米を守る農民連の要求と提案
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しかも民主党は、戸別所得補償制度を法制化して恒久的な制度にしようと、自民・公明両党と協議を続けていますが、その内容は、対象を大規模農家に限定することや加入者負担を強いる保険方式の導入などです。これでは農家の経営を守ることはできません。
さらに財務省が発表した「農政の目標についての課題」(2012年8月22日)は、次のように民主党政権の政策をあざ笑い、戸別所得補償制度の完全変質をねらっています。
(1)食料自給率が低下したことばかり注目されているが……低位で安定的に推移している。
(2)食料安全保障という意味では、仮に、転作にかかる費用(戸別所得補償財源)で備蓄を行ったとすれば、2000万トン超の(輸入)小麦の備蓄さえ可能である。
(3)かつて、米は食管法による全量管理が基本であったが、そのDNAはいまも残っている。
(4)TPPに参加した場合でも、価格低下を直接的に補てんするような措置は、自由化のメリットを相殺し……財政上も数兆円の経費を要しかねない。
これでは、(1)食料自給率向上目標は不必要、(2)小麦の増産や米備蓄をやめて輸入小麦を備蓄しろ、(3)米の価格と流通に対する国の責任放棄をさらに進めろ、(4)TPP参加にともなう“完全自由化補償制度”としての戸別所得補償もやめてしまえ、といわんばかりです。
(1)国は年度ごとに米の価格保障水準を設定する。その水準は、直近5年間の米生産費の平均とし、全国一律とする。
(2)国は、市場での公正な価格形成と備蓄米の買い入れとの組み合わせで、需給と価格の安定をはかり、保障水準の維持に努める。
(3)市場価格が保障水準を下回った場合は、不足分を全額補償する「不足払い制度」を設ける。
(4)条件不利地や環境保全の取り組みなどに対しては、別途、所得補償を上乗せする仕組みにする。
過去5年間平均の米の生産費は、60キロあたり1万6448円(資本利子や地代を含めた全算入)、過去10年間では平均1万6900円です。農民連は、せめて1万7000円以上の生産者米価を要求します。
もちろん“老壮青”のバランスのとれた農業にするうえで、若い力を育てることが重要なことはいうまでもありません。若者や「定年帰農」、Uターン、Iターンなど、年間5万人を超える新しい農の担い手を確保する事業を一大国家プロジェクトとして実施することが重要です。
国内外に立派な手本があります。フランスでは、1973年から「青年就農者育成支援制度」を実施し、山岳地域に夫婦で就農する場合、3年分の生活費として約700万円(月20万円)を補助し、農地や機械、家畜などを無利子であっせんし、徹底的な技術・経営訓練を行っています。この制度の成果はめざましく、約30万人の青年就農者を確保しています。
農家戸数比でみれば、日本では100万人に相当します。こういう思い切ったプロジェクトの結果、フランスの農民の年齢構成は、50歳以下が55%、65歳以上が7%と、日本とは正反対の構造になっています。
国内でも、多くの自治体やJAなどが、新規就農者を育成するための事業を実施しています。
たとえば、愛知県豊田市とJAあいち豊田が運営する「豊田市農ライフ創生センター」では、2年間の栽培研修や農地あっせんなどの支援によって、発足から8年間に267人の新規就農者が誕生し、ほとんどが定着しています。島根県では、県外からの就農希望者に2年間で月12万円を助成し、まずは兼業農家になってもらう事業が成果をあげています。北海道美深町の後継者のいない酪農家は、新規就農者の受け皿として「R&Rおんねない」を立ち上げ、後継者への経営継承を実現しています。
農民連は、新規就農者に月15万円を3年間支給して毎年5万人育てる国家プロジェクトの実施を提案します。
原因は、青年就農者を認定する前提になる集落単位の「地域農業マスタープラン(人・農地プラン)」づくりが進んでいないことと、予算不足によって認定要件を厳しくしたためです。農水省は、この制度の対象を8200人程度と見込んで104億円の予算を計上しました。ところが、3月に事前調査を行ったところ、1万5400人余りの利用希望者がいることが判明しました。このため農水省は2012年4月6日付で「妻子をかかえ自ら生計を確保しなければならない者」とか「高齢化が進展するなど新規就農者の必要性が高い地域」などに対象者をしぼりこもうとしています。“仏作って魂入れず”なのか、それとも“魂”を初めから入れる気がなかったのかといわざるをえません。
本当に青年就農者を増やす気があるのならば、優先順位をつけるのではなく、補正予算などで財源を確保し、希望者全員を対象に支援すべきです。また親元就農についても、経営継承の実態などを踏まえて受給要件を緩和すべきです。
また、高齢者もりっぱな担い手です。その経験と能力を活かして“老壮青”のバランスのとれた「担い手」づくりをめざすとともに、集落営農組織も家族農業を補完する自主的な組織として生産を継続できるよう、国は支援を強化すべきです。
「人・農地プラン」づくりは、集落単位の話し合いで、「担い手」と「そうでない人」を選別して農地の集積目標を立てることになります。しかし、事前のアンケート調査では、地域によっては大多数の農家の意向が「現状維持」でプランが作成できず、地域での話し合いが省略されるなど、行政主導の「上からの話し合い」で決められるケースや、プランを作っても農水省から差し戻されるケースが続出するなど、現場は大混乱です。
「人・農地プラン」の最大の問題点は、農業を衰退させた政治の責任を棚上げしたまま、「担い手不足」を口実に多数の農家を締め出し、一部の「担い手」に農地を集積することにあります。その動機は、TPPへの参加を前提にした国際競争に「対応」するためであり、この方向は持続可能な農村集落の機能を破壊し、食料自給率を下げることにしかなりません。
「人・農地プラン」づくりは、機械的な農地集積ではなく、助け合いで集落を持続させるための話し合いを基本に、現状に対応した柔軟な運用を要求します。
また、こうした機能を守るための水路の維持管理など、住民全体がかかわっています。米は一般商品ではなく、まさしく主食なのであって、持続可能な社会の根幹にかかわる課題です。
私たちは、政府に米政策の転換を強く求めるとともに、国民の共同で食と農を再生することを強く呼びかけます。
[2012年11月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
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