第一回全国委員会への報告(2/4)第17回大会 二〇〇八年一月十六日 農民連常任委員会
II 一年間を振り返って〔1〕確信とすべきたたかいの発展1、財界主導の「農業構造改革」路線とのたたかい(1)政府を揺り動かした米価下落対策を求めるたたかい米価の暴落は、政府が米の流通責任を放棄して民間流通と市場原理にゆだね、しかも政府自身が市場をゆがめて価格を下落させる先頭に立ってきたことによるもので、「米改革」の破綻、矛盾の集中的なあらわれです。農民連は昨年九月に、百万トン水準の緊急買い入れや安値での古米の市場放出の中止、クズ米規制、外米の主食販売の中止と在庫の一掃などを柱とする「緊急対策」を打ち出しました。そして、全国いっせいの農協や自治体要請、「十・一中央行動」などを展開しました。 こうした運動にマスコミも注目し、農協や広範な国民に共感が広がり、政府に「緊急対策」を打ち出させました。農民連が、広範な国民や農業関係者と共同して政治を動かした画期的な成果でした。 さらに、農民連は稲作労賃が時給二百五十六円(〇六年度)と異常な事態にあることを提起しました。そして全労連の最賃千円を積極的に支持し、労働者の最賃引き上げと農民の労賃が正当に評価される米価の実現をアピールしてきました。これが労働組合などから共感を得て政府を揺り動かす力となりました。
(2)品目横断対策とのたたかい農民連は、多数の農家を生産から締め出す本質やねらいを暴露し、品目横断対策の中止を要求して運動を展開してきました。また、全農家を対象にした価格保障を軸にした政策を提案し世論の構築に努力してきました。こうした運動が、農家や広範な団体から共感され、参院選で自公両党に審判を下すことにつながりました。こうしたなかで十二月、政府は品目横断対策の見直しを打ち出しました。その内容は、認定要件の市町村特認、認定農業者の年齢の廃止・弾力化、集落営農組織に対する法人化等の指導の弾力化、小麦、てんさいの交付金の上乗せなどです。しかし、「基本は変えない」とし一部手直しにとどめて推進しようとしています。自由化と市場原理を前提に多数の農家を生産から締め出す政策は一部を取り繕っても本質的な矛盾の解決にならないことは明らかです。
2、BSEの輸入基準の緩和を許さない運動政府は、月齢制限なしの輸入を求めるアメリカの圧力に屈する動きを強め、都道府県の二十カ月以下のBSE検査への助成を打ち切ろうとしています。同時に、政府のねらいを世論が阻止し続けていることも事実です。政府が助成を打ち切っても独自検査実施を表明する県がいくつも出ていることも運動の重要な成果です。
3、力を増す食糧主権の流れ、WTO交渉の妥結を阻みEPA戦略を揺るがすたたたかい(1)WTOを「冬の時代」に追いこんだたたかいWTOドーハ・ラウンドの合意先送りは四回目を迎え、「冬の時代」「集中治療室と火葬場の間にいる」状態です。「〇八年中の合意は可能だ」というWTO事務局長の「空虚な言葉を信じる者はきわめて少ない」のが実態です。WTOが今日の状況におちいっているのは、多国籍企業やアメリカ本位のグローバリゼーションに対して、世界中の発展途上国や民衆の反発、抵抗がいかに強いかを示すものです。
(2)FTA・EPA戦略を揺るがすたたかい瀬戸際に立っているWTOに代わって動いているのが、二国間あるいは地域間で自由貿易を進める自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)です。農民連は、農産物の輸入自由化に加えて、産業廃棄物の「輸出」や看護師の「輸入」の問題もとりあげ、国内外のNGOや農民組織と共同して、FTA・EPAとたたかってきました。 ビア・カンペシーナは、WTOとFTA・EPAを「タコ」になぞらえて、「WTOはタコの頭であり、FTA・EPAはタコの足だ」と規定し、両方に対するたたかいを呼びかけています。FTA・EPA戦略を揺るがしているのは、農民連を含む世界中の農民組織やNGOの運動です。
(3)世界各地で「食糧主権」が現実のものに二〇〇七年二月に西アフリカ・マリで開かれた食糧主権国際フォーラムは、この十年余の食糧主権確立をめざす運動の集大成でした。同フォーラムには、農民連のほか食健連、新婦人、全教、全労連全国一般の代表が参加して交流し、食糧主権に接近する「もう一つのマーケティング戦略」として、日本の産直・地産地消の運動が大きな注目を集めました。また、昨年五月には韓国・フィリピンの代表を招いて国際フォーラムを開き、韓国とネパールで食糧主権を主題に開かれたフォーラムに農民連・食健連代表が参加し、食糧主権の流れを確かなものにするために奮闘しました。同時に、食糧主権が単なるスローガンのレベルを超えはじめたのが、最近の特徴です。〇六年八月にアフリカのマリ共和国で農業法の基本原理として食糧主権がとりいれられたのに続き、〇七年一月にはネパール憲法に「すべての国民は食糧主権を有する」と書き込まれました。 南米ボリビアの議会で、〇七年十二月に承認された新憲法案では「すべての国民が水と食糧に対する権利を持つ」「国家は国民の食糧主権を実現しなければならない」、さらに外交や条約締結にあたっては、内政干渉を拒否することとならんで、「食糧主権」を守ることを原則の一つにしなければならないと規定されています。
(4)地球温暖化防止対策をめぐるたたかい地球と人類にとって死活的に重要な課題になっている地球温暖化防止対策をめぐって、日本政府はアメリカ・カナダとならんで「COP13妨害三人組」と批判されていますが、その背景には、温暖化ガス排出削減を「不合理な総量規制」と非難し、「環境問題を経済成長の阻害要因にするな」と要求した財界とアメリカの圧力があります。農民連は、食糧主権を尊重する政策の実現こそが最大の解決策であるという立場でたたかい、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP13)に並行して開かれたNGOフォーラムに代表を派遣するとともに、〇八年G8サミット対抗行動の準備を進めてきました。
4、憲法、平和、国民の暮らしを守る共同の広がり十一月一日、国民の声でインド洋から海上自衛隊を撤収させたことは画期的な成果でした。被災した住宅本体への公的支援が盛り込まれた被災者支援法の改正も重要な成果でした。阪神・淡路大震災から十三年、その後の地震、水害など、度重なる災害のなかで、農民連は一貫して被災者救援に全力をあげ、広範な人たちと共同して政府に万全な対策を要求してきました。その一歩が実現したことは感慨深いものがあります。 政府・与党のなかで、母子家庭への児童扶養手当削減の「凍結」、高齢者医療費負担の一時的・部分的な「凍結」、障害者自立支援法の見直しなど、社会保障の負担増を「見直し」する動きが起こっていることも、国民の運動の成果です。
〔2〕生産の発展と流通の「もう一つの流れ」つくる運動の発展を初めて開催した「大見本市」は、「もう一つの流れ」をつくる運動の重要な一歩を築き、農民連とふるさとネットワークの存在感を高めました。また、学校給食へのじゃがいも、タマネギ、ニンジンのリレー出荷をはじめ、多様な販路の可能性を切り開いたことも重要な成果です。
〔3〕食品分析センターの機能強化分析センターは、〇六年八月に病体生理研究所への移転を完了し、〇七年六月から新機種で百七十二農薬のいっせい分析を開始しました。新機種の稼動により分析対象農薬が増え、分析のスピードアップが可能になるなど機能を大幅に強化することができました。また、病体生理研究所との業務提携によって細菌検査も開始しました。 これは、ポジティブリスト制に対応するために呼びかけた「十周年記念二千万円募金」への協力の結果であり、“国民のための分析センター”としての地歩をさらに強化できました。 食品分析センターは、「激安米」にクズ米が混入していることを告発し、マスコミにも取り上げられ、「複数原料米」表示のあいまいさや、ミニマム・アクセス米取り扱い業者の非公開問題の不当性などとあわせ、米価下落の「緊急対策」を求める運動でも大きな貢献をしました。
〔4〕組織の到達点大会後の全国の奮闘で、三十三道府県で六百余の会員を新たに迎え入れています。一方、拡大数を上回る減少によって組織現勢全体では後退となっています。こうしたなかで、十六県連が世帯会員を前進させていることは、今後の前進にとって大きな成果です。また新聞「農民」は、全国で八百人を超える読者を拡大していますが、全体では七百人近い後退となっています。後退の原因は、会員の高齢化、集落営農組織に農地を集積したことによる脱退などの農政のしわ寄せ、請負や組織整備の遅れが脱退に結びつくなどの例もあります。新聞「農民」の減少は、世帯会員の減少とほぼ比例していますが、自治体・農協の合併や人員削減等の影響、集金体制の乱れ等による購読中止も一定数含まれています。 しかし、後退の最大の原因は、農民連が社会的に果たしている役割と比べて、会員と読者を拡大するとりくみが弱いことにあります。大会後の情勢は、農政を変えるたたかいでも、生産と地域を守る運動でも、農民連の果たす役割の大きさを浮き彫りにし、運動と組織の飛躍を求めています。
(新聞「農民」2008.1.28付)
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[2008年1月]
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