「農民」記事データベース20230731-1563-09

農基法改定の焦点は
食料自給率の向上
(3/3)

関連/農基法改定の焦点は食料自給率の向上(1/3)
  /農基法改定の焦点は食料自給率の向上(2/3)
  /農基法改定の焦点は食料自給率の向上(3/3)


アメリカの食料戦略

日本の低自給率の秘密

 日本の食料自給率をここまで低下させたのはアメリカの「食料戦略」と、これに追随して亡国農政を進めてきた自民党政治でした。

 「核」と「食料」の傘

 戦後、アメリカは、日本を「核」と「食料」の傘の下にしばりつけることをねらい、1954年に「パンとミルク」の学校給食制度をつくらせて日本人の胃袋を変える土台をつくり、過剰だったアメリカ産小麦や脱脂粉乳を日本に「援助」輸出し、その売却代金を自衛隊創設に充てさせるという一石三鳥の“離れ技”をやってのけました。

 そして60年に日米安保条約が改定され、軍事的・経済的にアメリカに従属することを確約。その農業版として旧農業基本法(61年)がつくられ、「アメリカで余っている小麦や大豆、飼料用穀物は日本で作らない」という穀物“安楽死”政策がスタートしました。旧農基法では、畜産も生産拡大品目にされましたが、飼料はアメリカ産トウモロコシと大豆です。

対米従属の農政で
穀物は“安楽死”に

 食料援助を担当したアメリカ政府の高官は「食料戦略」のねらいを次のように赤裸々に語っています。(1)食料は対外戦略の武器として最も適している、(2)食料援助は日本を米食民族からパン食民族に変えることをねらった、(3)安い食料が日本の農業生産を抑圧し、アメリカへの食料依存を持続させる――(持田恵三「アメリカ食糧戦略の成立」75年)。

 その後も攻撃は執ように繰り返されました。70〜80年代にかけて、日本の大企業による「集中豪雨」的な工業製品の輸出拡大によってアメリカの貿易赤字がふくれあがり、日米経済構造調整が本格化した84年には、中曽根首相とレーガン大統領の主導のもと、「日米諮問委員会」が“日本の農民は野菜や果実、草花を作っていればいい。穀物、大豆、牛肉の生産はアメリカにまかせて、もっと深く食料の傘の下に入れ”と要求。両首脳は「最大限の尊重」を確約しました。

 その結果、小麦・大豆生産は壊滅寸前まで激減し、穀物自給率とカロリー自給率は急落しました(図4)。アメリカ食料戦略によって痛めつけられた日本農業は本格的な回復にはほど遠いのが現状です。

画像

 低自給率の日本をあざ笑ったブッシュ元大統領

 かつて、アメリカのブッシュ(息子)元大統領は「食料を自給できない国を想像できるか? そんな国は、国際的な圧力と危険にさらされている国だ」と言い放ちました(鈴木宣弘『農のミッション』2006年)。

 無責任きわまりない発言ですが、戦後最悪の食料危機のもと、「国際的な圧力と危険」はさらに強まっています。今こそアメリカの食料の傘の下から脱却し、本格的な国内増産と自給率向上に踏み出す時です。


穀物は人と動物と土にとって「主食」

 穀物は人間の生命の維持のために最も基礎的な栄養であるカロリーを供給する主食です。また、人が食べきれない穀物を家畜に飼料として与え、カロリー・たんぱく源を補ってきました。

 さらに、米や麦のワラは繊維質が豊富で、これを糞尿(ふんにょう)で発酵させて堆肥にし、豊かな土壌を作ることができます。

 ですから、穀物は人と動物と土にとって「主食」であるといえるでしょう。穀物を輸入に依存し、自給率29%にまで低下させている日本の政治は、とんでもない「亡国(穀)」の政治です。


食料自給率38%は砂上の楼閣

 肥料や飼料、種子の自給率の低さを考慮すると、カロリー自給率は38%どころか10%あるかないかの「砂上の楼閣」です。

 海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が集中する国が日本だとアメリカの大学も試算しています。

 また、農学博士の篠原信氏は「食料や化石燃料の輸入がストップした場合、国内の生産力だけでは3000万人分の食料しか作れない」というシミュレーションを明らかにしています。


日本の貿易収支が赤字に

食料輸入したくても金がない

日本資本主義の力は凋落の一途

 食料を輸入したくても買う金がない、という問題も近年ますます現実味を帯びてきています。

 かつては工業製品で稼いだ貿易黒字で食料を輸入するという構図でした(図5の左の円)が、2011年以降は赤字に転落し、農産物輸入が貿易収支を上回りました。さらに2022年には貿易・サービス・所得収支の合計である経常収支が農産物輸入額に迫る(図5の右の円)までに落ち込んでいます。

画像

 世界輸出に占める日本のシェアも、ピークだった1986年の10・3%から2022年には3・0%まで低下しました。これは1960年の3・7%を下回る水準で、日本の輸出競争力は凋落(ちょうらく)の一途をたどっています。

 膨大な食料輸入を続ける日本資本主義の力は、強じんでも持続可能でもありません。

〔前ページ〕<< □         

(新聞「農民」2023.7.31付)
ライン

2023年7月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2023, 農民運動全国連合会