「農民」記事データベース20150302-1155-01

誰のための農業・農協「改革」か
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JA三次(みよし)(広島)代表理事組合長・
JA全中前副会長・JA広島中央会前会長
村上光雄さんに聞く

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 政府・与党は通常国会で農協や農業委員会「改革」にかかわる法案を成立させようとしています。その「改革」をめぐって、2月9日に全国農業協同組合中央会(JA全中)が政府・自民党案に大筋合意しました。政府・与党の農業・農協「改革」のねらいと問題点は何か。JA全中前副会長で、JA広島中央会前会長、JA三次代表理事組合長の村上光雄さんに聞きました。


〈プロフィル〉

 村上光雄(むらかみ・みつお) 1942年広島県生まれ、72歳。64年岡山大学農学部卒業後、農業を後継。81年双三三和町農業協同組合組合長理事、95年から三次農業協同組合代表理事組合長。2006年から14年まで広島県農業協同組合中央会会長。11年から14年まで全国農業協同組合中央会副会長。


ねらいは信用・共済事業への
大企業の参入

 農政の責任を農協にかぶせる見当違いの「改革」

画像  今回の農業・農協改革は、安倍首相が、TPP反対運動に取り組んできたJA全中をたたくために、何もわかっていない規制改革委員を集めて、「改革」という名で、マスコミを動員して行っているプロパガンダ(宣伝)です。それに尽きます。そういうやり方というのは、専制国家のやることであって、意見が違う、気に入らないからといってつぶせばいいということは許されません。

 何もわからない規制改革委員に、ありもしない事実をでっち上げて言いたい放題言わせて、「改革」の口実にすることは言語道断ですよ。「無茶が通って道理が引っ込む」という状況です。

 「全中が地域の農協の自主性を阻害している」ということを一番の材料にしていますが、そういうことはない。私も全中の副会長を務めましたが、まだまだ全中がしっかりと指導力を発揮してやらなければならないことがたくさんあります。全中が農協の自主的な運営をしばっているというのは見当違いもはなはだしい。

 JA三次は、農業振興策、アンテナショップの事業をしたり、集落営農の推進もしたり、いろいろやってきましたが、全中にお伺いをたててやったことは一度もありません。基本的に農協は自主的な組織であって、民間組織です。外部からなんだかんだ言われる筋合いのものではありません。

 また、JA三次として、組合員へのサービスを維持するために、農協本体で守っていく事業、株式会社化してでも守っていく事業、電気事業など切り離す部分を整理して事業を継続してきました。政府に言われなくても当然のこととしてやってきました。

 それから農政がうまくいかない責任を全部農協にかぶせ、マスコミも「農業がうまくいかないのは農協のせいだ」と言っています。農協は確かに農政の一分野を担っていますが、農政は国の責任ではないですか。農水省は今まで何をしてきたのでしょうか。

 戦後一貫して、猫の目農政で、あっち行ったり、こっち行ったりで農民を迷わせ、農協も振り回されてきました。地域の農業をすべて企業が担えるのですか。われわれのところは中山間地域ですが、企業が入ってきて農業振興ができるのでしょうか、できるはずはない。北海道で農業から撤退したオムロンのように、企業が参入しても、すべてが成功しているわけではなく、失敗例の方が多いでしょう。「見方が甘かった」と言いますが、農業のことをわかっていないからです。

 現場の農政の担い手は農協

 実際の農政の現場ではどうなっているか。広島県では農業改良普及員をどんどん減らして、農業試験場をなくし、県の総合試験場にして、その一分野という形になったのです。そして1年ごとに成果が出ないと「やめなさい」ということになります。米の品種改良も、広島ではやらないことになりました。

 さらに、いまでは市町村も広域合併してしまいました。私は合併前の三和町(現三次市)ですが、役所の出先に行っても農林業のことがわかる職員はほとんどいません。行政の「農政力」が落ちているなかで、「農業のことなら農協に行ってください」と市の出先機関は言うわけです。

 つまり、農政の末端の現場は、農協の職員が担わされているのです。JA三次の営農指導員は「もっと現場に出たい」と言っていますが、生産調整や経営安定対策などデスクワークに時間がとられているのが現実です。その揚げ句の果てに「農協は営農指導をやらない」と言われる。それはおかしいでしょう。

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(新聞「農民」2015.3.2付)
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2015年3月

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