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亡国の漁業権開放論

資源・地域・国土の崩壊

関連/家族経営こそ日本漁業の主役
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  /政府は漁民の声を聞け!

 9月1日の「沿岸漁業フォーラム」で特別講演を行った鈴木宣弘・東京大学大学院教授の講演要旨を紹介します。


沿岸漁業フォーラムでの講演
東京大学大学院教授
鈴木宣弘さん

画像  私は三重県志摩市の出身です。小さい頃から、アコヤ貝の貝掃除、冬場のノリの摘み取り・乾燥・袋詰め、シラスすくい、ウナギの給餌など、毎日、浜を生活の場として暮らしてきた一人として、漁業権の開放問題には強い違和感を抱いています。

 規制を緩和して企業参入すれば

 政府の規制改革推進会議は、「非効率な家族経営体が公共物の浜を勝手に占有しているのはけしからん。そのせいで日本漁業が衰退した。既得権益化した漁業権を規制緩和し、民間活力を最大限に活用し、資金力のある企業的経営体に参入させろ」というのです。

 「規制撤廃して個々が勝手に自己利益を追求すれば、結果的に社会全体の利益が最大化される」という論理を「コモンズ」(漁場や牧場など共有の資源)に適用するのは論外です。個々が目先の自己利益の最大化を目指して行動すると資源が枯渇して共倒れすることになるのです。

 共生システムはバランスの上に

 また、「資源管理のためには、総量規制だけすればよい」というのは、現場を知らない絵空事です。

 漁業協同組合(漁協)に集まって、取りすぎや海の汚れにつながる過密養殖にならないように、毎年の計画を話し合い、公平性を保つようにするなど、折々の情勢変化に対応してうまく調整し、浜掃除の出合いも平等にこなすといった資源とコミュニティーの持続を保つことで、きめ細かな共生システムが絶妙なバランスの上にできあがっているのです。

 漁協による共生システムは、その点で優れています。水産特区のように漁協とは別の主体にも漁業権の免許が与えられたら、漁場の資源管理は瞬く間に混乱に陥ることは必定です。

 詐欺的な筋書きはっきりみえる

 中央政府が漁場ごとの再生産能力を把握した総量規制の上限値を正確に計算することは、そもそも困難であり、それを明確に割り当て、操業者の行動を監視し、違反者を確実に制裁することは困難を極め、行政コストも莫大になります。漁協を中心とした民主的な自主管理の方が有効かつ低コストだと思います。

 加えて、「割り当てられた漁業権を入札によって譲渡可能にするのがベストだ」といいますが、そうなれば、資金力のある企業が地域の漁業権を根こそぎ買い占めるかもしれません。

 つまり、「浜は既存の非効率な漁家の既得権益でなく、みんなのものだから、効率的な企業にも平等にアクセスできるようにしろ」と言って、企業が買い占めて、自分のものにして既得権益化する(「浜のプライベートビーチ化」)という詐欺的ストーリーがみえてきます。

 外国の資本も日本沿岸に進出

 私の家の漁業権がある英虞(あご)湾もそうですが、海と隣接した集落で、非常に多くの中小漁家が生業を営んでいます。これらが根こそぎ買い取られたらどうなるか。ここで暮らしてきた人たちの生活と地域コミュニティーは間違いなく崩壊します。

 さらには、漁業自体は赤字でも漁業権を取得することで日本の沿岸部をコントロール下に置くことを国家戦略とする国の意思が働けば、表向きは日本人が代表者になっていても、実質は外国の資本が日本の沿岸とその水産資源と海を買い占めていくことも起こりえます。海岸線のリゾートホテル・マンションなどの所有でも同様の事態が進みつつあります。こうした事態の進行は、日本が実質的に日本でなくなり、植民地化することを意味します。

 家族経営漁業の持続が本来の姿

 そうした事態を回避するために、ヨーロッパ各国は国境線の山間部にたくさんの農家が持続できるように所得のほぼ100%を税金で賄って支えています。彼らにとって農業振興は最大の安全保障政策です。

 日本にとっての国境線は海です。沿岸線の海を守るには自国の家族経営漁業の持続に戦略的支援を欧州のように強化するのが本来の姿です。「企業参入が重要」だとして、結果的には日本の主権が脅かされていく危機に気付いていません。まさに国家存亡の危機です。

 漁業権開放の議論に終止符を

 以上のように、漁業権の開放と貿易自由化の流れは、日本の水産資源を守り、地域社会を守る、国土・国境を守る観点からも、容認しがたいものです。

 日本の水産資源・環境、地域社会、そして、日本国民の主権が実質的に奪われていくという極めて深刻な事態を招きかねない漁業権開放の議論は、ここで終止符を打つべきであり、そのような内容を含む国際協定の推進も停止すべきです。

 そして、こうした議論の余地が生じないように、漁業権を託されている漁協が、資源を守り、地域を守り、国土を守る漁業経営者の民主的集合体としての本来的役割をしっかりと果たすことが重要であり、その役割を国民に理解してもらうことが不可欠です。

(新聞「農民」2017.9.18付)
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2017年9月

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