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米を守る農民連の要求と提案
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2012年11月 農民運動全国連合会

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(4)価格保障・所得補償を柱に、老壮青のバランスのとれた担い手づくりへ

 日本農業を再生し、食料自給率の向上に踏み出すためには、(1)歯止めなき自由化にストップをかける(2)生産費を償う価格保障・所得補償(3)後継者確保に力を入れ、“老壮青”のバランスのとれた農業に――の“3点セット”の実現が不可欠です。

 1.生産費を償う価格保障こそが農業再生のカナメ

  (1)戸別所得補償制度の変質

 民主党がマニフェスト(選挙公約)の目玉として打ち出した戸別所得補償制度は、生産調整を実施する稲作農家を対象に、「定額部分」として10アールあたり1万5000円(1俵=60キロ1700円相当)を補償し、「変動部分」として「標準的生産費」との差額を補てんするものです。しかし、「定額部分」が買いたたきのターゲットになったにもかかわらずこれを放置し、「標準的生産費」は実際の生産費を2割カットして農家に赤字生産を押しつけるなど、きわめて不十分な制度といわざるをえません。

 しかも民主党は、戸別所得補償制度を法制化して恒久的な制度にしようと、自民・公明両党と協議を続けていますが、その内容は、対象を大規模農家に限定することや加入者負担を強いる保険方式の導入などです。これでは農家の経営を守ることはできません。

 さらに財務省が発表した「農政の目標についての課題」(2012年8月22日)は、次のように民主党政権の政策をあざ笑い、戸別所得補償制度の完全変質をねらっています。

 (1)食料自給率が低下したことばかり注目されているが……低位で安定的に推移している。

 (2)食料安全保障という意味では、仮に、転作にかかる費用(戸別所得補償財源)で備蓄を行ったとすれば、2000万トン超の(輸入)小麦の備蓄さえ可能である。

 (3)かつて、米は食管法による全量管理が基本であったが、そのDNAはいまも残っている。

 (4)TPPに参加した場合でも、価格低下を直接的に補てんするような措置は、自由化のメリットを相殺し……財政上も数兆円の経費を要しかねない。

 これでは、(1)食料自給率向上目標は不必要、(2)小麦の増産や米備蓄をやめて輸入小麦を備蓄しろ、(3)米の価格と流通に対する国の責任放棄をさらに進めろ、(4)TPP参加にともなう“完全自由化補償制度”としての戸別所得補償もやめてしまえ、といわんばかりです。

  (2)生産費を下回ったら不足分を補う新たな価格保障の仕組みを。1万7000円以上の生産者米価を実現

 農民連は、生産費に見合う当たり前の価格が形成され、これを下回った際には不足分を補う新たな価格保障の仕組みを提案します。

(1)国は年度ごとに米の価格保障水準を設定する。その水準は、直近5年間の米生産費の平均とし、全国一律とする。

(2)国は、市場での公正な価格形成と備蓄米の買い入れとの組み合わせで、需給と価格の安定をはかり、保障水準の維持に努める。

(3)市場価格が保障水準を下回った場合は、不足分を全額補償する「不足払い制度」を設ける。

(4)条件不利地や環境保全の取り組みなどに対しては、別途、所得補償を上乗せする仕組みにする。

 過去5年間平均の米の生産費は、60キロあたり1万6448円(資本利子や地代を含めた全算入)、過去10年間では平均1万6900円です。農民連は、せめて1万7000円以上の生産者米価を要求します。

  (3)年々減少する農林水産関係予算に歯止めをかけ当面3兆円に

 農林水産関係予算は年々減少し、2012年度は2兆1727億円にまで落ち込んでいます。国の一般会計予算に占める割合も、1970年代には10%でしたが、2000年度には4%台に、2012年度にはわずか2・2%。これでは日本の米を守ることはできません。60キロあたり1万7000円以上の生産者米価を保障するためには、私たちの試算では4000億円余りあれば可能です。また、加工用米や飼料用米、米粉用米も生産費に見合う価格保障を行うなど、価格保障・所得補償を農林水産関係予算の主役にして、当面3兆円のレベルまで回復するよう要求します。

 2.若い農家を育てる国家プロジェクトで“老壮青”のバランスのとれた担い手づくりを

  (1)年間5万人を超える新しい農の担い手を確保する一大国家プロジェクトを

 菅前首相は「農業従事者の平均年齢は65歳を超えており、このままでは、自由貿易がどうなるということを抜きにしても、日本の農業は立ちゆかなくなってしまう」と述べて、TPP参加を言い出しました。しかし、機械化によって“苦役”から解放され、農業は高齢者にも十分可能になりました。都市に比べて高齢化が進んでいる農村で、高齢者の経験と力をいかし“老壮青”のバランスのとれた農業を追求することは、日本社会の新しい発展モデルを切り開くものになるでしょう。

 もちろん“老壮青”のバランスのとれた農業にするうえで、若い力を育てることが重要なことはいうまでもありません。若者や「定年帰農」、Uターン、Iターンなど、年間5万人を超える新しい農の担い手を確保する事業を一大国家プロジェクトとして実施することが重要です。

 国内外に立派な手本があります。フランスでは、1973年から「青年就農者育成支援制度」を実施し、山岳地域に夫婦で就農する場合、3年分の生活費として約700万円(月20万円)を補助し、農地や機械、家畜などを無利子であっせんし、徹底的な技術・経営訓練を行っています。この制度の成果はめざましく、約30万人の青年就農者を確保しています。

 農家戸数比でみれば、日本では100万人に相当します。こういう思い切ったプロジェクトの結果、フランスの農民の年齢構成は、50歳以下が55%、65歳以上が7%と、日本とは正反対の構造になっています。

 国内でも、多くの自治体やJAなどが、新規就農者を育成するための事業を実施しています。

 たとえば、愛知県豊田市とJAあいち豊田が運営する「豊田市農ライフ創生センター」では、2年間の栽培研修や農地あっせんなどの支援によって、発足から8年間に267人の新規就農者が誕生し、ほとんどが定着しています。島根県では、県外からの就農希望者に2年間で月12万円を助成し、まずは兼業農家になってもらう事業が成果をあげています。北海道美深町の後継者のいない酪農家は、新規就農者の受け皿として「R&Rおんねない」を立ち上げ、後継者への経営継承を実現しています。

 農民連は、新規就農者に月15万円を3年間支給して毎年5万人育てる国家プロジェクトの実施を提案します。

  (2)期待の大きい青年就農給付金、いまだ認定者ゼロ

 政府は今年度から青年就農者を育てようと「青年就農給付金」制度を導入しました。民主党政権の数少ない善政の一つといってよいでしょう。ところが、2012年10月段階で給付金の認定はゼロです。

 原因は、青年就農者を認定する前提になる集落単位の「地域農業マスタープラン(人・農地プラン)」づくりが進んでいないことと、予算不足によって認定要件を厳しくしたためです。農水省は、この制度の対象を8200人程度と見込んで104億円の予算を計上しました。ところが、3月に事前調査を行ったところ、1万5400人余りの利用希望者がいることが判明しました。このため農水省は2012年4月6日付で「妻子をかかえ自ら生計を確保しなければならない者」とか「高齢化が進展するなど新規就農者の必要性が高い地域」などに対象者をしぼりこもうとしています。“仏作って魂入れず”なのか、それとも“魂”を初めから入れる気がなかったのかといわざるをえません。

 本当に青年就農者を増やす気があるのならば、優先順位をつけるのではなく、補正予算などで財源を確保し、希望者全員を対象に支援すべきです。また親元就農についても、経営継承の実態などを踏まえて受給要件を緩和すべきです。

 また、高齢者もりっぱな担い手です。その経験と能力を活かして“老壮青”のバランスのとれた「担い手」づくりをめざすとともに、集落営農組織も家族農業を補完する自主的な組織として生産を継続できるよう、国は支援を強化すべきです。

  (3)“規模拡大神話”から脱却し、助け合いで集落を持続させるための「プラン」づくりへ

 民主党政権がTPP対策として進めている「平地で20〜30ヘクタール、中山間地で10〜20ヘクタール経営が大宗を占める農業構造」をつくるための「人・農地プラン」は、規模を拡大すれば農村の疲弊や高齢化の問題は解決できるという“規模拡大神話”に取りつかれたもので、9割以上の農家を切り捨てるプランづくりです。

 「人・農地プラン」づくりは、集落単位の話し合いで、「担い手」と「そうでない人」を選別して農地の集積目標を立てることになります。しかし、事前のアンケート調査では、地域によっては大多数の農家の意向が「現状維持」でプランが作成できず、地域での話し合いが省略されるなど、行政主導の「上からの話し合い」で決められるケースや、プランを作っても農水省から差し戻されるケースが続出するなど、現場は大混乱です。

 「人・農地プラン」の最大の問題点は、農業を衰退させた政治の責任を棚上げしたまま、「担い手不足」を口実に多数の農家を締め出し、一部の「担い手」に農地を集積することにあります。その動機は、TPPへの参加を前提にした国際競争に「対応」するためであり、この方向は持続可能な農村集落の機能を破壊し、食料自給率を下げることにしかなりません。

 「人・農地プラン」づくりは、機械的な農地集積ではなく、助け合いで集落を持続させるための話し合いを基本に、現状に対応した柔軟な運用を要求します。

むすび

 「米改革」は、米を一般の商品であると突き放し、「売れる米作り」と称して、条件不利地域を見放し、低米価を生産者に押し付けてきました。しかし米は、日本列島3000キロにわたって、さまざまな条件のもとで基幹作物として生産され、農山村の景観、国土と環境の保持、文化の継承など、多面的役割を果たしています。

 また、こうした機能を守るための水路の維持管理など、住民全体がかかわっています。米は一般商品ではなく、まさしく主食なのであって、持続可能な社会の根幹にかかわる課題です。

 私たちは、政府に米政策の転換を強く求めるとともに、国民の共同で食と農を再生することを強く呼びかけます。

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(新聞「農民」2012.11.19付)
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2012年11月

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