第16回大会第二回全国委員会への報告(3/4)二〇〇六年一月十四日 農民連常任委員会/第二回全国委員会への報告(2/4) /第二回全国委員会への報告(3/4) /第二回全国委員会への報告(4/4)
(4)混迷を深めているWTOをめぐる情勢とたたかい 1、百八名の代表団を閣僚会議に派遣した農民連・食健連の成果 ビア・カンペシーナへの加盟(昨年五月)後、初のWTO閣僚会議が十二月に香港で開かれ、食健連などと共同して百八名の代表団を派遣して世界の農民組織やNGOの人たちと連帯し、多様な行動を成功させたことは大きな成果でした。 WTO閣僚会議への大型代表団の派遣は初めてであり、発達した資本主義国の日本でWTOとたたかう勢力が存在していることを国際的に知らしめ、農民連がその中心勢力として奮闘していることは、世界のたたかう仲間に大きな激励をもたらしました。日本の代表団の奮闘は、閣僚会議が農業交渉でほとんど前進が見られなかった事態をつくるうえで大きな役割を果たしました。 2、WTO香港閣僚会議の結果をどう見るか (1)ますます鮮明になったWTO体制の危機 今回の香港閣僚会議は、九九年シアトルでの決裂、〇一年ドーハでの玉虫色の合意、〇三年カンクンでの決裂を経て、今回、決裂すればWTOの存在そのものが問われる事態のなか、合意目標を大幅に引き下げて開かれました。その結果、二〇〇六年の交渉スケジュールをつくっただけにとどまりました。 マスコミは「かろうじて決裂を回避した今回の会議を、『成功』と呼ぶことはできない。……はっきり見えたのは、世界の貿易自由化の道が一段と険しくなっているという現実である」(日経十二月十九日付「社説」)、「香港会議の挫折は多角的貿易交渉(ドーハラウンド)の機能不全を露呈し、来年末の最終包括合意が一段と危うくなってきた」(同記事)と指摘しています。 私たちはこれまで「追い込まれているのはWTOとアメリカ、先進国であり、追い込んでいるのは世界の民衆と発展途上国だ」と指摘してきましたが、この構図がますます強まり、WTO体制の危機が深化しています。 (2)WTOを絶対視する日本政府とのたたかい 1)食糧主権を国民多数の世論に WTO交渉は四月にモダリティ確立、七月に各国譲許表提出、十二月最終合意というスケジュールが決定されています。 当面の焦点である四月のモダリティ交渉に向け、三月議会請願運動などを行い、ビア・カンペシーナと連携し、交渉の舞台として予想されるジュネーブに代表を送ります。また、東アジア社会フォーラム(タイ・十月)など重要な国際連帯活動の取り組みを進めます。アジア諸国との連帯運動を進めるうえで、侵略戦争に対する正しい歴史認識をしっかり据えて交流を深めることも重要です。 国内でWTOを絶対視して関税引き下げを前提にした「農業構造改革」を推進している日本政府は今回の閣僚会議に「譲るべきものは譲る」(中川農相)という態度でのぞみました。交渉では米関税引き下げとミニマム・アクセス米の拡大を認めるという裏切り行為をはたらき、交渉をアメリカや多国籍企業の利益を守る方向で進め、途上国に巨額の開発援助をチラつかせる買収作戦を打ち出し、これが途上国からの反発を招きました。香港行動の最大の教訓は、国際連帯を力にそれぞれの国で自国政府とのたたかいをいかに前進させるかということでした。 こうしたWTO体制の「挫折」と「機能不全」、その一方での世界の農民・民衆の運動の前進、発展途上国の団結におおいに確信をもち、「WTOは農業と食料から出て行け」「ダウン・ダウン・WTO」の声を広げ、日本政府を国民的に包囲するために全力をあげます。食糧主権の確立と、その立場にたった農政を要求する農民連としての「食糧主権宣言(案)」を打ち出し、農業関係者はもとより、国民的議論を巻き起こします。 2)価格対策を要求する運動を前面に 価格保障は食糧主権の中心部分です。農家や農業関係者にとってWTOの最大の弊害は農産物価格の暴落であり、価格対策こそ最も切実な要求です。生産を刺激し、全農家を対象にした価格対策がWTO協定に抵触する(黄色の政策)ということが、「品目横断的経営安定対策」の推進のなかで多くの農家に知らされ、WTOの本質的な矛盾を実感させています。 政府に向けて「品目横断的経営安定対策」の中止と、がんばるすべての農家を対象にした価格保障への転換を要求する運動を地域から広げ、自治体に向けても可能な経営安定対策を要求して運動を進めます。また、暴落した価格を回復させるために、セーフガードの発動、棚上げ方式による十分な備蓄米の確保を要求して運動を強めます。生産者を買いたたく一方、消費者に高く売るという構図、市場が形がい化されているもとでの相対取引の実態など、流通大企業の横暴を暴露し、政府に規制を要求して運動を進めます。 農産物の価格保障を実現するたたかいを、労働者の全国一律最低賃金の保障や安心して老後を暮らせる最低保障年金、生活費非課税の原則に立った課税最低限など、生存権を保障する最低限のルールを実現するナショナルミニマム運動として取り組みます。ナショナルミニマムの確立運動を国民的課題として発展させるために、中央段階にとどまらず、都道府県や地域でも取り組みを強めましょう。 (5)十周年を迎えた食品分析センターの発展とポジティブリスト制への対応 九六年五月に発足した農民連食品分析センターは今年五月に十周年を迎えます。WTO協定の「SPS協定」によって輸入農産物の検査が骨抜きにされるなかで、輸入とのたたかいや、国民の安全・安心の願いに応えて生産を拡大するうえで大きな役割を果 たしてきました。数次にわたって全国的募金の協力を得て、遺伝子組み換えや重金属分析機器の配備、人的配置も強化し、「国民のための分析センター」としての地歩を築き、行政への影響力を強め、業界からも信頼を得ています。 こうしたなか、〇六年五月から残留農薬がポジティブリスト制(基準のない農薬が〇・〇一ppm以上残留する食品の流通 禁止など)が導入され、これまでの百二十八農薬を分析できる分析機器では対応できなくなり、八百近い農薬を分析できる「ガスクロマト質量 スペクトル」の配備が求められています。この最新鋭機材の導入によって、ポジティブリスト制を生かして増大する輸入農産物の残留農薬をより厳しく監視することや、ますます重要になる国内の生産物の農薬分析への対応が可能になります。 十周年記念事業として「ガスクロマト質量スペクトル」の配備と新たな人員配置、施設の移転などを目的に「食品分析センター二千万円募金」を組織の内外に訴えます。この間の成果を生かした資料の作成や記念レセプションも開催します。 (6)重税を許さず暮らしと経営を守る多様な運動 1、高まる税金要求、自主計算・自主記帳の運動の出番 消費税免税点が一千万円に引き下げられたことにより、新たに課税業者になった人たちは〇六年春に申告義務が発生します。昨年は、税務署が課税業者を広げることを口実にした「お尋ね」を乱発し、税務調査も激しく行われた一年でした。 経営が赤字でも納税義務が発生する消費税は、農家の経営と暮らしを脅かし、消費税体制下での無法な徴税は農家の権利を侵害しています。こうしたなかで税金に対する要求はますます切実になっています。特に所得税が全国的に「経費目安方式」から収支計算に移行したもとで、納税者としての権利を身につけ、記帳簿を軸に、助け合い、自主計算・自主申告する農民連の取り組みは広範な農家が参加する条件を強めています。 取り組みを飛躍させるカギは、会員が農民連の取り組みの優位性に確信をもち、まわりの農家に「一人紹介運動」に取り組むことです。販売額が一千万円を超える消費税対象農家、兼業や年金所得者などの還付対象者など暮らしと経営の実情をふまえて農家が要求をイメージできるように働きかけること、全農家を対象に宣伝し、すべての市町村・地域で税金相談会を開催すること、そしてこの取り組みに出足早く打って出ることが重要です。春の確定申告をすべての組織が農民連の要求運動の柱に位置づけて取り組みましょう。 2、固定資産税を軽減する運動 〇六年は固定資産の評価替えの年です。固定資産税が増えつづけ、農家の暮らしと経営を苦しめています。また、三大都市圏では自治体合併で特定市となり、農地が宅地なみ課税にされる状況も生まれています。 評価替えを農業用施設用地をはじめ農地をあくまで農地として評価させること、造成費の引き下げ、小作料を上回る固定資産税の減免、市街化区域農地の生産緑地追加申請の運動を前進させる機会にします。「固定資産税相談会」の開催、都道府県や市町村交渉に取り組み、高すぎる国保税引き下げや減免を要求する運動も引き続き強めます。 3、火傷病の侵入を許さない運動 アメリカの圧力とWTOパネルを口実にした火傷病の検疫体制の骨抜きと、侵入を許さない取り組みは果 樹農家の死活にかかわる問題です。アメリカの横暴とWTOの本質を暴露するとともに、政府に対して「アメリカのいいなりになるな」の世論を広げ、水際を含めた徹底した侵入対策を要求して運動を広げます。
(新聞「農民」2006.1.30付)
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[2006年1月]
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