ものを作ってこそ農民!
大企業の農業・食糧支配を許さない
「もう一つの流れ」を強く大きく(1/4)
農民連第16回定期大会への報告
=大要=
〔1〕私たちをめぐる情勢の特徴
大会決議案は、アメリカが、日本を新たな世界戦略の拠点として日米同盟を再編強化するねらいを強めていることや、アメリカに追従する小泉内閣の際立った危険性を指摘しています。また、国民生活のあらゆる分野で国民犠牲を推し進める小泉政治を厳しく批判し、「アメリカの国際的孤立、財界の政治・経済支配の危機、自民党政治の行き詰まりを背景に、危機の打開のために国民生活のあらゆる分野に犠牲を強い、国のあらゆる制度や法律、憲法にいたるまで『国家改造』をするというものです。『二大政党』も、自民党が国民に見放されてもアメリカと財界の利益を最優先する政治を継続するためのものであり、国民に追い詰められた結果にほかなりません。こうした国民の根本的利益に背を向け、国と地域の経済破たん、戦争する国づくりを進める政治は、多数の国民との矛盾を深め、彼ら自身の支持基盤さえ崩壊させて破たんせざるをえません」と指摘しています。これが今の情勢の特徴です。
1、 国のあり方にかかわる改憲、戦争と平和をめぐる対決の情勢
小泉内閣は、イラク戦争の無法さが浮き彫りになり、戦闘の泥沼化、イラクから軍を撤退させる国が相次いでいるなか、国会が終わってから派兵延長を決めました。憲法や国民世論よりもアメリカヘの忠誠を優先する小泉内閣の危険性をまざまざと示しました。
与党は、改憲のための「国民投票法案」を今国会に提案しようとしており、自民党と民主党が改憲を競い合うという緊迫した事態にあります。改憲のねらいは、アメリカいいなりに自衛隊を海外に派兵して武力行使を可能にすることにあります。今年は、終戦六十年の記念すべき年です。世界が戦争のない社会への流れを強めているとき、日本がこの流れに逆行することは許されません。戦争への道を許さないために全力でたたかいましょう。
2、 増税と国民負担増による暮らし破壊
暮らしをめぐる問題では、年金保険料の引き上げ、配偶者特別控除の廃止、消費税の免税点の引き下げなど、二〇〇五年、二〇〇六年の国民負担は三兆円、さらに住民税・所得税の定率減税の縮小・廃止、介護保険の利用料・保険料の引き上げで四兆円、あわせて七兆円もの国民負担がたくらまれています。二〇〇七年からの消費税率を二けた台にするねらいも重大です。
こうした国民負担は、収入が一九九九年からの五年間に十兆円も減った家計所得を直撃し、国民の暮らしと日本経済に計り知れない打撃をもたらすことは明らかです。大企業と高額所得者への減税を継続し、巨大開発を聖域化して庶民を狙い撃ちにする増税や負担は許されません。
破たんした経済を立て直すためには、国民犠牲ではなく、福祉や暮らし、農業を応援し、国民のふところを温めること、国民の将来不安を取り除くことです。この方向こそ、深刻な経済危機を打開する道です。七兆円の負担増、消費税増税に反対するたたかいを国民と共同して全力をあげましょう。
3、 財界戦略によって重大な局面にある農業・食糧
財界戦略のなかで、農業・食糧が最大のターゲットにされています。その中心が「農業構造改革」であり、「食料・農業・農村基本計画」の見直しにむけた「中間論点整理」が打ち出している「国境措置に過度に依存しない政策体系を構築する」としてWTO交渉による関税引き下げ、EPA(経済提携協定)・FTA(自由貿易協定)による関税撤廃に対応する農政の枠組みづくり、農地制度の解体・株式会杜による農地取得などです。そして、小麦、大豆などの価格保障制度を廃止し、一割の大規模経営や法人経営などを対象にした「日本型直接支払い」の実施を打ち出しています。大多数の農民を切り捨てる「戦後農政の最終決算」とでもいうべき農業つぶしです。
(1)WTOを補完する「みどりのアジアEPA推進戦略」の危険なねらい
昨年秋、農水省が打ち出した「みどりのアジアEPA推進戦略」は、大企業が海外に進出するために、農産物の総自由化をはじめ、すべての物品の関税を撤廃するFTAに加え、投資や労働力の移動などの規制も撤廃しようというものです。これは、WTO交渉が暗礁に乗り上げているなかで、二国間交渉を最優先にした新たな「開国宣言」です。
農民連は、日本とアジア諸国との経済協力に一律に反対するものではありません。しかし、WTO体制のもとでの大企業の利益本位の「経済協力」は、けっしてアジア諸国の国民の利益にならず、また、日本経済をさらに空洞化させ、農業破壊によって食料自給率をさらに引き下げることにほかなりません。
(2)重要な局面を迎えたWTO農業交渉
WTO交渉は、二〇〇七年一月までの決着がもくろまれていますが、無制限の貿易自由化を進めようとする多国籍企業やアメリカの思惑と、これに反対して新しい貿易ルールを求める動きが正面からぶつかりあい、WTO体制の危機が進行しています。同時に、重大な矛盾をはらみながらも関税のいっそうの引き下げと輸入枠の拡大、最終的には「関税ゼロ」にするというWTOの基調にはなんの変化がないという両面を見ることが大切です。アメリカのねらいは、目本の米の関税を四九〇%から二〇〇%程度に引き下げることであり、これを許せば一万二千円(一俵六十キロ)程度の外米が輸入されることになり、米価暴落がさらに加速されることは必至です。また、ミニマム・アクセス米も、「センシティブ品目」(重要品目)の関税の引き下げ猶予の代償に輸入拡大の危険があることは重大です。
(3)日本の米と水田をつぶす「米改革」と異常な米価の大暴落
米価の大暴落はすべての農家に打撃をもたらし、特に「担い手農家」への打撃は深刻で、「担い手」からの離脱、借り受けた水田の返上、「集落営農」の断念など、深刻な事態を生み出しています。今日の事態は「米改革」の弊害によるものですが、外米より安い三十年前の米価がどうして許されるでしょうか。いまほど、農民の労働が踏みにじられているときはありません。
農民連は、米価回復の当面の鍵として超古米の放出中止と政府自身が決めた備蓄百万トンの買い入れを要求し運動に全力をあげてきました。しかし政府は、今日の異常な米価に対し「落ち着くところに落ち着いた価格」と開き直り、四十万トンを買い入れる方針を決めて一部実施したものの「価格に影響を与える買い入れはしない」という無責任な態度です。
「米改革」は今後さらに矛盾が拡大することは明白です。農水省が「勤労者なみに五百三十万円の所得を確保する」として打ち出した経営規模は「米改革」の担い手の面積基準を上回る十四ヘクタールですが、どんなに経営規模を拡大しても、価格の下支えがないまま、市場原理一辺倒で政府が主食の生産と流通の責任を放棄する「米改革」では、稲作も地域農業も成り立たないことは明らかです。
(4)食の安全が脅かされるBSE問題
アメリカの輸入解禁圧力に屈して政府が二十カ月齢以下の牛の検査を放棄し、アメリカ産牛肉の輸入を解禁する動きを強めていることは、対米従属と大手外食産業の要求を最優先する小泉政治の象徴です。同時に、事態は緊迫しているものの、輸入停止が継続されていることは運動の成果として重要です。引き続き、広範な国民・消費者、畜産農民や畜産団体との共同を広げ、すべての都道府県で全頭検査の継続を要求して運動を広げましょう。畜産では「畜産廃棄物三法」が実施されているもとで、畜産経営の実態を踏まえ、経営が続けられるようにするための対策を政府に要求して運動を進めましょう。
4、 今日の情勢のなかでの私たちの展望
要求を阻んでいる壁は大きいようにみえますが、今日の情勢は、悪政を進める側の行き詰まりを背景としています。そして、こうした悪政に対して抑えがたい要求にもとづくたたかいや共同が「もう一つの流れ」となって広がっていることです。
この流れは、改憲や消費税増税、医療や年金制度改悪、アメリカ産牛肉の輸入解禁や全頭検査の見直し間題など、あらゆる分野で現れています。農業・農村の分野でも、「米改革」や「農業構造改革」に抗して、地産地消や担い手を拡大して地域農業を発展させる努力、自治体合併の押しつけをはね返し、住民を主人公にした農業や地場産業振興による自立した自治体づくりの動きとなって広がっています。また、大企業の支配や横暴に抗して、食の安全・安心や商店街の活性化のために、農村や生産者と結びついた消費者や中小流通業者の努力もはじまっています。
アメリカの覇権主義や多国籍企業の利益のためのグローバリゼーションに反対し、世界平和や人類の持続的発展、すべての人々が健康的に暮らすことのできる食糧主権を求める流れの拡大は、国際的規模での「もう一つの流れ」です。今日の情勢は、希望のない方向に一路向かっているのではありません。こうした流れを私たちの奮闘でいかに強く大きくするかが問われています。
(新聞「農民」2005.1.31付)
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