“変革の時代”を切り開く
農業・農山村を再生する
国民運動と、強固な組織づくりを(1/4)
2010年1月18日 農民連常任委員会
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結成20周年を迎えた農民連は、2009年1月に開催した第18回定期大会決議に基づき、食料自給率の向上や価格保障、総選挙で自公政治に審判を下し、農民の要求が通る政治の実現、会員と新聞「農民」読者の拡大運動などに全力をあげてきました。
第18回定期大会から次期大会の中間点で開催される全国委員会の目的は、09年の運動の総括と大会決議の補強、2009年度決算と2010年度予算の見直しをはかることにあります。
I 情勢と農民連の1年間の運動
(1)自公を政権から退場させた総選挙
1、新しい政治と農政実現にとって大きな前進
この1年の最も大きな出来事は、総選挙で国民が自民・公明政権に審判を下して政権から退場させたことです。選挙で問われたのは、輸入自由化政策や市場原理で農産物価格の買いたたきを野放しにする農政であり、農民連・食健連が主張し運動してきた方向で国民の審判が下されました。
民主党が選挙で約束した後期高齢者医療制度の廃止、労働者派遣法の抜本改正、教育の無償化、生活保護の母子加算の復活などは、国民の要求とたたかいを反映したものです。農業政策でも、マニフェストの中には部分的であれ、農民や国民の要求と一致するものが含まれており、要求実現にとって有利な面も生まれています。
同時に「財界中心」「軍事同盟中心」、WTO(世界貿易機関)絶対視という旧来の政治の枠組みから脱する姿勢がなく、改憲や衆議院の比例定数の削減、近い将来の消費税増税の示唆、日米FTA(自由貿易協定)推進などの危険な政策を掲げていることに警戒し、断固たるたたかいで跳ね返すことが必要です。
選挙で示された農民や国民の審判は、国民が主人公の新しい日本の政治と、新たな農政を展望するうえで大きな前進です。選挙結果は、これまでの政府と自民党、農業団体が三位一体となった農政構造を破たんさせました。10月に開かれたJA大会では、自民党中心の農政運動から方向転換することを打ち出しました。自民党を支えてきた農業関係団体も同様の動きとなっています。こうした変化は、農業・食糧、農山村を守り再生する共同運動を発展させる条件を大きく広げています。
2、農民連の果たした役割
総選挙で農と食が重要な争点になったことは、この間の農民連の奮闘の成果です。農民連は「農民連の要求と提言」、新聞「農民」号外で多くの農家や国民に働きかけてきました。また、米価下落対策を要求するたたかいも大きな役割を果たしました。米価対策とFTA・EPA(経済連携協定)への態度を問う各党公開質問状(食健連)、日本農業新聞への意見広告も農家や農業関係者を激励し、農業・食糧問題を争点にする上で大きな役割を果たしました。
自民党政権の崩壊は、自由化と市場原理を内容とする新自由主義への国際的な包囲網の広がり、オバマ大統領の核廃絶演説など、新たな国際的な流れの強まりと深く関わっています。農民連を結成して以来の20年間、全国的な運動の積み上げが自民党政治を追い詰めてきたこと、またこの数年来、アメリカと多国籍企業の利益を最優先するグローバリゼーションに対し、食糧主権の確立を掲げ、ビア・カンペシーナとともにたたかってきたことの成果でもあります。
3、前向きの変化を加速させ、地域から農政転換を切り開く組織構築を
農民の要求を掲げ、要求で共同する農民連の役割がいよいよ重要になっています。多くの農家がこれまでの農政を拒否し、生活できる農業再生を切実に求めています。
こうした選挙で示された前向きな変化を運動の力でさらに加速させるためにも、地域で影響力のある共同の核になれる農民連組織が求められています。農民や国民に働きかけができる体制と機能をもった都道府県連の建設、すべての自治体を網羅する単組と支部づくり、数万の読者網をもつ新聞「農民」への発展が急がれます。
(2)民主党農政をどう見るか
1、2つの面をもつ鳩山農政
構造改革路線によって国民に痛みを押し付けてきた政治に対する国民の審判は、野党第1党であった民主党への風となりました。同時に、民主党は政権交代を実現するために、この間の国民の運動や世論を無視できず、国民や農民の要求を一定程度、反映した政策を掲げざるを得ませんでした。このなかには、雇用、福祉・医療、農業などで、農民連の要求と一致するものも含まれています。
同時に民主党は、WTOや日米FTA交渉の促進を掲げ、市場原理の立場に固執している点では、自公政治と何ら変わらない、危険な側面をもっています。
これらは、民主党が「財界中心」「軍事同盟中心」という旧来の政治の枠組みや、新自由主義の立場に立っていることの現れです。農民連は、こうした2つの面を正しくとらえて、要求の前進に役立つ政策は、さらに運動を強めて実現させるとともに、農民の要求や日本農業の発展を阻害する政策には国民世論を背景に断固たたかいます。
2、戸別所得補償モデル事業をどう見るか
(1)農民の願いからも、民主党の選挙公約からも後退した不十分な事業
2010年度に限定した「米戸別所得補償モデル事業」「水田利活用自給力向上事業」(総額5618億円)が打ち出されています。これらは、市場原理一辺倒や強制減反の見直しという点で、自公農政に一定の修正をもたらす面があります。また、当初案で大幅に減額されていた転作への助成が、農民連をはじめ関係者の運動を反映して「激変緩和措置」として上積みされたことも重要です。
同時に、選挙で示された国民・農民の願いや、民主党の選挙公約からも後退した不十分なものと言わざるを得ず、同事業予算を確保するために土地改良事業費を半減するなど、農林水産予算を約1000億円も削減した「共食い」予算になっていることも重大です。
(2)全国一律、1万3703円で米をつくれというのか
「米戸別所得補償モデル事業」は、生産目標数量(生産調整)に基づいて米を生産する農家を対象に「標準的な生産に要する費用」と標準的販売価格との差額を全国一律で補てんするというもので、定額部分の交付単価を全国一律に10アールあたり1万5000円(60キロあたり1698円)に設定しています。
2008年産米の生産費は60キロあたり1万6497円ですが、鳩山内閣が想定している生産費は1万3703円にすぎません。これは家族労働費を2割カットして生産費を人為的に切り下げ、「全銘柄平均の相対取引価格」で計算して標準的販売価格を水増ししているためであり、きわめて不十分なものです。
また全国一律単価としているため、中山間地など条件不利地の切り捨ても避けられません。しかも、すでに大手米卸が1万5000円相当の米価引き下げを求める動きが起きているように、大手流通資本の買いたたきを野放しにしたままでは、さらなる買いたたきの要因にされかねません。
(3)転作助成の目減りは避けられない「水田利活用自給力向上事業」
米戸別所得補償モデル事業とセットになっている「水田利活用自給力向上事業」は、転作作物に対して生産調整の参加とは切り離して助成するものです。現行の「産地確立交付金」等に比べ助成額が減少する地域の影響を緩和するため、総額310億円(実質260億円)で交付単価を加算する「激変緩和措置」を講ずるとしています。
しかし1年限りの措置であり、活用にあたっては農水省がきびしい条件を課していることから、目減りは避けられないという不安が広がっています。また、麦、大豆等の戦略作物以外の「その他の作物」の10アールあたりの交付単価はわずか1万円で、野菜や花き、雑穀など地域振興作物を生産してきた地域にとっては死活問題です。
(4)買いたたきと自由化の手段にされかねない米戸別所得補償モデル事業
農家が米価の下落で苦しんでいるなか、民主党はマニフェストで掲げた300万トンの棚上げ備蓄を先送りしたばかりか、100万トンの備蓄ルールさえ守ろうとしていません。昨年11月に16万トンの備蓄米の買い入れ方針を打ち出したものの、「需給に影響を与えない」安値での買い上げを画策したため、落札できない状況が続いています。
また、鳩山政権は価格保障を拒否して戸別所得補償を実施する理由として、WTOとの整合性をあげています。野党時代の民主党幹部の言明からも、政権獲得後の動向からも、私たちが最も警戒すべきことは、鳩山農政が掲げている農民の経営安定や食料自給率の向上は選挙対策上のものであり、戸別所得補償は、WTO・FTAなどの農産物輸入自由化を推し進めるための手段にされかねないということです。
(5)農業再生と食料自給率の向上は、農民連の「要求と提言」の方向でこそ
主要な農産物の生産コストと販売価格との差額を政府が補てんする「不足払い」制度と、生産コストの高い条件不利地域への所得補償を組み合わせた経営安定対策を、買いたたきの規制とあわせて実施することこそ、農業再生と食料自給率の向上への道です。
また、WTO体制が行き詰まっているなかで輸入自由化万能から抜け出し、FTA・EPA路線を見直し、ミニマムアクセス米の廃止をはじめ、国内農業に影響を与える輸入の規制に踏み出すことを高く掲げて世論と運動を発展させます。
(新聞「農民」2010.2.1付)
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