどにも、国内産や地場産の農産物がなくては商売にならないという状況が広がり、生協を含めて農民連への提携の呼びかけが相次ぐ状況に変化していることは、世論の反映であり、私たちの運動が切り開いた重要な成果です。

  (3)世論と税関当局を動かした輸入冷凍弁当とのたたかい
 農民連は、JR東日本の子会社がアメリカに弁当工場をつくり、七月から輸入・販売を始めた「冷凍弁当」問題で、JRや農水省、財務省を追及してきました。

 青刈りまで押しつけている中で弁当の輸入は断じて許せないこと、特に、弁当(米調整品)でありながら「肉・魚調整品」として低関税率で輸入していることを重視し、弁当の分析を行って脱税である証拠を突きつけてたたかってきました。

 たたかいの結果、税関当局を「米飯調整品」として高関税を課税せざるを得ない状況に追い込みました。

 2、変化する流通との提携、多様な産直の実践と客観的条件の広がり

 農民連は、農民をめぐる厳しい情勢とともに、情勢のもう一つの側面として、農業の危機は、農業関連産業の危機であり、ライフエリアの破壊に直結する問題としてとらえ、国民と連帯して事態を打開する運動をすすめてきました。そして、輸入の激増や大企業・商社の横暴で苦しみ、その機能が形骸化されている市場や米卸との提携を重視し、国民本位に流通を再構築すること、多様な“ルート”づくりに全力をあげてきました。

 埼玉・上尾や福島、秋田の中央市場との提携、「ほくほくネット」の米卸を通した小売や消費者との提携は、関東や北陸ブロックにも広がり、近畿圏に広げる拠点となりうる米卸との話し合いも始まりつつあります。「スーパースイートきぼう」のリレー出荷や直売所づくり、学校給食や多面的な産直など、交流集会で大いに交流し、前進させましょう

 3、地域全体を視野に入れた、支部・班を軸にした活動と組織づくりの教訓

 価格暴落のもとで、農地の荒廃や担い手不足が平場や中山間地を問わず深刻で、減反の拡大がこれに拍車をかけています。こうしたもとで、励まし合い、助け合って生産と農地を守ることが、どこの地域でも重大な課題となっています。ブロックローテーションによる減反田を利用した転作大豆づくりをすすめている福島県の「浜通り農業を守る会」は、地域の農民や自治体からも共感されています。

 自治体と提携して荒廃地に野菜を作り、町のアンテナショップへの出荷や、地元市場の仲卸を通してスーパーに「朝採り野菜」を供給している岡山・加茂川町の実践、山形・庄内農民センターの「だだちゃ豆」を中心にした生産活動の前進、農業機械の共同利用などで集落営農全体を守る運動をすすめている新潟・笹神村の経験などは、地域農業全体を視野に入れた「地域づくり」の視点をもった取り組みとして全国が学ぶべき経験です。これらの運動は、支部がみんなで話し合い、助け合ってすすめている実践です。私たちがめざす「支部・班を軸にした運動」の発展方向としても重要です。

 4、農林漁業の振興で農山村を蘇らせる――町村との提携

 「全国町村会」は、「21世紀の日本にとって、農山村が、なぜ大切かに揺るぎない国民的合意にむけて」(二〇〇一年七月)というアピールを発表しました。小泉「改革」の地方切り捨てに対する反論であり、農山村の多面的機能・役割に光をあて、町村を農林漁業の振興によって発展させようとする方向を強く打ち出しています。

 こうした動きは、自治体に提案し共同する立場をとってきた農民連にとって歓迎すべきものであり、地方自治という観点からも注目に値するものです。同時に、農民連と町村の努力が結びついたときに大きな前進的方向が切り開けるでしょう。まさに農民連の役割は重大です。

(新聞「農民」2001.9.17付)
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