「農民」記事データベース20140630-1123-09

「協同」の精神を失わせる「農協改革」
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太田原高昭・北大名誉教授に聞く

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 規制改革会議による「農業改革」の問題点と、農協改革に何が必要なのかについて、北海道大学名誉教授の太田原高昭さん(農業経済学)に聞きました。聞き手は農民連の白石淳一会長。


 プロフィル

 太田原高昭(おおたはら・たかあき) 1939年、福島県生まれ。北海道大学名誉教授、社団法人北海道地域農業研究所顧問。農学博士。専門は農業経済学。著書に『地域農業と農協』『系統再編と農協改革』など。


農協・農業委員会つぶし、
企業の農業参入がねらい

 財界がリードの意見を容認

 白石 5月に規制改革会議が農協解体と農業委員会の骨抜き、企業の農地・農業進出を露骨に要求する意見書を提出し、自民党・公明党が多少言葉を和らげる提案をして、両方を合体する形で「答申」がだされました。「農協系統組織内での検討も踏まえ」るとしているものの、大筋では財界がリードする規制改革会議の意見を容認したといわざるをえませんし、安倍首相は「不退転の決意で岩盤規制の抜本改革に取り組む。中央会(全国農協中央会、全中)はどうあるべきか、ゼロベースで考え直すことが必要だ」と息巻いています。私たちは「農業改革」の名のもとに財界がごり押ししようとする農協や農業委員会つぶしをやめさせるための大きな運動が必要だと考えています。まず、今回の「改革」の基本的性格をどうお考えでしょうか。

画像  太田原 戦後の日本の農政は、農地改革で生まれた自作農を担い手とするという線を守ってきました。農産物の自由化(1990年代)以降、農家経営が厳しくなっているわけですが、そのなかで大規模農家をつくり出し、そこに生産のかなりの部分を担わせようという政策を最近までとってきました。しかし、それがうまくいっていない。それは当然で、これだけ自由化が進めば、いくら規模を拡大しても、アメリカやオーストラリアにかなうはずはないわけで、結局、その線をあきらめ、企業の参入に大幅に舵(かじ)をきることにしたと思います。では、企業を参入させれば、国際競争力のある農業ができるのかというと、外国との競争になれば厳しさは同じです。

 農業所得を一番引き下げてきたのは、政府の農政だったわけで、こういう農政が変わらない限り、大規模にしたところで、また、企業が参入したところで、絶対にうまくいかないと思います。今回の「改革」は、農家、農協にとってだけでなく、まさに反国民的な政策ですから、国民とともにたたかうという視点が大事だと思います。

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太田原・北大名誉教授(左)と白石会長

 地域のインフラを支えがんばって

 白石 農協の役割についてですが、日本では、信用・共済事業、営農指導などを手がける総合農協だからこそ地域を支える役割を担っていると思います。いま農協がなくなれば地域そのものが崩壊してしまうところさえあります。地域のインフラを支えてがんばっている農協は、月形町(3面に関連記事)のように北海道のなかにもたくさんあります。

 太田原 信用・共済事業が農協を支えているわけですから、今回、信用・共済事業を分離して、事業別・作物別などの専門農協化せよというのは、明らかに農協つぶしです。協同組合事業は全体で完結するものなのです。共済事業は、保険会社と違って、事故処理など農家1軒1軒を回って事情を聞くなど、身近な存在である農協にしかできません。信用事業も営農と結びついた事業でないと、単なる銀行です。

 先進国といわれている欧米諸国の農協は、だいたいが専門農協です。その点で、日本の総合農協は、欧米と違う農業の構造や集落など、日本農業の現実、日本的な協同主義とかみ合った、たいへんすばらしい制度です。

 これはいままでいろいろな歴史的経過があって、戦後、農協法をつくるときも、占領軍のGHQは、専門農協にしろと非常に強く主張したのに対して、農林省が、日本では総合農協でないとうまくいかないと主張し、たいへんな議論をして、農協法を8回書き直したといいます。当時の力関係でGHQの方が譲ったというのは、大変なことです。やはり現実をみると、それが正しかったわけです。

 しかし、それは日本だけでなく、国際協同組合同盟(ICA)の会長が、「(日本の)協同組合は広範な経済的社会的サービスを提供している。もし総合農協がなければ、農民の生活や地域社会全体の生活は、まったく異なったものになっただろう」と日本の総合農協を高く評価しています。そういう点では、日本の農協や組合員は総合農協という形に自信をもって、これをさらにいいものにしていくことが必要だと思います。

 日ごろつきあい身近な存在に

 白石 農協というのは、専門的な知識をもった人で構成され、日ごろから農家とつき合いがあり、経験もあり、身近な存在です。だから的確な対応ができることになります。北海道も大雪被害で大変でしたが、農協の「建物更生共済」(建更=たてこう)がたいへん役に立ちました。

 太田原 地震で火災になっても火災保険は下りませんが、下りるのは「建更」だけなのです。地震が頻発するようになってJA共済が伸びています。保険会社はそれが気に入らなくて、「対等な競争条件にしろ」と言いますが、「建更」はもともと北海道で生まれたものです。火災はもちろん、雪でつぶれたとか、洪水で流されたなど原因を問わず建物の損害を更生(補償)するものです。これは、北海道開拓の現実からでてきたしくみです。

 それから「改革」の中に「組織形態の弾力化」という項目があって「単協・連合会組織の分割・再編や株式会社、生協、社会医療法人、社団法人等への転換ができるようにする」とあります。農協グループのスーパー、Aコープは生協にしろという話だと思います。

 また、JA厚生連について「なぜ農協が病院まで経営しているのか」とよく言われますが、これは戦前の無医村問題への取り組みから始まったものです。小さな診療所から始まって、戦後、厚生病院ができたのです。厚生病院が長い年月の間に果たしてきた役割は、長野県の佐久総合病院をみれば一目瞭然です。単に病気を治すだけでなくて、予防、健康づくりまでやっているわけです。一つの病院の枠を飛び越えて、長野県全体が健康日本一になっています。農村医学から地域医療へという厚生連の貢献は大きいです。

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(新聞「農民」2014.6.30付)
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2014年6月

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