この目で見た!中国・黒竜江省の米作り現地視察ツアーに参加して(上)
自然条件に合わない性急な生産拡大輸出には多くの限界が横山 「きらら」のような栽培期間が短い早稲種はマット、晩生の新コシヒカリはポット苗を使い分けているという紹介もありましたが……。白石 北海道で使われているようなポット苗用の成苗田植機が使われているとは考えずらい。成苗田植機メーカーの「みのる」に聞いたら、中国には輸出していないという答でした。中国に指導に行った北海道の技術者の話では、ポット苗をばらまく農法があるらしいから、使い分けといっても、こういうものでしょう。
イモチ病対策に空から農薬小林 稲の葉に斑点が目立ちました。現地ではイモチ病に大変関心を持っていたようですが、あの斑点は根の障害からくるものではないかと思いました。佐藤 止め葉まで斑点が出ていた。イモチだったら必ず穂首イモチに行って全滅するはずですよ。 白石 「イモチ病対策のいい薬はないか」という質問をかなり受けました。たしかにイモチが大発生する可能性はあると思います。超密植で稲が細いというのは、倒伏にも弱いが、イモチにも決定的に弱い。七〜八月が、わりと気温が高いことを考え合わせると、相当イモチにやられているところがあるんじゃないか。われわれが見たところは、たまたまイモチが大発生していませんでしたが。 それから、イモチ病の農薬「フジワン」を噴霧器や飛行機で大量にまいているという説明には驚いた。神戸大学のアンケート調査によると、「農業生産資材の価格が高い」という声が八〇%に達していると紹介されていた(「黒龍江省農墾区における稲作の発展」)。「フジワン」はかなり高価な農薬で、粒剤と水和剤があるが、粒剤は高すぎるし、水和剤ではイモチは止まらない。それを止めようとすればさらに資材代がかさむという状況だと思いました。 小林 減水深(一日に減る水の量)を聞いたら、三〜五センチの水が一週間もつということでした日本の高収量地域では一日しかもちませんが。これは水に含まれる酸素が根によく行き渡っていないこと、したがって生育後期まで根が健全でありえないことを示していると思います。また、圃場間の農道がほとんどなく、収穫後は田んぼが道路になるということでしたが、耕盤を固くして排水や地下浸透を悪くするのではないかと思いました。 おそらく斑点などの症状は、こういうところに原因があると思いますし、自然条件に合わない性急な生産拡大からくる問題があると思いました。
「緑色食品」を宣伝するが…堂前 中国では、輸出戦略として「緑色食品」(有機食品)を重視しており、新華農場の米も「北のパールライス」「緑色食品」とPRしていますが、われわれが見た田んぼには農薬の小袋が散乱していました。石黒 あれは「フジワン」の袋ですね。 白石 年々収量を上げている要因を聞いたら、土地整理と有機肥料と苗作りを挙げ、化学肥料を年々二〇%ずつ減らし、三〜五年かけて化学肥料を使わないようにしたいと言っていた。だけどどう見ても、家畜を飼って堆肥を作っているようには見えなかった。 真嶋 ワラをすきこんでおけば、春先には腐ると説明していましたが……。 小林 しかし、あの寒いところで、しかも排水が悪く、酸素の供給が少ないなかで有機物がどうやって分解するのかね。 堂前 宣伝されること、めざしていることと現実の間にはかなり差がある。「緑色食品」は日本人向けの宣伝ではないか……。 真嶋 ジャムス空港に降りたときに、みんな一様に「これは空中散布の臭いだ」と口をそろえるほど異臭が強く、虫も鳥も姿を見かけなかった。 小林 二―四Dの工場がバスから見えた。他にもずいぶん化学工場があった。 石黒 燃料に石炭を使っており、クロムやフェノール、大気汚染の原因になる。河川の汚染物質に挙げられていたフェノール性物質も、こういう工場から垂れ流しになっているんじゃないでしょうか。 真嶋 新華農場の精米工場も見たわけですが、横山さん、どうでした? 横山 日本の商社・ニチメンも出資している最新鋭の工場というイメージで行ったのですが、立派な建物もあったが、案内されたのは古い工場で設備も旧式だった。ニチメンとの共同出資で作った工場とは、とても思えませんでした。 石抜機からはゴロゴロという感じで石が排出されていたし、着色粒や異物も多い。精米でも胴割れ米が相当あった。これを全部選別してきれいにして、九五%以上の整粒歩合にしなければ、日本にはとても輸出できません。ですから、歩留まりは相当悪いでしょう。佐藤さんの計算では、籾から玄米にするのに六五%。玄米を精米するのに普通は一割程度減るだけですが、黒龍江省の場合、もっと減るでしょう。 籾の袋には、何も書いていない。何年産で、どの銘柄かわからない。一応、倉庫で分けてあるという話でしたが、日本向けに、産地・品種・産年を明らかにして売り込むようなことには限界がある。現に日本国内では、新華農場が宣伝している真空パック入りの「北のパールライス」(北珠牌)にお目にかかることはありませんが、そうなると、ブレンド用という一番たちの悪いところに使われていくことになる。 真嶋 ジャムスの市場で買った中国米を、小林さんが炊いて食べさせてくれましたが、冷めるとボロボロになるひどい米でした。 横山 私が大連で買ってきた米は、「けっこう食える」という人もいた。食味値の分析でも、国産精米のモードでは八三、外国産モードでは七九。いずれもたん白が非常に低いのと、水分でかせいでいる。味度メーターでは六三と六七でした。味度では七〇以上ないと、一級品とはいえない。腰も味もないけれど、やわらかいから「けっこう食える」という人もいます。
日本向けには“選びに選んで”真正面から日本の米に取って代わるわけでないにしても、精米だから、名前を明らかにできない米でも、業務用やブレンド用に入ってくると、米価全体の足を引っ張る。とくに中国米はそういう要素が強い。だからわずかでも入れないほうがいい。小林 いずれにしろ見た限りでは、いい米がいっぱい取れるわけでもないし、自然条件との調和ができていないためのさまざまな限界がある。黒龍江省の米輸出戦略の影響はかなり厳しいかもしれませんが、ここで日本の稲作農民が米作りから撤退するのは、「平家物語」ではありませんが、水鳥の羽音を敵の来襲と勘違いして逃げ出すようなものではないでしょうか。 真嶋 日本向けには、選びに選んで、粒のそろったものだけを輸出する。世界的には砕米一〇%混入などというのは当たり前の取り引きだし、中国国内でも、おかゆかチャーハンという食べ方だから、ここまでやる必要はない。しかし、日本だけはそうはいかない。 野菜では、中国の人々が食べないホウレン草やゴボウを日本の商社が開発輸入で作らせ、米では日本向け仕様というべき精米・選別システムで“大吟醸米”を作らせるしかも、あんなに水不足の国に。日本の商社のやり方には腹がたちました。
(新聞「農民」2001.10.8付)
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