「農民」記事データベース20000911-462-06

農民連全国研究交流集会

あいさつをかねた報告

代表常任委員 小林節夫

関連/
新潟で '2000全国研究交流集会
研究交流集会での特別報告 (1)
研究交流集会での特別報告 (2)
研究交流集会での特別報告 (3)
研究交流集会こぼれ話


 この集会は全国大会や全国委員会ではありませんから、全国の実践や経験を学び合う場にしようということで、常任委員会からの全面的な報告をしないことにしてきました。

 しかし、情勢が緊迫しているなかで、本部からの一定の報告がないと、どこに焦点があるのか理解されないまま実践報告がされても、あまり効果的でなかったという反省もあって、情勢の変化をめぐって常任委員会としての一定の報告をすることにしました。

 私たちが、すべての農産物の暴落という厳しい情勢のもとで運動をするとき、二つの側面からの取り組みが必要です。

 第一に、より根本的な解決の方向――とくに緊急輸入制限(セーフガード)の発動や自主流通米の値幅制限復活、あるいはWTO協定の改定などは不可欠の運動です。

 また第二に、さしあたっての切実な要求にもとづく運動が必要です。歯止めのない輸入急増・価格暴落に、いまただちにどこから手を着けるか――これが追求されないと、政治に失望しているだけに、諦めは決定的になるでしょう。

 ここでは、第二の点に焦点を当てて報告します。

I 農業つぶしはここ まで来ている

――情勢のきびしさをどこまで認識するか…

(1)米・青果物の輸入急増と暴落は農民経営を壊滅させる

 野菜の暴落は、けっして野菜の消費が減ったことや豊作が根本原因ではありません。輸入の急増――WTO加盟前に比べて昨年は三倍半にも輸入が増えたことによるものです。生産が五%多くても暴落するのが野菜の世界です。それがこんなに輸入されたのでは、暴落するのは当たり前です。

 大商社や量販店は小さな商社も使って、中国などに日本の種子を持ち込んで作らせて安く輸入する「開発輸入」に狂奔しています。

 尾崎亨氏(酪農学園大学)のアンケート調査によると、「生鮮輸入野菜を取り扱う輸入業者の場合、減らすと答えた業者は一社もなく、どの販売額層(の業者)とも増やしていく意向が強く、販売額層全体では九〇・五%の輸入業者が今後とも生鮮野菜の輸入を増やしていきたい意向をもっている」(農政調査委員会『日本の農業』No.213ということです。

 一方、農水省はそのために必要な道路網や港湾の施設を作るのを援助し、外国で周年的・リレー的に野菜を作らせて輸入するために、ハウス栽培による周年供給まで検討する――いわば日本に農業は要らないという方向を、国費を使って「委託調査」をしています。

 かつては日本で不足したときに野菜が輸入されましたが、いまでは日本で間に合っていても輸入するというやり方に変わり、さらに外国で周年栽培しても足りないものを補完的に国内で生産するという方向を歩みはじめています。商社や量販店のもうけのためには、日本農業や国民の食料などどうなってもかまわない――ここがこれまでとは根本的に違うところです。

 この事実をはっきり認識することが第一の問題です。

(2)米の暴落をめぐる情勢

 米の暴落の問題も本質的には同じです。暴落の真の原因は豊作ではなく、外米(ミニマム・アクセス米)の輸入の累積が「余る」原因になっていることは明らかですが、政府・自民党・農協中央は相変わらず「豊作」のせいだという宣伝を繰り返しています。

 私たちは減反を全部やめろといっているのではなく、減反を強制しながら毎年輸入を増やし、しかも、全農の子会社・組合貿易がSBS米(売買同時入札方式により、主に主食用に輸入される米)を毎年輸入していることに反対しているのです。

 減反強化で暴落をくい止めることができないことは、オレンジ自由化後、ミカンの木を切ったらかえって輸入が増え、いっそう暴落が進んだ事実を見れば明らかではありませんか。

 コメの関税化で事態はいっそう先鋭化し、今年も「豊作」「米あまり」が喧伝されています。白を黒だと言いくるめ、真実を言うものを「国賊」と言って圧迫・弾圧した太平洋戦争中の大本営発表と同じことが公然と行われています。こういう亡国的な巨大なウソとたたかわないで農民運動と言えますか!

 そういうなかで、私たち農民にとって見過ごすことができない大きな問題が系統農協を中心に起きています。

 (1)農協の株式会社化――「全農パールライス東日本株式会社」の設立
 日本農業新聞(七月二十八、二十九日) によれば、系統農協が広域合併を進めるなかで、全農(全国農業協同組合)は全国の経済連を合併するとともに、米の問題では「全農東日本パールライス株式会社」を設立し(西日本でも同様)、全国展開している量販店に対して迅速に対応しようとしています。系統農協もさることながら、自民党・農水省が一体となって推進していることはいうまでもありません。

 (2)農協の事業区域規制撤廃を検討――農水省
 農水省は、農協の事業区域がダブることを禁止していた「事業区域規制」(ゾーニング規制)を撤廃することを検討しています。これは、全農に合併しない経済連を痛めつける全農の策略を可能にします。

 もし、これらが実現すると、全農は農業協同組合の名をかりた株式会社として、中国米など外米を輸入する事業に臆面もなく取り組むようになるでしょう。

 農水省は、交渉で「“野菜の緊急輸入制限をしろ”とあなた方は言うけれど、日本の農民が需要をまかないきれるのか」と開き直るのが常ですが、農協系統もまた同じ論理で行動することになるでしょう。

 これらのことが強行されたら、どうなるか――。

 (a)量販店が大商社を通じて外米を輸入し、私たちが作る国産米を買いたたくことは、野菜の暴落を見ても明らかです。巨大化した全農が、こういう量販店の要求に迅速に対応するということは、買いたたきにいっそう拍車をかけることを意味します。また、お米屋さんが一番逆襲すべき相手と考えている量販店のニーズに迅速に応えるということは、小売をつぶすことでもあります。

 (b)農協が農協でなくなることを意味します。これまでも、コメ輸入自由化反対の農協が関税化に賛成したり、全農丸抱えといっていいような「組合貿易」が外米を輸入するなど、これが農協かと思うようなことがありましたが、全農がこういう株式会社を作ったり、農協間の競争をさせるということは、誰が見ても、完全な変質を遂げることになるでしょう。

II もう一つの情勢

――われわれの運動と関連の中小企業の状況など――

 農業つぶしの政策は極限にまで来ていますが、その一方で、農業つぶしの政策そのものが生み出す矛盾にも目を向ける必要があります。

(1)国民世論の動向

 国民の中には、四年前ですら「高くても国産の農産物を」という世論が八三・四%を占めていました。本来なら、昨年九月に総理府が同じ調査をしているはずで、もう発表になっていいはずですが、いまだに何の音沙汰もありません。

 しかし、食糧庁「食糧モニター」調査 (二〇〇〇年三月二十四日発表)によれば、「外米は“買いたくない”」消費者が九一%にのぼり、アメリカ産米、オーストラリア産米は四七%の人が「どんなに安くても購入しない」と言っています。外米を購入したいと思うごくわずかの消費者も、その動機は「料理法によって使い分けたい」が七二%、「一度試しに」が二二%で、常食として外米を食べるようという人はほとんどいないのが特徴です。

 残留農薬、遺伝子組み換え作物、O-一五七、狂牛病など輸入農畜産物と加工乳など加工食品の安全性についての国民の不安は、今後も強まることはあっても弱まることはありません。

(2)農業関連の中小企業の不安

 すでにこれまでも確認してきたことですが、農業つぶしの政治のなかで、中小の関連産業も大きな打撃を受けています。卸売市場や米流通の分野でも同様で、関連産業が生き残る方向が農業と連帯するしかないことも次第に明らかになっています。

 詳しくは農民連・産直協の決定「農業と関連産業の危機にあたって、多様な流通を共同で探究しよう」が新聞「農民」(四月十七日)や雑誌『農民』(No.51)に発表されていますが、私たちと関連産業の共同を広げる条件が広がっており、それは私たちの運動の発展にとって非常に大きな意味をもっています。

(3)「ほくほくネット」の運動が果たしているもの

 全農が「パールライス東日本株式会社」を設立する動きのなかで、お米屋さんたちは不安を募らせています。お米屋さんがつぶれてしまえば、量販店の天下です。大商社・量販店の戦略を考えれば、農民とお米屋さんはもっと力を合わせるべきではありませんか。

 「ほくほくネット」の取り組みはそのことを鮮やかに示しています。この取り組みが大阪にも波及し、九月には「ほくほくネット」や農民連・産直協と話し合うまでになっています。

 また、上尾市場傘下の小売店・個人スーパーでの店頭販売がさらに広がる可能性もあります。

 これらは、私たちが強調してきた可能性がさらに現実的なものになっていることを示す、情勢のもう一つの側面でもあります。

III この情勢下、どこから 手をつけるか

 WTO農業協定は各国の食料主権を認めず、また、本来の農業とは相いれない競争原理・効率主義を最大の原理とするという極めて歪んだものですが、国際世論の流れからして、このまま二十一世紀に通用するものでないことは繰り返すまでもありません。

 どんな柱でたたかえばいいのでしょうか。大まかに言えば――

 (1)緊急輸入制限(セーフガード)の発動

 (2)自主流通米の値幅制限の復活

 (3)価格保障の撤廃反対、充実

 (4)WTO協定の抜本的改定

 (5)国際連帯の活動などがあげられます。

 これらは、この秋以降の重要な運動の課題です。そして、明日、真嶋良孝事務局次長からこれらについて補足的な報告があります。とくに、緊急輸入制限(セーフガード)の発動と、自主流通米の値幅制限の復活は欠かせない闘争課題です。常任委員会はこの二つをこの秋の全国的な課題として決定し、たたかいを呼びかけています。これはWTO協定の再交渉が始まろうとしているいま、非常に大きな意味をもっています。

 ただ、いまの農民の気持ちは、それを待てないという切羽詰まったものがあります。

 八月に出た『歯止めのない輸入・価格暴落 これととどうたたかうか』というブックレットは、こういう気持ちに応えるものです。これに関連して、とくに、すぐ組織全体で進めたらどうかという問題にしぼって報告します。

(1)市場関係者(卸・仲卸・小売)と協力し、「消費者との連帯」をめざした運動を

 この三〜四年来、私たちは流通の変化を踏まえて、卸売市場関係者や小売業者との共同を探究し、生活圏(ライフエリア)を守ることの重要性を強調して、実際に市場出荷でも新しい分野を切り開いたり、経験を積んできました。

 この到達点に立って、いま求められるのは、小売の先、つまり消費者との交流を重視し、流通の一番末端から、輸入農畜産物とたたかおう、量販店と対抗しようという問題です。

 この課題に力を入れることは、国産指向が国民の間に根強く育っているという運動の到達点を踏まえるとともに、一番の底辺で、生産者と消費者が市場流通を介して結びつく運動を起こそうというもので、もしこれが発展すれば輸入農産物とのたたかいに大きな展望を切り開くことになります。ここが運動の新しい挑戦です。

 米屋さんにせよ八百屋さんにせよ、この人たちと消費者が結びつくような運動に、卸の協力を得て総力をあげる、この人たちがイベントをやりたいというなら組織を挙げてすべて応える――ということです。米屋さんの中には、米以外の雑穀、豆、野菜などのこだわり商品を店に並べて、本業以外の方が儲かっている店だってあるくらいです。

 こういうことを、一時的に、また忘れた頃にやるのでなく、系統的に、またブロック間の協力も含めてやりたいものです。また、これを契機に、農村へのツアーを募ることも考えられます。

 忘れがちなのは、店頭販売やイベントのときの消費者への宣伝です。

 売り買いがともなう話ですから、すぐに価格のことになりやすいのですが、卸にせよ小売にせよ、大商社・輸入業者や量販店の横暴によって街がさびれ、自分たちの営業が立ち行かないのですから、情勢がどこまできているか、農民連はどういう方向でこれを打開しようとしているのか、よく懇談することが重要です。

 いまはルートをつけることが大事です。価格が高いか安いかで即断するなど論外です。ほんとうに価格問題を考えるなら、情勢と、農民・小売・消費者が共同して、大商社や量販店の横暴に対抗するために大同団結することが意思統一されるべきです。

 生産・流通にかかわるいろいろの課題は、この点を踏まえようということを大いに強調したいと思います。

(2)産直・地場流通(直売所・朝市・日曜市など)をさらに発展させるとともに、それだけに止めず蓄積を市場流通の運動にも生かす

 産直運動は、日本の食料と農業を守る世論を盛り上げるうえで大きな役割を果たしてきました。この世論や運動こそが、流通を守れという最大のバックボーンになっているのです。だからこそ、新たな意気込みで産直を強めたいものです。

 もう一つ、産直や直売所には、これまでの市場流通にはない特徴があります。郷土の特産、伝統食、雑穀、地域の農産加工(漬物、醤油、ナタネ油、赤飯、お餅、きびもちなど)は産直・地場流通が最も得意とするところです。

 市場関係者が驚くのは、こういうものが店頭販売で人気を呼ぶことです。こういう様々な試みや挑戦で、消費者と小売店と結びつけることを基礎に据えた市場出荷をめざそうではありませんか。

 ブルーム・キュウリがブルームレスに追われて久しいのですが、本気で輸入キュウリに負けずにブルーム・キュウリを売り込もうというなら、組織として、浅漬けのブルーム・キュウリを店頭で消費者にアピールしたり、その状況を小売店主に認識してもらいましょう。そういう燃えるような開拓精神がいま求められるのではないでしょうか。

 生協にせよ、新婦人にせよ、産直がマンネリになってはいないか、自己点検が求められる時期にきているように思われます。

 そして、ここでも食料の生産と安全性がどんなに危ないところまで来ているのかという話が欠如しがちです。分かりきったことのようですが、消費者と生産者の直の話し合いがどれだけ実行されているか、再点検の必要はないでしょうか。

 こういう再点検と改善が進むなら、これらの経験はそのまま前項の課題の実践に対して非常に大きな貢献ができることは疑いないでしょう。

(3)あらゆる機会に食の安全性を訴えよう

 食の安全性に対する国民の不信はかつてなく根深いものがります。ビデオや本を活用して、消費者に「何を食べるべきか」を徹底して宣伝しましょう。

 これは大企業の安全無視や輸入農畜産物とのたたかいの最も重要な武器、たたかいの“かなめ”の一つと言うべきでしょう。

(4)作る仲間を増やす――まだ組織が小さく産直や市場出荷にも心が動かない人たちに、「作ろうよ」と呼びかける運動――

 どうしたら、諦めかけている人々がまた作るようになるでしょうか。どんな人たちが、どういう風にしてまた作るようになったのでしょうか。

 その点では、全国の取り組みのなかにはずいぶん参考になるものがあります。まず目につくのは女性が参加することで、これは全国どこでも共通しています。

 規模拡大ばかり教育されてきた男性は、官僚やマスコミに「趣味の農業」とか「生き甲斐農業」とか言われると落ち込んでしまいがちですが、では、そういう言葉を吐く人たちに、自分たちの仕事に生き甲斐があるのか、今の農政に誇りをもっているのか、と問いたいものです。

 理屈は言わなくても、農村の女性にとっては「農民だから作る!」のがごく当たり前の意識になっているのではないでしょうか。作ったら余る、余るから売る、こうして直売所ができる――。いくらでも見受けられることです。

 さびれた商店街で直売所が開けるかもしれません。朝もぎのナスの刺(とげ)が痛いことに都会の消費者が感動したという話がありますが、こういうことは、消費者に、朝どりの地場産と輸入ものの差を強烈に印象づけるでしょう。それは一見たいしたことには見えないかもしれません。でも角度を変えてみれば、今の情勢のもとで重要で、新鮮な意味をもっています。

 なるほど、直売所などどこでも行われていたことです。それだけで完結したものでした。ところが、そういう直売所のグループを横につなげると、共同で品ぞろえができます。運動体はこういうつなげる仕事をしなければなりません。

 対象は女性だけではありません。「定年帰農」という言葉がはやり、同名の雑誌も出ています。これまで兼業農家だった労働者に「帰りなん、いざ。田園まさに荒れなんとす」(陶渕明)と呼びかけましょう。

 また、地域の兼業農家の労働者にも、食料・農業の現状や展望を語り、親父に「農業はオレ一代限り」などと言わせない熱い呼びかけをしましょう。いまほど、農業・農山村への誇りが大事なときはありません。ここまで荒廃した教育の建て直しにもっと農業が係わってしかるべきです。

 そのように見ていきますと、呼びかける対象はずいぶんたくさんいます。

 こうして一人一人の作る量は少なくても、作る人が増えてくれば、直売所へ発展もし、地方卸売市場にまとまって出荷もできるでしょう。可能性があればどこまでも追求しましょう。

 個々バラバラではその季節には間に合わないものでも、農民連・産直協のネットワークを利用すれば多彩な品ぞろえができます。また、ある時期にはそこでは余って売れないことがあっても、組織的に取り組めば地元の市場への出荷も可能になります。遠くの市場ならなおさらです。

IV 新聞「農民」と仲間 を増やす課題

 仲間作りに先行して、新聞「農民」の読者を増やす運動が系統的に続けられてきた新潟・西蒲原農民連の経験に学ぶという意味があって、この地で全国研究交流集会を開きました。

 日本の農業と食料がここまで危機に陥っていることを知ってもらうためにも、また、打開のために、全国でどうがんばっているかをつかみ、展望を語るうえでも、新聞「農民」を読んでもらうしかないのです。

 単に部数で追いかけるのではなく、取り組みのあらゆる段階で、新聞「農民」の普及と仲間づくりを意識的に、計画的に追究しましょう。

 厳しい情勢について報告し、その中でも、この線で踏みとどまってがんばろうという提起をしました。

 作ってこそ農民! いまこそ、農民連に結集し、意気高くがんばりましょう。

(新聞「農民」2000.9.11付)
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2000年9月

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