BSE補償 自治体が積極的取り組み
福島・二本松市補償、融資、助成など総合的にきめ細かな支援策「BSE被害の実額補償はできる」。農水省が従来型の対策に終始する一方で、地方自治体の思い切ったBSE対策が注目されています。福島県二本松市の対策は、農家の損害補償、耳標装着への助成、五年間の無利子融資など総合的。とくに損害補償の仕組みは考え抜かれています。 和牛の子牛を生産する繁殖農家に対しては、過去三年間の平均価格との差額の十分の三を助成し、国の対策の不足分を穴埋めします。最高額は去勢オス子牛に対する六万円。市内の農家が販売した、すべての牛の価格をもとに算出しました。 F1(交雑種)や乳牛を肥育する農家に対しては、再生産を保証する独自の基準価格を設定(F1が三十二万円、乳牛が二十七万一千円)。これと実際の販売価格との差額の十分の三を助成。 とくに「苦労した」(湯田義夫農林課長)のは、酪農家が販売する乳子牛(F1含む)。相対取引が多く、販売金額の証明が難しいのですが、肥育農家の協力で証明し、過去三年間の平均価格との差額の十分の三の助成に踏み切りました。 これを「一自治体の枠を超えた対策」と評価するのは、市内の三百四十頭の肥育農家、高野仁さん(45)。高野さんの損害は、牛舎にいる牛の含み損も加えれば四千万円を超えます。政府の対策では、従業員の賃金を払うのがやっとで、とても生活費には回りません。「牛肉の輸入をストップするぐらいのことをすべきだ」という高野さんは、ふがいない政府の対応を厳しく指摘します。 二本松市の隣町、安達町でも二月十八日の臨時議会で、町独自のBSE対策を全会一致で可決しました。同町の対策は、出荷した頭数に応じて、肥育農家に導入牛価格の十分の三を助成(最高六万六千円)。導入牛に助成することで子牛生産農家にも支援が及ぶのが狙い。実際に、対策を告知した一月の子牛市場では、前月比で五万円もアップしました。 二本松市と安達郡の六町は二月七日、バスを仕立てて、首長、農家らが農水省、県に要望。同行した安達町の伊藤信也課長は「農水省は“絵に描いた餅”でない対策をすべき」と語っています。
群馬・宮城村村が再建援助資金BSE発生農家を励ます出荷した廃用牛がBSEと確認され、処分を余儀なくされた牛は擬似患畜五十六頭、同居牛十二頭の計六十八頭。一瞬にしてすべての牛を失った群馬県宮城村の酪農家は、心に受けた深い傷を癒す間もなく、いま再建へ向けて歩を進めています。「うちの牛がBSEだときいても、信じられなかった。どう考えても思い当たる節はない。だけど、事実は事実として受け止めている。このことは頭から一生離れないだろう」 酪農の仕事について十四年。四十年余やってきた親の代を引き継ぎ、夫婦で経営する若い酪農家は語ります。 「うちは昔からの経営で、農協系統の餌しか入れていなかった」 だから「どうして…」との思いが強く、頭の中が真っ白に。「もう経営は続けていけない。村に住んでいることもできないだろうから、どこかで暮らすようになるかな」。そんなことばかり考えていました。 「とにかくやるんだ、やるしかない」という気持ちになれたのは、近所の酪農家の人たちが励ましてくれたから。村の支援がなければ再建計画さえも立たなかっただろう、といいます。 村は、自治体として全国で初めて、BSE発生農家の経営再建のために、県の支援も得て千三百六十六万六千円の資金援助をすることを決めました。 桜井敏道村長は次のように語ります。 「宮城村は県下でもトップクラスの畜産の村です。農業粗生産額の八二%を畜産が占めています。支援していかないと、村自体が成り立たなくなる。なんとしてもつぶすわけにはいかない」 それでも経営を続けていくには、新しく牛を買って餌を与え、乳を搾り出さなければなりません。今年中に四十頭から四十五頭買うだけはなんとかなるものの、搾乳の量も大幅に少なくなります。初産の牛は事故率も高く、再建計画どおりに進んでも二年目までは赤字覚悟です。先行きどうなるか不安は残ります。 「だけど、自分自身にうそをつかない経営だから、ずっと前を向き続けてやっていくことはできる。安心して食べられるのが日本の農産物です。自分もそういうのを作っている」 そう語る笑顔には、力強さがみなぎっていました。
(新聞「農民」2002.3.4付)
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[2002年3月]
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