米を守る農民連の要求と提案
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しかし、政権交代から3年余が経過したいま、生産者米価はコストを大幅に下回る価格で下げ続けており、市場価格は乱高下し、流通は大混乱をきたしています。生産者は米作りに展望を見出せず、米業者は経営を圧迫され、消費者は米の安定供給への不安を募らせています。
その原因は、民主党政権が戸別所得補償制度を実現したものの、主食である米に対する政府の責任を全面的に放棄した自公政権の「米改革」を全面的に引き継ぎ、市場原理をさらに徹底させて米の価格と流通の混乱をさらに拡大したためです。
目玉政策の「戸別所得補償」は、そもそも農産物の完全な輸入自由化を前提にしたものであり、「価格は市場にまかせ、農家には税金で所得を補償すればいい」との考えにもとづくものでした。2010年にスタートした戸別所得補償制度の交付金が買いたたきの標的になり、空前の米価の下落を招きましたが、政府はこれを放置しました。そして究極の自由化とも言うべきTPP参加へとカジをきりました。
どの党が政権を担っても、「米改革」路線を続ける限り、国民の主食であり、日本農業の大黒柱である米の安定生産、安定供給が保障されないことは明らかです。
避難を余儀なくされた住民は、暮らしと生業の基盤、生存権すら奪われました。私たちが目の当たりにしたのは、被災地で食べる米に事欠き、被災地から遠くはなれた都市のスーパーの売り場から米が消えたことでした。農民連は、全国各地から支援物資を被災地に届けるとともに、政府に備蓄米の緊急放出など、大震災に対応した緊急対策を要求しましたが、政府は何ら対策を講じようとしませんでした。政府が米の安定供給に対する責任を放棄した政策のもとでは、大規模な災害への対応はまったくできないことが浮きぼりになりました。
政府自身が東日本大震災以上の大地震(南海トラフ地震)の発生を警告し、世界的な食糧不足が深刻化している今、自由貿易万能や市場原理主義一辺倒の政策でいいのか、鋭く問われています。
食糧を国内で自給する力を強化することは、国政の緊急課題です。国民の主食である米は、国内で自給できる数少ない作物であり、米の安定生産と安定供給、水田の機能をフルに生かす政策を確立することは、持続可能な社会の実現にかかわる重要課題です。
農民連は、その要は、価格を市場原理に丸投げし、米流通を民間に全面的にゆだねている「米改革」路線を見直し、政府が価格と流通に責任を持つことにあると考えます。日本の農業を再生する政策の柱は、次の3つです。
(1)自由貿易万能主義と決別し、究極の自由化であるTPPへの参加や、国内生産に打撃をもたらす日豪・日中韓FTAなどの締結による農産物の輸入自由化をやめ、農産物の輸入をコントロールすること。
(2)米をはじめとする主要な農産物の生産コストを償う価格保障と所得補償を組み合わせた価格・経営安定対策を確立すること。
(3)“経営規模拡大神話”と決別し、すべての農家を担い手として生産力を掘り起こすことや、農地の維持が困難な地域での地域コミュニティーによる助け合いへの支援に加えて、政府と地方自治体、農業団体などをあげた後継者確保プロジェクトに踏み出し、“老壮青”のバランスのとれた農業に。
「米改革」から8年、その破綻はいっそう明瞭です。今回の「米を守る農民連の要求と提案」は、農民連が2009年に打ち出した提案をさらに発展させたものです。私たちの提案が、多くの生産者、JAなどの農業団体、米業者、そして広範な消費者の方々に届けられ、国民的な議論が巻き起こり、政策転換への契機となることを期待します。
大震災の半年前の2010年秋、米価は空前の暴落を記録しました。農家の出荷価格が前年に比べて1俵(60キロ)2000円〜3000円も下落し、1万円割れが続出しました。農民連は対策を要求し「米作ってメシ食えねぇ」をスローガンに全国でたたかいを組織しましたが、政府はなんらの対策もとらず米価暴落を放置しました。
ところが、大震災を契機にわずかな流通の乱れから、一転して「米不足」状態になり、流通の混乱が続いています。1年に1回しかとれない米が秋と春で2割以上も上昇したり、大手量販店や外食産業を優先する大手米卸が米屋さんに米を回さなかったり、仕入れ原価が上がっても販売価格を上げられないなどの異常な事態が続いています。
2012年産の米価は、農協の概算金が前年を60キロあたり1500円前後上回り、数年前の水準に戻った価格となりました。しかし、作況が「102」(やや良)であり、深刻な不況の下で外食産業や消費者に値上げが理解されにくいことや、何よりも政府が需給と価格の安定に責任を放棄したもとで、米業者は先々の米価動向を警戒して買い控えせざるを得ず、早くも米価下落への不安が広がっています。作況「102」による供給過剰はわずか20数万トンに過ぎません。
こんなわずかな過不足で流通や価格が大きく変動する最大の要因は、ギリギリの需給と市場まかせの米政策にあります。この間の混乱を通じて誰の目にも明らかになったことは、次の3点です。
(1)米の需給はギリギリにもかかわらず、「過剰」が喧伝(けんでん)され、「過剰」を前提に価格競争を優先させ、安定供給が二の次にされてきたこと。
(2)流通段階で米価を下げるのは簡単だが、上げるのは容易ではないということ。
(3)市場まかせの米政策がこれ以上続けば、米業者は経営が続かず、何よりも生産費を償う価格での安定した米作りを願う農家にとって、もはや限界だということ。
「米改革」以来、自公政権の備蓄政策は「回転備蓄」方式で、毎年20万トンを市場に流し、売れた分だけ買い入れをするというものでした。しかし実際は、収穫後4年、5年もたった超古米を超安値で市場に流し、米価の引き下げ役を果たす一方、備蓄100万トンに穴があいても「需給調整のための買い入れはしない」として買い入れを渋り、「ルールどおりの買い入れ」を求める農民との鋭い対決点となってきました。
民主党政権の備蓄方針は、(1)100万トンの棚上げ備蓄(2)5年間保管後に非主食用に処理(3)毎年20万トンを播種(はしゅ)前入札で買い入れる、というものです。
実際の買い入れは、(1)全国1本で価格の安い米から買う(2)予定価格(上限価格)も2011年産で1万900円、2012年産でも1万2900円という生産費(1万6600円)を大幅に下回る価格設定(3)作柄や需給と無関係に「播種前契約」を押しつける、という実情を無視したやり方でした。その結果、20万トンどころか2011年産は7万トン、2012年産は8万トンしか買い入れできませんでした。
こういう市場原理主義的なやり方は、国民の命綱ともいうべき米の備蓄政策とは根本的に相容れません。
またこの間、政府は「需給調整のための備蓄買い入れはしない」と一貫して主張してきましたが、天候次第で出来・不出来が避けられない農産物の特性からいって、政府による需給調整と価格安定は当然必要なことであり、現にアメリカもEUも実施しています。かたくなに「需給調整のための買い入れを拒否する」やり方は、世界の大勢に背くものです。
このまま推移すれば、2013年秋には5年古米を含めても備蓄は57万トン(国民の消費量のわずか27日分)しか確保できない見通しです。いざという時にはミニマムアクセス米の備蓄(2012年3月現在88万トン)に頼るつもりなのでしょうか。
この間、政府は民間がエサ米に処理しようとした米を備蓄米に買い入れたり、炊飯業界や弁当業界の要求で審議会にも諮らずルール違反の主食用への放出を行うなど、備蓄政策は混乱を極めています。2012年7月31日の食糧部会でも委員の厳しい指摘を受けて、農水省は「買い入れ方式の見直し」を表明せざるを得ませんでした。
農民連は、備蓄政策について次のように提案します。
(1)当面、収穫後5年以内の米で100万トン備蓄を達成すること。そのため、この秋に2011年、2012年産で買い損ねた25万トンを追加買い入れすること。
(2)大問題になっている世界的な食糧不足や予想される大震災にも備えること。そのため作況90程度の不作が2年続く事態への備えと、東南アジア共同備蓄分を含めて200万トン規模の備蓄に改善すること。
(3)生産費を補償する価格で確実に買い入れること。
(4)棚上げ備蓄を基本としながらも、備蓄の機能を不作時のためだけに限定せず、過剰時の買い入れや不足時の放出など需給調整の役割も持たせる備蓄政策へ、抜本的な転換をはかること。
[2012年11月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
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