世界的視野で食料主権の確立をめざし、
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日本を含む「先進国」の侵略と占領・収奪によって遅れて経済発展の道を歩まざるをえなかった発展途上国に「自由貿易万能主義」を押しつけるのは不公正であり、未来はありません。WTO・FTAが進める未来は、農業のない国(日本)と外資が支配する国々(発展途上国)への特化です。
いま、こういう未来を拒否し、食糧主権を求める世論と運動が世界の流れになっています。
私たちは〇五年十二月の香港閣僚会議行動や〇六年五月のビア・カンペシーナ・フォーラムなどで、「WTOから食糧主権へ」こそが世界の流れであることに確信を深めましたが、WTOが破綻に直面しているいま、この流れをさらに強く大きくする絶好の時です。
こうしたねらいを覆い隠すために、財界や御用学者は家族経営を「何千年も前からのビジネスモデル」(奥田前日本経団連会長)だとして「農業からの撤退」を求め、全農家対象の価格保障を「ばらまき」だと攻撃し、小規模農家や高齢化した農家を「非効率」だとして邪魔者扱いしています。
政府は、農家の減少、高齢化などによる生産構造のぜい弱化を品目横断対策の口実にしていますが、今日の農業・農村の危機的現状を招いたのは歴代の自民党政治にほかなりません。その責任を棚上げして「構造改革」にすり替え、「WTOルール」を絶対視した農産物の関税引き下げ・廃止を前提に、全農家対象の価格保障を廃止して「担い手」に限定した品目横断対策(米、麦、大豆、てん菜、でんぷん原料ばれいしょ)を実施しようとしています。野菜、果樹、畜産についても、担い手のみに施策を集中する方向が打ち出されています。
品目横断的経営安定対策の個人の面積要件は四ヘクタール(北海道は十ヘクタール)ですが、他産業並みの所得を得るためには最低二十五ヘクタール必要であるというのが農水省の見解です。
今の基準でさえ圧倒的多数の農家がクリアできませんが、今後、さらにハードルを高くして認定農家をさらに絞り込むねらいであることは明らかです。
集落営農についても、五要件のうち規約と一元経理をクリアすること、他の三要件(集落農地の三分の二の集積、所得目標の達成、法人化)は五年以内の努力目標であるとして、特定農業団体(法人)づくりが進められています。
いまある集落営農のほとんどが転作受託組織です。しかし、強引な農地集積への反発や経営展望が見いだせないことなどから、集落営農組織から離脱する農家が相次ぎ、設立直後に解散に追い込まれる事態も生まれています。
一方、品目横断的経営安定対策への加入を断念して集落の助け合い組織の道を選択するケースも生まれています。
農水省は「集落営農でカバーするから、生産からの排除ではない」と強弁します。しかし、主たる従事者以外の農家は「土地持ち非農家」にならざるをえず、生産からの締め出しそのものです。
このように、価格の下支えのない直接支払いや、農民を差別・選別して生産から締め出す政策を実施しているのは世界の中で日本だけです。
こうした矛盾を無視して自治体、農協、農業委員会などを総動員して推進しているにもかかわらず、〇六年十月末までに品目横断的経営安定対策に加入を申請したのは認定農家で三千八百八十七人で小麦生産農家の四・二%、集落営農組織は三百九十五団体にすぎず、四麦作付面積の一四%をカバーするにすぎません。
米価下落の原因は、(1)政府が米の管理責任を放棄したもとで、計画的な供給が崩され、米が集中する出来秋に価格が下落する仕組みがつくられたこと、(2)大手スーパーや大手外食産業、そして大手米卸が価格破壊と買いたたきを繰り返していること、(3)政府自ら備蓄米購入で買いたたきの先頭に立ち、売却では六千円、七千円(六十キロ)の超古米を放出して市場をかく乱していること、(4)この秋、大手卸が全国で中国産米を五キロ九百八十円の超低価格で販売して新米時期の米価引き下げに一役買ったこと、(5)在庫が二百三万トンも積みあがった(〇六年三月現在、保管経費は年間二百七億円)ミニマム・アクセス米も米価下落の強力な圧力になっていることなどです。
政府は米の需給実態を覆いかくすために、期末在庫の基点を十月末から六月末に変えましたが、従来の十月末で見れば期末在庫は二年続けてマイナス状態で、国が直接責任を持つ備蓄米は〇四年古米まで食べてもわずか三十一日分しかない異常に低い水準です。たった一年の不作や作柄の遅れで米パニックを招きかねない事態にあります。
〇七年産からは需給調整が民間任せになるため市場コントロールはいっそう難しくなり、品目横断対策から除外された農家にとっては、麦・大豆の転作が事実上不可能になることから一時的な米過剰も予想され、さらなる米価下落の要因になることも危ぐされます。
しかし、翌年一月には、輸入したアメリカ産牛肉からBSE危険部位の背骨が見つかり、一カ月もたたずに再び禁輸に追い込まれ、アメリカのBSE対策のズサンさと、アメリカいいなりに輸入を解禁した日本政府の無責任さを浮き彫りにしました。
農民連・食健連は、全頭検査の継続を要求して全国で運動を展開し、国の責任による全頭検査の緩和は強行されたものの、国の補助金で都道府県が二十カ月齢以下の牛を検査する状況をつくらせ、結果として今日でも全頭検査を継続させていることは重要です。
また農民連、全国食健連とともに訪米調査団を派遣するなどアメリカのズサンなBSE対策の実態を暴露し、アメリカの圧力に屈して早期再開をめざす小泉内閣と対じし、国民的運動の中心的役割を果たしました。
〇六年七月に政府は輸入再々開を強行しましたが、多数の国民はアメリカ産牛肉を拒否し、解禁後二カ月近くたった時点でも輸入量は八百五十四トンと、禁輸以前の二・六%にとどまっています。「アメリカ産牛肉ノー」の国民世論は、農民連・食健連運動が築いた貴重な到達点です。
また、農業振興条例を制定するなど、農家の支援策や独自の担い手確保、地域の条件を生かして農業を発展させるために努力する自治体が広がっています。
食の安全や生産者の顔が見える農産物を求める国民の要求もますます高まり、地産地消のとりくみがない地域はないといってもいいほど全国的に広がっています。
流通の分野でも、大企業の支配や横暴に抗して、消費者の安全・安心の要求や、商店街の活性化の要求にもとづいて、農村や生産者と結びついた努力がはじまっています。
国際的な食糧主権の流れを含め、こうした動きは、生活や生産点から生み出される、抑えることのできないもので、情勢のもう一つの側面であり、運動を発展させる条件でもあります。こうした点に確信をもって「もう一つの流れを」を強く大きくするために奮闘しましょう。
今日の情勢のもとでの農民連の役割は、(1)憲法改悪を許さずに平和な日本をつくり、農業破壊の政治にストップをかけて価格保障を軸に食糧自給率を向上させる農村での共同の核を担う(2)生産を担い、活気ある地域づくりの先頭に立つ(3)「ものを作ってがんばる農民はみんな農民連へ」を合言葉に、地域農業を再生するために多数の農民を結集することにあります。
農民連が発表した『食糧主権宣言(案)』は、心ある人々の大きな反響を呼んでいます。
『食糧主権宣言(案)』ブックレットの普及を数万部規模に広げ、地域で「食糧主権と地域農業」をテーマにした学習会を開き、農協など農業団体への働きかけも強めましょう。地方議会から意見書を積み上げ、政府に食糧主権の立場に立った政策への転換を要求しましょう。
世界自然保護連合の決議などを考慮し、青年や女性、環境NGO、労働者、消費者など、これまでの枠組みを超えた人々と団体に宣言案を普及しましょう。「宣言案」であることの持ち味をいかし、国民的な代案の具体化や食糧主権概念の強化と発展を重視します。また、食糧主権の内容の希薄化や逆行を許さないことも重要です。
食健連の食糧自給率向上署名、食糧主権確立団体署名を大規模に展開し、食糧主権に逆行する農業構造改革に固執する政府を世論と運動の力で包囲します。
国際フォーラムの報告集会やシンポジウムなども検討します。
[2006年11月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
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