旅立ちの春 農の未来に若い夢かけて(1/4)
春―旅立ちの季節です。農業にかける青年たちの姿を追いかけました。
「新規就農里親制度」を活用してリンゴ農家で懸命な技術修得残雪の北信濃で 汗流す竹村さんまだ雪の残る北信濃の山々のふもと、果樹農家はいま、剪定(せんてい)作業に追われています。ここが、新規就農をめざす竹村照彦さん(35)の実地研修の場です。竹村さんは、小諸市にある長野県農業大学校で一年間の基礎研修を終え、昨年から県の「新規就農里親制度」で、長野市豊野町の山下始胤さん(長野県農民連前会長)のところに“里子”に入りました。“里親”(ベテラン農家)について作業することで実践的な技術の習得をめざしています。
農への道を―と転職を決意竹村さんは出身地の新潟で就職しましたが、歯車のような仕事に「何をしているのかわからない」と転職を決意。「自分で最後まで責任をもつ仕事をしたい」「手に職をつけたい」と、農業への道を選びました。「好きなリンゴをできるだけ農薬を減らして作り、自分で売っていきたい」と夢を語ります。「山下さんについてやってきたので、季節ごとの作業の流れはわかるようになってきた」と竹村さん。でも「自分でやってみなければ、本当のところはわからない」と不安ものぞかせます。 竹村さんに一つ一つ作業の意味を教えながら一緒に仕事をするのは、山下さんの次男、邦雄さん(41)。年齢が近いこともあり、「日記をつけるんだぜ」と気軽にアドバイスします。
独立後も身近な相談相手に農業は工業と違い、毎年違う天候のもとで作物を育てなければなりません。“農家は毎年一年生”と言われるゆえんです。「技術は一、二年で習得できるかもしれないが、いい作物を安定的に収穫するにはトータルな経験が必要です。私自身が失敗したことを教えているけれど、これが正解というのはありません。でも、農業をやろうという若い人を応援していきたい」と邦雄さん。「里親制度」の“里親”は、“里子”が独立した後も、身近な相談役としてさまざまな相談にのります。
新規就職にハードルは高いけど新規就農には一般に、(1)技術(2)資金(3)農地(4)住宅(5)機械(施設)の習得・確保がハードルだと言われます。新規就農者は地域での信用がなく、農地や住宅の確保もたいへんです。「里親制度」では、そういったことも“里親”の信用でスムーズになります。しかし、新規就農者の最大のハードルは何と言っても、輸入急増と競争主義にもとづく農産物価格の低迷。ベテラン農家でさえ満足な所得を得られないのに大丈夫か――誰もが心配することです。始胤さんは言います。「安売り競争のなかで生き残ろうと思っても生き残れない。農家同士が手を結び、消費者とも共同を広げて、再生産できる価格を運動で守っていくことが大事だ」。始胤さんの言葉には、技術よりももっと大事なこと、農民としての誇りや生き様が込められています。
“里親”だけでなく手厚い支援国と比べ すすんだ長野の制度二〇〇三年にスタートした「里親制度」はこれまで、九十一人の“里子”を受け入れ、二十四人の新規就農者を育ててきました。“里親”に登録する農家は年々増え、一月末で二百二十五人。“里親”には年間六十万円の謝金が交付されますが(山下さんは竹村さんに労賃として支給)、「みんな一肌脱ごうと手をあげた人たち」と、就農コーディネーターの雫田幸和さん。雫田さんら四人のコーディネーター(県職員)が、就農相談から“里親”の紹介まで就農希望者の面倒を見ます。また、長野県には研修費助成(月額四万円)、就農支援金(二十五万円)、農地賃借料の助成、住居費助成(月額一万円)などの制度があります。一方、国の制度として就農研修資金(月額十五万円)、就農準備資金(二百万円)などもありますが、こちらはあくまで融資です。 研修中の生活は、新規就農をめざす人にとって重い課題です。長野県では市町村が滞在施設を用意したり(佐久穂町、東御市、開田村、生坂村など)、臨時雇用などで生活費を手当て(木島平村、JA上伊那など)するなど、生活を保障しています。雫田さんは「地方にいけばいくほど高齢化が切実な問題。役場や農協、農業委員会、普及センターが一致団結してサポートしている」と話しています。
(新聞「農民」2006.4.10付)
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[2006年4月]
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