「農民」記事データベース20230109-1535-08

生産する消費者が
地域の食と農を守る
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奈良県で進む多様な担い手づくり

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 営農人口が減り続け、食料を生産する人が地域からいなくなる――。担い手づくりは待ったなしの課題です。
 奈良県農民連会長の森本吉秀さんと、米農家で「かしはらオーガニック」代表の山尾吉史さんは、地域の担い手づくりにとりくんできました。これから大きな役割をしてくれるのは「土を耕す消費者」と森本さんはいいます。奈良県で取材をしました。
(村上結)


棚田の景観を守りたい
米づくりにかけた思い

細川の棚田を守る
佐藤佐知さん

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稲刈りを終えた田んぼで家族そろって(左から2人目が佐藤さん)

 桜井市に住む佐藤佐知(さち)さんは昨年、明日香村の細川という集落の棚田17枚を預かり、米づくりに挑戦しました。山々に囲まれ空が近い、美しい集落。棚田の持ち主だった集落の人が、4月に亡くなり、森本さんに耕作の依頼がきました。「一緒にやりませんか」と佐藤さんに声をかけます。

 「とにかく人を集めてほしい」。森本さんの言葉から、佐藤さんの壮大な計画が始まります―。

 3年前に奈良に移住してきた佐藤さん。それまでは大阪の都心部で「当時の自分が理想とする生活」を送っていました。2018年に起きた大阪北部地震で、その価値観は180度変わったと話します。「自分の時間を切り売りして得た高価なものに囲まれた生活。でも震災で自分たちの身の振り方が全く分からなかった」。そして消費者から生産者になるために奈良への引っ越しを決意します。

 棚田での米づくりを成功させるため、佐藤さんは「イベントとして企画したい」と集落の人たちとつながり、協力をお願いします。チラシを作成し、周辺のトイレなどを示す工夫をします。そして「片っ端から友人に声をかけ、『とにかく助けてください』と。あなたが困ったときは私も助けます。もしもの時、作物を作れる人と直接つながっていてほしい、と伝えました」。それに応えて、田植えには139人、稲刈りに109人が参加しました。

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青空と「幸せの黄色いハンカチ」の下で子どもたちもたくさん植えました

 佐藤さんが大事にしたのは、多くの人に農作業を体験してもらうこと。「田植えに6日間、稲刈りに5日間を設定した。たとえ収量が落ちても体験者を増やしたい。それは『棚田の景観を守ること』を一番に考えていたからです」と笑顔で話す佐藤さん。

 参加者に収穫した天日干し無農薬米をしめ縄と一緒にして届けました。支えてくれた集落の人たち、参加してくれた友人に感謝の気持ちを語る佐藤さん。「今年は、生産者と消費者の間での『シェアリング』を実践していきたい。労力、食べ物、知識をベースに、共有し循環していく仕組みを考えています」

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(新聞「農民」2023.1.9付)
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2023年1月

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