「農民」記事データベース20140623-1122-06

交付金半減 米価下落
これでは米づくりできない

関連/「農政改革」が米価を直撃!!
  /在庫米1俵8千円!再生産可能な米価を
  /交付金半減 米価下落 これでは米づくりできない
  /米の需給と価格の安定に政府は責任を果たせ
  /エサ米などに処理して買い入れを


 生産費の半値で米出荷のおそれも

 戸別所得補償対策(現経営所得安定対策)の固定払いは、今年から10アール当たり7500円に半減されました。1俵当たりにすれば平均850円程度。仮に概算金が7000円台ともなれば交付金と合わせても農家の手取りは8000円程度になってしまいます。

画像  直近5年間の米生産費は全国平均で1万6356円(表1)。農家はその半分にも満たない価格で出荷ということになりかねません。しかも米価下落時の補てん交付金は今年から廃止されているのです。

 固定払いの半減に加えて米価の下落は農家の経営に大きな打撃です。とりわけ政府が育てるとする担い手や集落営農への影響は深刻で、農家からは「これでは所得倍増どころか、農家の持ち出し倍増だ」「担い手つぶしで後継者の確保どころではない」と怒りの声があがっています。

 米価下落は農村部の地域経済にも深刻な影響が及ぶことになります。

 おにぎり1個の目方をカットして

 米価暴落の背景には、この間の需給と価格の混乱があります。東日本大震災の混乱を経験し、生産・流通の各段階で米の在庫を厚めに持つ傾向にあり、価格も2年間で30%近く上昇しました。しかし外食や中食(おにぎりや持ち帰り弁当など)が不況のもとで価格転嫁できず、1食(1個)あたりの量目を1割程度カットし、年間40万トン近い需要の後退が指摘されていました。

 しかし、米価が下落した今も、量目は元には戻されていないと言われています。農業攻撃の急先鋒に立つ産業競争力会議の農業分科会主査、新浪剛史氏が会長を務めるコンビニエンスストアのローソン。そのおにぎりの小ささが話題にされていますが、新浪氏はまずは消費拡大に協力すべきです。

 こうしたわずかな需給の変動でも、国がその安定に責任を放棄したもとでは、米の過剰や不足へと潮目が変われば、誰もが在庫減らしや在庫の積み増しに動きます。この間、価格の変動で大きな打撃を受けた米業者は敏感に反応せざるをえないのです。

 農家は毎年「何を作るかがカケになり」米業者も不安定な経営を強いられ、何よりも国産米の安定した供給を求める国民の願いが踏みにじられてしまいます。

 民主党政権の負の遺産を引き継ぐ自公

 民主党政権は備蓄米を棚上げ備蓄とする一方、毎年、播種(はしゅ)前契約で買い入れ、作柄にかかわらず需給調整はしない政策でした。一方、戸別所得補償の固定払いと米価下落時の補てん金で全国平均1俵1万3700円の農家手取りの確保を「岩盤対策」としてきました。しかし、備蓄米は計画通り集まらず、米価は補てん金が買いたたきの口実にされ、過去最低に下落しました。それでも農家は生産費には届かないまでも1万3700円の定額が補償されていました。

 ところが自民党政権は固定払いを今年から半減(5年後に廃止)し、米価下落時の補てん金も廃止してしまいました。その一方で、備蓄米の播種前契約とその後の需給と価格は放置する民主党政権のやり方をそのまま踏襲しようとしているのです。

 米価の保障も、所得の補償もなしに目前の米価暴落を放置しながら進める「農政改革」の農業つぶしの本質が透けて見えてきます。

 政府の責任で需給調整は世界の常識

 米価が1万円割れという事態にも、政府は「価格に影響を及ぼす需給調整は絶対にやらない」と言い張っています。

 しかし、これは世界の「非常識」です。自然相手の農業生産に過剰や不足はつきもの。作柄や需給事情に応じて政府が需給調整に乗り出す――これが世界の「常識」であり、アメリカでさえやっていることです。

 アメリカは「価格支持融資」という制度で、米や小麦、大豆の価格が暴落した場合、農家は「商品金融公社」(CCC)に農産物を「質入れ」して融資を受け、価格が回復すれば農産物を引き取って市場で売り、回復しない場合は「質流れ」にします。

 いわば「国営の質屋」による買い取り、需給調整です。

 「質入れ」の価格(ローンレート)は、米の場合、生産コストの70%前後(01〜08年の平均)。日本でいえば1万2000円弱です。

 もっとも、「価格支持融資」は最悪のケースで、このほかに生産コストの90%前後を目安に設定されている「目標価格」を市場価格が下回った場合に差額を補てんする「価格変動対応型支払い制度」があり、両方を組み合わせて暴落に備えているのです。


米の需給と価格の安定に
政府は責任を果たせ

日本共産党紙参院議員 米価対策を求め追及

 国会でも、米価下落問題が取り上げられました。

 日本共産党の紙智子参院議員は5月20日の参院農水委員会で、米価に対する政府の認識をただし、対策を求めました。

 紙議員は、米価の実態を示し、「取引価格が生産費を下回っている。これでは赤字で再生産できない状況だ。直接支払交付金を半減した。価格対策をとるべきだ」と追及しました。

 これに対し、林農水相は「主食用米の価格は、民間取引の中で決定される。直接支払交付金や産地交付金、国による情報の提供などを通じて需給と価格の安定を図る」などと述べ、現実の米価下落に背を向ける態度に終始しました。

 また、紙議員の日米の米生産費の質問に対して、農水省は、日本の12年産米の生産コスト(60キロ当たり、以下同じ)が約1万6000円で、「アメリカの12年産米の生産コストは、日本の10分の1程度の約1700円」であることを認めました。

 紙議員は「『農政改革』でコストを4割削減すると言うが、実際にアメリカと太刀打ちできない」「アメリカの輸入枠を増やすとの報道もあり、米価下落につながっている」として、日米TPP交渉での譲歩を厳しく追及しました。

 5年後の生産調整の廃止については、「農業は気候条件に大きく左右される。その時々、毎年毎年違う。それなのに農業者の判断で自由に作れと言われても、価格が安定する保証があるとは思えない。国がしっかり米の需給と価格の安定に責任を持つべきだ」とただしました。


政府備蓄米の4割は超古米

エサ米などに処理して買い入れを

 今回の集荷団体等による市場隔離対策は、飼料用などへの処理が前提です。しかし、財源は農家の拠出金で、額に限度があります。政府は財源の助成も含めて積極的に関与すべきです。

画像  一方、いざというときに国民の主食にあてる政府の備蓄米は、今年産の25万トンを加えても、40%が4年以上経過した超古米です(表2)。これらを飼料用に回せば、民間が隔離した米の備蓄米への買い入れや、秋に追加的な備蓄米の買い入れは十分可能です。

 こうした緊急対策も含めて政府が「米の需給と価格の安定に責任を持つ」姿勢を明確にすることがいま、最も求められています。

 “米作ってメシ食えねえ”“作り続けられる米価を保障せよ”――この声を大きく広げるときです。

 あわせて大本にある「農政改革」の中止、TPP交渉からの撤退を求める国民運動の展開が求められています。

(新聞「農民」2014.6.23付)
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2014年6月

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