「農民」記事データベース20011015-512-06

この目で見た!

中国・黒竜江省の米作り

現地視察ツアーに参加して(中)

関連/中国・黒竜江省の米作り(上)/(中)/(下)

〈出席者〉(敬称略)

小林節夫(農民連顧問)
佐藤長右衛門(農民連常任委員、秋田県連委員長)
白石淳一(農民連副会長、北海道連委員長)
堂前 貢(農民連副会長、岩手県連書記長)
横山昭三(農民連参与、前東京城南食糧部長代理)
石黒昌孝(農民連事務局次長、農民連分析センター所長)
真嶋良孝(農民連事務局次長)


 真嶋 黒龍江省で日本の稲の作付が増えている、その実態を見ることも視察の大きな目的だったんですが、この点については……。

日本品種のコピーが多い

 白石 新華農場の水利局長は「空育一三一」という品種が黒龍江省の作付の五五%を占めていると言っていました。実は「空育一三一」は北海道中央農業試験場稲作部(空知)で育種された品種で、きらら三九七の出現で奨励品種にならなかった稲なんですよ。ですから、北海道の農民は作ったことがない。なぜ、この品種が黒龍江省でこれほど普及されているのか、道庁や試験場に聞いても「分からない」「ありえない」と頭をかしげるばかりで、謎のままなんです。

 真嶋 ただし新華農場は「空育一三一」の作付をやめ、対日輸出をねらって「きらら」と「新越光」、つまり新コシヒカリに特化している。しかし、あの北限の地で本当に「コシヒカリ」ができるのか、疑問が残ったままです。

 白石 現地の気温から考えて、コシヒカリが作れるとはとても思えない。現地の品種とかなり交配しているんじゃないか。

 小林 それに、なぜ毎年品種を変えるんだろう。水利局長は「いい品種はどんどん採用する」と言っていたが……。

 白石 見た圃場では、化けている稲もかなりあって、品種が固定していないと感じた。あの種を次の年に栽培したら、ひどいことになるんじゃないかと思う。おそらくどこかから種を持ってきているんだろうね。

 それから水利局長に「きららと他の品種を掛け合わせた新しい品種ができているはずだが」と質問された。心当たりがなかったが「ほしのゆめ」かと問い返したら、「そうだ」と強い関心を示していた。

 佐藤 われわれが新しい品種を作る時には、品種の特性や地質条件だとか、定着するまでかなり蓄積するが、それがほとんどない。あれで米作りができるのか、かなり疑問だ。

 真嶋 基礎研究よりも、とりあえず条件が似たところの品種を持ってくればいいということなんでしょうか。山東省のリンゴはふじ、梨は幸水・豊水というのと同じで、底が浅いと思う。

 小林 極端な話、稲は水さえあれば、土が少々悪くてもできる。直輸入して作るんなら、稲が一番作りやすいかもしれない。しかし、しょせんコピーだ。自然条件だとかいろいろなことを検討しないで、直輸入的にやってどこまで持つかなあという気がするね。品種が年替わりでは、農民にとっては負担だろうね。

六条植え田植え機が一万元も

 真嶋 農機も何種類か見せてもらいましたが……。

 堂前 一番見たかったのは田植機で、事前に一台一万円と聞いていたけど、現地で聞いたら一万元(約十五万円)。六条植えでしたが、一万元というのは、ずいぶん高いんじゃないかと思いました。田植えの日給が四百五十円だというんだから。一方、資材はけっこう高いものを使わされているという感じがした。

 白石 収穫は、コンバインはほとんど使っていないようだね。刈り倒し機とスレッシャー(脱穀機)でやるのが一般的だと言っていた。乾燥は、穂を上にして立てておく「タコ干し」。北海道でも昔やっていたが、乾燥が極めてムラになる。

 横山 刈り倒して地干し、それに脱穀作業も田んぼでは、土砂の混入は避けられない。精米工場で石が排出されていたが、なるほどと思いました。これでは、とても玄米のまま日本に持ち込めない。

稲作限界地でよくここまで

 小林 黒龍江省の稲作を「作る」という角度から見て、これまで話し合ってきたような問題がありましたが、全体としては、あの稲作の限界の地で、よくぞここまでこぎ着けたものだと思います。

 田植機などは、日本で使われなくなったものの部品を使って工夫して作っており、脱穀機も苦心の自作。タイの農民が日本のポンコツ自動車の部品を使って「農民車」を作り、修理も自分たちでやっていたことを思い出しました。日本ではすぐ買い換えたり、修理も農機具店まかせという傾向にあることと思い合わせて、内心恥ずかしく思いました。そして、私自身、まだ草刈機がないころに鍛冶屋に頼んで試作してもらったことなども思い起こして共感を覚えました。

 同時に、稲作限界の自然条件のもとで、日本の技術を直輸入している傾向、あるいは「追いつけ」「追い越せ」というところからくる焦りのようなものがないだろうかという危惧です。

 それが指摘されたような技術的な弱点を生み出しているのではないかと思いました。もっとも、これは国有農場だけのことかもしれません。極北の果てしない広野で生きてきた普通の農民には、ああいう性急さは無縁だろうと思います。

 大自然の中で営まれる農業は工業の場合とは根本的に違うのに、それを無視して日本の商社が無責任な開発輸入を進めている――これは、日本の農民にとっても中国の農民にとっても不幸なことです。

 日本は「満蒙開拓」と称して農民の土地を奪った歴史を持っている。この地で、日本がまた無責任なことをやるなどというのは許しがたいことです。

 白石 そう、農民同士であれば、作物を作る思いは一致できるなと感じました。

 小林 中国の普通の農民と一緒に話し合い、研究したいものだという衝動にも似た思い、双方の農民がそれぞれ思い切り作って喜べる時代が待ち遠しいという思いが、帰ってからだんだん湧いてきました。

耕しつくされた広大な大地

 佐藤 黒龍江省を駆け足で見ながら感心したのは、どこに行っても隅から隅まで全部作付されていることでした。トウモロコシ、大豆、白菜畑が多かった。

 堂前 そう、遊休地がなかったね。

 石黒 トウモロコシ畑と大豆が交互に植えられ、輪作がきちんと行われている。そうでなければ、収奪農業になって長続きしない。

 真嶋 だけど、ジャムスからハルピンに向かう車窓から、広大なトウモロコシ・大豆畑を見ながら、中国がWTOに加盟し、アメリカ産の大豆や麦、トウモロコシの輸入を受け入れたら、いったいこの広大な大地はどうなるのかと考えざるをえませんでした。

超低賃金がもたらす矛盾

 小林 あまりにも賃金が安いということは機械化を阻む。たしかに中国の低賃金は安い米を作るが、機械を入れるより、労賃のほうが安いとなったら、機械化が進まないでしょう。

 石黒 ジャムス市内には、「労働力市場」があり、周辺には「私はこういう仕事ができる」というプレートを首に下げている人がたくさんいた。新華農場も農繁期になれば、そういう人を雇ってくるのだろう。

 横山 ジャムスで、リアカーに自転車をつないだようなものに乗り、プラスチックの容器を叩きながら走っている人がいた。何だろうと思って見ていたら、ホテルの前でゴミを引き取って、駄賃を受け取っていた。

 堂前 新華農場の水利局長は「春と秋の農繁期にはジャムスから、いくらでも労働力を確保できる」と言っていたよ。

 真嶋 現地の人は「都市と農村の格差が激しい。安いのは農産物だけで、工業製品は高い」と言っていた。上海で作っている自動車は一台十六万元(二百三十万円)で、月収一万円の労働者にとっては高嶺の花。

 テレビ、冷蔵庫、洗濯機の“三種の神器”の普及率は都市ではほぼ一〇〇%になっているけど、農村部では三八%、一一%、二四%。農民がもっと豊かになり、十二億六千万の人口の七割を占める農村で内需が拡大すれば巨大な市場ですね。食糧にしても基礎的な工業製品にしても、日本にどんどん輸出する余地などないはずです。

中国国民が求める米作れば

 堂前 水利局長が「黒龍江省では、昔はトウモロコシを食べ、その後は小麦、そして今は米を食べている」と言っていた。ジャムスでは一人一カ月、〇・五キロしか米を供給できなかったから、米を食べるのは大晦日だけだったが、今は制限がないと話していた。でも、失業している人々は米を食べているんだろうか。日本に持って来ないで、彼らに食べさせればいいのになと思いました。

 真嶋 FAOの統計によると、中国の栄養不足人口は一億六千四百万人で、中国の奥地の人はまだ一日一食だといいます。

 小林 中国は広いけれども、同時に膨大な人口をかかえている。この国民をどうやって養うのかというのは大問題のはずです。

 横山 黒龍江省でやっている米作りは、中国の国民が求めている米作りではないと思います。中国の食べ方は基本的におかゆかチャーハンで、日本のようにつやがあって、粘りがあって、冷めてもふっくらしている米を求めているわけではない。もっと収量があって、中国の国民がふんだんに食べられるような、国の実情・気候風土にあった米作りを考えるべきだと思う。

 真嶋 帰ってきてから、「中国のWTO加盟に伴って予想される補助金の削減および輸入急増に対する動揺が広がっている……中国の農家が政府に対して『全国農民協会』の設立を許可するよう圧力をかけている……協会が設立された場合、三億三千万の農家、八億七千万人の農村部人口を代表し……補助金、農産物買上価格などの農業関連政策の改善を政府に陳情できるようになる」という情報に接しました(農水省・海外農業情報)。

 視察では、直接、農民と話し合うことはできなかったけど、奥深いところでは、こういう動きが進んでいるんですね。

(以下次号)

(新聞「農民」2001.10.15付)
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2001年10月

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