「農民」記事データベース20140630-1123-11

「協同」の精神を失わせる「農協改革」
(3/3)

太田原高昭・北大名誉教授に聞く

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安倍暴走から国民を守る防波堤に

 協同の概念がまったくない

 白石 規制改革会議の議事録をみても、協同という概念がまったくない。人間が今の社会のなかで働き、生活しているという息吹がまったく感じられません。

 太田原 私も新自由主義者と議論することがありますが、彼らの一番の弱点は、協同という概念がないことです。彼らは、経済的弱者は、市場からリタイアすればいいとしか考えていません。

 協同して何かをするということは想定外で、一番強い者に自由にやらせろというものです。多国籍企業がどこの国に行っても、わがもの顔に振る舞う。そのためには、その国固有の規制や法律、文化を壊して、乗り込んでいく。そのためのイデオロギーです。

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北海道でも稲は順調に育っています=岩見沢市

 国際家族農業年に逆行する改革案

 白石 ICAの声明を読んでも、規制改革会議が出した「改革案」は「家族農業の価値を否定して、企業による農業を推進しようとしている」と明確に批判しています。

 太田原 今年の国際家族農業年は、一昨年の国際協同組合年に続いて大変画期的なことだと思います。国連の問題意識は人口増です。70億人の食糧を確保するためには、一番人口が増えているアジアやアフリカなどの途上国の農業ががんばらなければなりませんが、その中心は小規模家族農業です。これを振興し、支援する、それが人類が生きていく道だと宣言したのが国際家族農業年です。

 これまで日本の農業は零細だとか効率が悪いとかさんざん言われてきたわけですが、小規模家族農業を近代化して、効率化し、生産を上げてきた唯一の国が日本です。そこに農協という組織が果たした役割は非常に大きかったと思います。

 政府との合意から国民合意へ

 白石 先生は、農村の草の根保守という言い方をされていて、自民党が大勝したことについても、決して保守への回帰ではないということを述べていますが、このことについてお話ししていただけますか。

 太田原 農協は、小さな農家も含む農民全体を守るということで一貫してきたと思います。自給率が高くて、国内農業だけでやっていこうと考えていたころは、農家のためにがんばるということは、国民、特に消費者などからみると、政権与党と一緒になって農家、農協の「私益」を守っているようにみえたのです。「農業は大事だけど農協はきらいだ」という考えは結構根深いですね。

 その構図が変わってきたのは、1986年、ウルグアイ・ラウンドが開始された年の、中曽根内閣の玉置和郎総務庁長官による農協批判からです。米の市場開放が最大の論点になり、それに農協が猛烈に反対することがわかっていましたから、先制攻撃だったのです。その後、農協たたきがずっと続いてきました。農協が突如、反政府的になったのではなくて、逆に自民党が、草の根保守と財界に両足をかけて統治してきたのを、明らかに軸足を財界に移したということなのです。このことは、自民党としても痛しかゆしで、今度は国民全体を敵に回すことになるわけです。農協も、農政運動の方針転換があり、政府・与党との合意から「国民的合意を得る」ことに重点をおいたことは、たいへん大事なことだったと思います。

 運動を先導する全中つぶしに

 白石 消費者運動も、反農協的だったのが、ウルグアイ・ラウンドのころから、変わってきました。食の不安、自給率の低下という事態に、国民全体が敏感になってきていますね。

 太田原 今回のTPP問題でも、推進側は最初は農業問題に閉じ込めようとしました。しかし、消費者だけでなく、医療などいろいろな分野に広がってきました。推進側からみたら、TPPが国論を二分するような大問題になるとは思っていなかったと思います。そういう意味では、この運動を先導してきたのは農協であることは間違いありません。全中つぶしのねらいはそこにあると思います。

 大きな流れでいうと日本の農協はやはり政府と一緒になって政府の業務を代行してきたところがあります。しかし食管制度がなくなり、減反もやめるということになり、もう農協は要らない、というのが規制改革会議の言い分なのです。

 協同の機能は企業には邪魔

 白石 「改革」では、全農(全国農業協同組合連合会)の株式会社化をうたっていますね。

 太田原 これは、協同組合的事業方式の否定です。協同組合は、地域で、商人や高利貸しとたたかうためにつくられたわけです。そして都道府県レベル、全国レベルの連合会が必然的にできる。全国連がないと、協同組合的な共同購入・共同販売は完結しません。輸入品の原材料、肥料、農薬、飼料、ダンボール、機械などを購入する際に、相手が大企業の場合、全農を通してでないと安く手に入りません。全農は共同購入の全国組織として機能しています。そこが商社や肥料会社などの大企業にとって邪魔な存在なのです。

 農協と農民連がTPPで共同を

 白石 今は保守の方とも共同し、共同の力で運動をしなければいけない局面だと思います。そういう意味で草の根民主主義というのは非常に大事だと思います。私たちはTPPの運動をずっとやってきて、農協の皆さんとの共同を追求してきました。

 太田原 今、自民党が危機感をもつのは当然だと思います。TPP反対の三本柱が農協と日本医師会と主婦連合会なのです。かつては三大圧力団体といわれていました。三つがそろってTPPに反対するというのは、自民党にとって容易ならざる事態なのです。そしてその中心にいるのが農協です。

 国民的合意へ大いに発信して

 白石 農協自身が今やっていることに自信をもって発信することが必要ですね。

 太田原 今まで農協は自己PRしなくても政権党にすがっていれば、間に合った時期が長かったのです。今度は、国民的合意に向けて大いに発信すべきだと思います。

 白石 先生は、「農協は保守政治の防波堤でなく、新自由主義の暴走から国民を守る防波堤になれ」と言われていますね。

 太田原 国民経済をばらばらにして、勝手にもうかるところに出ていくという国際化の時代になりました。国内農業や中小企業、消費者も捨てにかかっている。企業が世界一活動しやすい国にして、賃金は下げ、労働時間は無制限にするというものです。まさに反国民的な政策です。私は、農協はこういう動きに対して正面から対決できる全国的な大きな力を持っていると思います。農協自身がそう自覚して、与党だけを頼りにするのではなく、自信をもって国民各層との連帯を意識的にやっていくべきです。農民連は以前からその方向を追求してきましたね。

 白石 TPPを阻止するうえでも、農協・農業つぶしを許さない運動を進めるうえでも、国民との共同の方向に舵をきり、地に足をつけてたたかうことが、いま一番大事ですね。農協の皆さんには、共同の核になってがんばってもらいたいと思います。農民連も全力をあげたいと思います。

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(新聞「農民」2014.6.30付)
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2014年6月

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