「農民」記事データベース20110502-971-07

田畑と自然を汚し 生活の糧を奪った

東電は全面的に償え(1/4)

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 福島原発の重大な事故による放射能漏れはいまだ止まらず、福島県や茨城県の田畑を汚し続けています。育った野菜は出荷できず、酪農家は毎日、牛にえさを与え搾っては捨てていきました。東京電力と政府は、風評被害も含めて全額補償の立場を表明し、当面、補償仮払いをただちに行うべきです。


共同の自給飼料が危機に

循環型エネルギー展望した運動を

 「いま、福島の酪農は危機だ。皆さんに渡そうと思って、ここにミルクタンクを持ってきた」「一刻も早く、福島原発の放射能漏れを止めてくれ!」――福島復興共同センターが東京電力福島営業所に申し入れに出向いた4月6日、出荷停止に悩む酪農民の張りつめた声が響き渡りました。声の主は、福島県郡山市石筵(いしむしろ)地区の橋本整一さん。芽吹きの春を迎えた石筵を訪ねました。

 福島第1原発の事故が原因で福島県内の原乳が出荷停止になって1カ月。ちょうどこの日、長かった出荷停止の解除の知らせが、橋本さんに届いていました。「ちょっとひと安心。でもこの1カ月、毎日搾っては投げ(捨て)、搾っては投げて。長かったなあ。朝夕2回、畑に行ってタンクからジャーッと牛乳を捨てるのな。あれは、いやだよなあ」と橋本さんは静かに、噛(か)みしめるように言います。

 「放射能ってやつは始末が悪い。百姓は作ることが商売で、とにかくいいもの、安全なものを作ろうと一生懸命やってきたのに、だめにしてしまった。それが一番がっかりだ」と橋本さん。

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「希望を持ってたたかいぬきます」と語る橋本整一さん(左)一家

 出荷再開しても苦悩は尽きない

 原乳の出荷は再開しても、橋本さんたち酪農家の苦悩は尽きることがありません。5月下旬から収穫の始まる牧草の放射能汚染が心配されるからです。

 石筵は酪農の盛んな地域で、現在18戸の酪農家がいますが、粗飼料の生産は共同で行い、粗飼料自給率100%を成し遂げています。共同の牧草地、共同の機械があり、若手の酪農家がオペレーターを務めることで、どの農家も機械代など多額の負債を抱えることなく良質な粗飼料を確保できてきました。後継者も育っていて、粗飼料の共同生産は、石筵の酪農の根幹を成すものとなっています。

 ところが福島第一原発の事故がいま、この粗飼料生産を揺るがしているのです。橋本さんは「牧草を育てても、はたして飼料として与えられるのか。その結果、原乳から放射能が検出されたら、また出荷停止になってしまう。これは本当に大変な問題だ」と、危機感を募らせています。

 しかもこの牧草対策は急を要しています。橋本さんたちは、収穫した牧草はすぐに飼料として与えず、いったんは貯蔵し、安全性の確認を待つことにしていますが、その間はやはり飼料を購入しなければなりません。しかも原発の放射能漏れも止まっておらず、貯蔵しておいても飼料にはできない可能性もあります。「いったいどれくらい牧草地に放射性物質が飛散しているのか。県や国でも綿密な放射能測定をして、一刻も早く対策をとってほしい」と語気を強める橋本さん。

 「購入する代替飼料だって、飼料ならなんでもいいわけでもない。遺伝子組み換えでない良質な自給飼料が、石筵の酪農の自慢だったのに、それが守れるのかどうか…」

 原発事故は、お金には換えられない、地域農業が長年にわたって積み上げてきたものをも、危機にさらしています。

 間違いは間違いきちんと賠償を

 こうしたなか、橋本さんたちは東京電力と国への賠償請求運動を強めていくことを、固く決意しています。「東京電力が倒産したら困る、と心配する声もあるが、原発を推進したのは国策。加害者と被害者もはっきりしている。間違いは間違いとして、きちんと賠償させることが絶対必要なんだ」と橋本さんは言います。さらに「この運動を東電に賠償させるだけで終わらせず、これを機会に循環型エネルギーを生かした社会に変えていく、そんな運動に発展させていきたい」という抱負も。牛のたい肥を使ったバイオマス発電など農村こそ自然エネルギーの豊庫だというのです。橋本さんたち酪農家のたたかいが続いています。

(新聞「農民」2011.5.2付)
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2011年5月

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