農村と農民の権利の集大成
国連「農民の権利宣言」って?
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「小規模・家族農業守る」が世界の主流に
日本はどう向き合うか
愛知学院大学 関根佳恵 准教授
1960年代後半から各国で同時発生的に有機農業やアグロエコロジー、産消提携、小規模家族農業を守る運動が草の根から出てきます。しかし、国際政治の舞台には浮上しませんでした。
転機は90年代
90年代に入って状況が変わります。背景の1つには、経済のグローバル化とそれへの反対運動があります。世界貿易機関(WTO)が95年に発足し、多角的交渉を始めました。これに対抗する市民運動が起こり、農民も加わり、表舞台に登場しました。抗議行動はメディアで大きく取り上げられ、WTOをこう着状態にさせました。
2つ目は環境運動です。92年にリオデジャネイロ(ブラジル)で地球サミットが初めて開かれました。今の社会は環境的にも持続不可能と考えられるようになりました。
食品のダイオキシンや農薬による汚染、食中毒など、スキャンダルが多発し、食の安全を守る運動が盛り上がるのも90年代でした。
この時期、情報技術も発達しました。インターネット、電子メールでそれぞれの運動がつながるようになりました。
学術分野も変わりました。アグロエコロジーやそれを担う小規模家族農業は経済的に非効率とのレッテルが張られてきましたが、実は逆に収量が高いという研究結果が国際的な学術誌に掲載され、これに政府や国際機関が注目します。緑の革命や近代農法の負の側面もすでに指摘されており、これまでのやり方を見直そうという機運が高まりました。
そこに07―08年の世界食料危機、持続可能な開発目標(SDGs)が続き、国際社会が目指す方向が明らかになる中で、小規模家族農業の振興となりました。
孤立する日本
一方、日本は農業だけでなく脱原発などその他の政策分野でも、学術的な世界でも、国際的な文脈の外に置かれています。農政ではそれが、産業政策偏重となっています。
そのため、欧州連合(EU)の共通農業政策(CAP)では、地域政策や社会政策が重要な柱となっているのに対し、日本では重視されていません。だから、農村に人がいなくなったからロボットだ、自動走行車だ、ドローンだという話になる。もっと人はいなくなるのに、集落やそこに住む人たちのことは考えません。
一方、ヨーロッパは、小規模な自営農業は就業機会を提供する「雇用」であり、数多く存在することが地域にとって大事だと考えています。「地方創生」のために家族農業や自給的農業が推進されるなど、日本とは百八十度発想が異なります。
世界では今、草の根からの当事者の意見をいかにくみ上げて政策をつくるかが焦点になっています。海外との情報格差を解消し、草の根の声を政策に反映させていくことがこれからの農政に求められています。
先進国にも宣言は不可欠
農民連
ヨーロッパ、北米の仲間と訴え
農民連は1989年の結成以来、農産物貿易自由化や、それを推し進める世界貿易機関(WTO)、「自由貿易」体制に反対し、農民の生活と権利を守るためにたたかってきました。
2005年のビア・カンペシーナ加盟後は、その一員として、農民の権利宣言を成立させるための国際的運動に参加。さまざまな取り組みに代表を派遣してきました。
その中で、新自由主義政策、特に安倍政権の農政改革によって離農者が続出し、地域社会の崩壊まで懸念される日本の事態を告発。ヨーロッパや北米の仲間とともに「途上国だけでなく、先進国でも農民の権利宣言は不可欠だ」と訴えてきました。
(新聞「農民」2019.4.22付)
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