この目で見た!中国・黒竜江省の米作り現地視察ツアーに参加して(上)猛烈な「開田ブーム」が続き、「きらら」「コシヒカリ」など日本品種が作付されている中国・黒龍江省。「この目で黒龍江省の稲作を見たい」――。農民連有志が九月二日から六日まで中国を訪問。実際に稲を作り、あるいは米販売にたずさわってきた者の目で、黒龍江省・鶴岡市の国有農場「新華農場」の稲作と米を見てまわりました。 ツアーの結果は「新聞『農民』の特集を読んで、これで日本の稲作もおしまいかと思った。ところが、現地に行って『これなら日本でも行ける。日本の米作りはこれからだ』という思いを新たにした」――という佐藤長右衛門・秋田県連委員長(農民連常任委員)の言葉に象徴されています。 視察したのは九月三日だけ、しかも新華農場一カ所。同農場の耕地面積は二万七千ヘクタール、人口二万二千人。炭鉱や発電所、精米・農機・肥料工場なども経営し、日本の品種を導入して対日米輸出戦略の拠点になっています。 対日輸出をねらう最も先進的な農場の米と稲作をどう見たか、ツアー参加者に語ってもらいました。
乏しい地下水依存がネック真嶋 駆け足の視察でしたが、得るものは多かったと思います。一言で「こうだ」と言えるほど単純ではありませんから、実際に見たことを分析的に話し合っていただきたいと思います。まず水の問題から……。小林 案内してくれたのが新華農場の水利局長で、地下水に依存している稲作であること、水位は七〜十五メートル、井戸一つで水田十ヘクタールをまかなっているという説明でした。農場の南六十キロを松花江が流れているので、「井戸の水は松花江の水ですか」と聞いたら、「そうではなく興安嶺の山からの水だ」という答でした。 日本列島の山々に雪が積もるのは、日本海の暖流があってのことです。興安嶺の山々にそういう条件はありません。中国東北部は年間雨量が五百ミリと非常に少ない地方ですから、長い間かかって貯めた地下水を使っていることは間違いないでしょう。 「まだ井戸を掘るのですか」と聞いたら「もう掘らない」と言っていました。 私たちが見たのは一カ所だけでしたが、水の問題が非常に大きな制約条件になっていることは確かで、水が無制限にあって、畑地に潅漑さえすれば、いくらでも水田が拡大できるというものではないと思いました。
松花江の水は汚染がひどくて真嶋 「なぜ松花江の水を使わないのか」と聞いたら「汚れている。重金属汚染だ」と言っていました。横山 ジャムスの市場で生きた魚を売っているので「どこから持ってくるのか」と聞いたら「ウラジオストクからだ」と。「松花江には魚がいないのか」と聞いたら「いるけれども汚染されているから食べられない」という答でした。 堂前 レストランでは「この魚は全部養殖だから安全です」とも言っていた。 真嶋 中国の水質分析の資料によると、松花江の水質は「懸濁物質、水銀、鉛汚濁が進行している」とのことです(「中国における水質汚濁の現状と対策」)。 佐藤 行く前は、すごい大面積で作っている中国の米に対して、われわれの負けは決まっていると思っていました。しかし水田にとって不可欠な水を地下水に依存するということは、たいへんなネックだと直感的に思いました。 小林 水稲栽培の極限に近いところで、ここまで努力している中国の人々に深い敬意を覚えながら、技術では解決しない問題、つまり緯度や降水量、土地条件など農業生産に占める自然条件の比重が非常に大きいということを感じました。
稲も「のどがカラカラ」状態佐藤 田んぼの水を切ったのは八月二十日だそうで、われわれが見たのは九月三日。二週間経っていたわけですが、田んぼに入ってみると、土がパサパサと乾燥して、ヒビ割れていた。われわれの感覚からすれば、ギリギリまで水を切らないですよ。早いうちに切れば、品質が低下する。稲が悲鳴をあげているような感じでしたね。横山 ええ、「稲も、のどカラカラ」という感じでしたね。刈り取りが九月二十日頃と言っていたから、約一カ月あの状態で、しかも湿気がないわけだから、うまい米にならないと思う。 商社は、種や機械、農薬などのハード部分は提供しているが、うまい米作りのソフト部分は全然伝えていないと感じました。 田んぼで乾燥しすぎて、胴割れが多く、ツヤも味もなく、炊くと、沸騰するときに粒子が違うから、団子状になったりグチャグチャしたりという具合になります。これは味にうるさい日本人にとっては決定的なことです。 真嶋 大連のレストランで食べたご飯、あれはまさに団子状でした。
北海道の稲作に似ているが真嶋 稲の姿をどう見ましたか。白石 八十センチくらいの短棹で、北海道の稲とよく似ていた。北海道の稲は長い稲から短い稲に品種改良してきましたが、そっくり。 密植で、株間は狭く一株の植え本数も多い。成苗ではなく、稚苗植えでしょう。育苗箱も見ましたが、大部分はマット苗で、厚播きしている。したがって茎は細くなる。茎の太さは私の稲の三分の一くらいです。あれでは、少し大きな雨風がきたら、倒伏するでしょう。 堂前 しかし、倒れている稲は見なかったね。 佐藤 下の葉が枯れていた。これは稔実歩合、登熟歩合にも影響する。籾を調べたら、稔実歩合は六五%程度で相当低い。籾換算で七百五十キロ取れると言っていたが、その六掛けが日本で言う収量になる程度ではないか。 白石 品質の問題はともかく、量的には七俵くらい。けっこうな水準には達していると思った。畑苗代や短棹の稲の作り方など、北海道の技術が相当入っているという感じがした。 密植は、ちょうど田植機が出始めのころ、機械に合わせて出てきた技術で、健全な稲にならないということでだんだん淘汰され、成苗植えという稲本来の力を引き出す技術に変わってきた。最初に見た展示圃ではあまり株数が多くなかったが、そのあと見た田は大変な密植。稲の姿も、やっていることも北海道に似ているが、栽培技術に一貫性がない、技術はまだまだ発展途上という印象でした。
(新聞「農民」2001.10.8付)
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