「農民」記事データベース20130114-1053-06

農民連第20回定期大会決議(案)

持続可能な社会へ、
農業の復権と農村の再生を担える
農民連の建設を!!
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2012年12月26日 農民運動全国連合会常任委員会

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 3、農業をめぐる情勢

  (1)民主党農政について

 生産コストを大幅に下回る生産者米価が農村経済とコミュニティを破壊するなど、農業と農村に重大な困難をもたらし、食の安全・安心、安定供給に対する不安を引き起した自公政権から、民主党政権に代わって3年余が経過しました。しかし、生産者米価はコストを大幅に下回る価格に下がり続けるなど、農家は農業への展望を見いだせない状況が続いています。

 目玉政策であった「戸別所得補償」は、農産物の完全な輸入自由化を前提に、「価格は市場に任せ、農家には税金で所得を補償すればいい」との考えにもとづくものでした。初年度の2010年秋には交付金が買いたたきの標的にされ、政府がこれを放置したために空前の米価暴落を招きました。そして民主党政権は、究極の自由化であるTPPへとカジを切りました。

 また、「戸別所得補償」は、標準生産費を2割もカットするなど大きな問題点を抱えています。一方、すべての販売農家が対象とされ、ものづくりに対する助成であるなど、活用できる側面もあります。この間、面積換算で80%の加入率で定着しつつあり、制度の充実・改善が求められています。

 ところが民主党政権は、これと相反する「地域農業マスタープラン」を打ち出しました。「平地で20〜30ヘクタールの経営」をめざす同プランは、TPPや高度な経済連携協定への参加を前提に、多数の農家を締め出して一部の「担い手」に農地を集積するもので、自公政権が推し進めた品目横断的経営安定対策を上回る選別政策です。

 「食の安全を守る」ことも民主党マニフェストの大きな柱でしたが、アメリカの圧力に屈し、TPP参加のための“入場料”としてBSE対策を骨抜きにしようとしています。こうした公約違反の農政は多くの農家から信頼を失い、選挙できびしい審判となりました。

  (2)警戒が必要な自公政権の農政

 自民党の議席増は農家からの信頼を回復した結果でないことも明瞭です。TPP問題で争点ぼかしの公約を掲げた自民党が、選挙が終われば交渉参加に踏み出す可能性はきわめて高くなっています。

 自民党は、戸別所得補償の法案化に向けた民主党、公明党との協議で、対象を大規模農家に限定することや、加入者に負担を強いる「保険方式」を強く主張してきました。総選挙では戸別所得補償をバラマキと攻撃し、「多面的機能直接払いに切り替える」という公約を掲げました。政権交代で2013年度概算要求が見直されることは確実であり、今でさえ不十分な戸別所得補償制度の改悪・廃止に踏み出す可能性があります。「国土強靭化」の名で無駄な大型農業土木事業や、さらなる復興財源の横流しの可能性も否定できません。今後の自公農政に注意と警戒を払い、農民の要求を対置したたたかいが求められます。

II 2年間の主な運動の到達点と課題

 1、共同を広げて政府を追いつめたTPP参加阻止のたたかい

 菅元首相の「TPP参加の検討」(2010年10月)表明以来、交渉参加に踏み出そうとする政府を運動の力で抑え込んできました。農民連・食健連は、菅発言の2週間後にTPP参加反対を掲げた「APEC対抗新潟国際フォーラム」を成功させて以来、中央でも地方でも運動の先頭に立ってきました。

 民主党政権は、国民を分断するねらいから、TPPをもっぱら“農業の問題”にして参加を強行しようとしました。農民連は、TPPに参加した場合のメリットは「10年間でGDPが2・7兆円増える」(年間2700億円増、政府試算)にすぎず、一方、食料自給率の13%への激減、国民皆医療保険制度の突き崩し、官公需発注の外国企業への売り渡し、食の安全の緩和など、経済活動と国民生活の全般にわたって規制を撤廃し、国内市場をアメリカに明け渡すものであることを明らかにしてきました。またISD条項は、国民の安全や環境を守るルールを自国の基準で決められなくする「国家主権」の放棄であることを暴露してきました。

 こうした問題点が明らかになるにつれて世論が変化し、これまでに44道府県議会と90%を超える市町村議会がTPP参加に反対あるいは懸念する決議を採択し、再決議をする議会も相次いでいます。

 建設業協会や農協・漁協、医師会から民商、新婦人、県労連、農民連、生協など、立場を超えたTPP反対の一点での共同運動組織が北海道、岩手、滋賀など、いくつもの県や地域で立ち上げられ、継続した運動が展開されていることも画期的です。

 中央段階では、農協や漁協などネットワーク組織と市民団体、農民連・食健連、超党派の議員が総結集した集会やパレードが開かれ、恒常的な共同組織である「ストップTPP!!市民アクション」が立ち上げられ、8月から官邸前包囲行動も粘り強く展開されました。

 TPP参加反対の運動の広がりは、選挙でTPP反対を言わなければ選挙をたたかえない状況をつくり、消費税大増税や原発ゼロの運動とともに政府・民主党に大きなプレッシャーを与え、民主党の分裂、総選挙での審判に結びつきました。

 2、大震災の救援・復興の運動

  (1)被災者の命をつないだ農民連の救援活動

 震災直後から流通インフラが寸断され、燃料の供給もままならないなかで、47都道府県連あげた食料や生活物資、救援募金などの運動は、農民連結成以来、最大規模の取り組みになりました。今なお、継続されている救援活動は、食糧と生存権を奪われた被災者の命をつなぐ、かけがえのない役割を担いました。

 被災地では、多くの農民連会員が地震と津波で家屋や農地を奪われ、放射能汚染でふるさとを追われました。自らの被災を乗り越えて全国と心ひとつに救援活動に奔走した仲間の奮闘は、「農民の苦難あるところ農民連あり」という農民連の存在を象徴するものであり、多くの被災者と全国の仲間を勇気づけるものでした。

 農民連の奮闘は、被災者の命をつないだだけでなく、多くの出会いがあり、人と人がつながって生きていくことの大切さを実感する連続でした。避難所や仮設住宅での継続した炊き出し、「青空ゼロ円市」などの創意ある活動、避難所での要望聞き取りを踏まえた洗濯機などの提供、津波で流された乗用車や軽トラックの提供など、きめ細かい救援が行われたのも特徴です。

 牧草が汚染された福島県の畜産農家に、北海道の仲間が牧草や麦わらを届ける連帯感あふれる取り組みも展開され、政府に運賃補助を実現させました。

 救援募金は、被災県連や農民連と関わりの深い被災自治体に届けるとともに、救援物資の配送、炊き出し、ボランティア活動、復興のための活動や原発事故による賠償請求運動の費用として大きな支えとなりました。

 生産者の組織である農民連の救援活動は、信頼を大きく広げ、被災地での多様な組織づくりに実りつつあることも大きな喜びです。農業が存在することの大切さや、“農の心”をもった農民が担う農業の重要性を浮き彫りにするとともに、“農業のない日本”にしてはならないという合意を広げました。

  (2)災害に弱い社会を作った「規制緩和」「構造改革」路線

 東日本大震災は、農業や地場産業の破壊による地域経済の衰退、格差と貧困の深刻化、“平成の大合併”や公務員の削減、公務の民営化など、国民生活を守るルールと自治体の機能が著しく弱められたなかで起こりました。アメリカいいなりで、大企業の利益を最優先する規制緩和・構造改革路線が災害に弱い社会を作り、今回の大震災でも被災者の苦しみを広げました。

 被災地の復興にとって、被災者の住宅や暮らしや雇用、農業、中小企業の営業再開が最優先されなければなりません。被災者を置きざりにした大企業のもうけ優先の「復興」や、被災者を締め出す「構造改革」、復興に便乗した復興予算の流用に反対するとともに、住宅の建て替えに対する直接助成の大幅な拡充、政府の全額負担による農業施設、漁港再建や加工・冷凍などの漁業関係施設の復旧、農地の除塩、二重ローンの解消、生活再建支援などを要求して運動してきました。

 3、原発ゼロと再稼働反対、全面的な損害賠償を要求して

  (1)原発ゼロと再稼働に反対する運動の先頭に

 私たちは、いったん事故に至ればコントロール不能に陥り、時間と空間を超えて取り返しのつかない被害をまき散らす原発事故の恐怖を体験しました。政府と東電、「原発利益共同体」(原子力ムラ)が、“安全神話”を垂れ流して過酷事故を引き起した責任は、あまりにも重いものがあります。

 周辺の仲間と住民が故郷を追われ、いまだに16万人もの方々が避難生活を余儀なくされています。放射能は広範な住環境と自然、農地、農林水産物を汚染しました。いわゆる「風評被害」は全国に広がっています。原発は、人類の持続性とも、命の糧を生み出す農業とも絶対に共存できないものであることを改めて思い知らされました。

 しかし、「原子力ムラ」の利益を最優先する民主党政権は、福島第一原発事故の原因究明もできていないのに2011年12月に「収束宣言」を行い、2012年6月には関西電力大飯第三、第四原発の再稼働を決め、これを皮切りに停止している各地の原発の再稼働を画策しました。また、福島第一原発事故で工事が中断していた青森県の大間原発建設工事の再開や、原発のインフラ輸出を決めました。

 こうした動きに抗議し、原発ゼロと再稼働の中止を要求する運動が全国に燃え広がり、首相官邸前には毎週、金曜日に数万人規模の市民が結集して抗議行動が継続して展開されています。7月には、原発ゼロと再稼働中止の一点で団体や市民が結集し、17万人の集会とデモが東京で開催されました。

 農民連は、福島の仲間を先頭に運動の先頭に立って奮闘しました。原発事故の最前線で、困難のなかを“語り部”として全国を行脚した福島の仲間の奮闘は、国民を励まし、運動を広げる大きな役割を果たしました。

  (2)全面的な賠償請求を要求して

 事故発生後の3月19日に、福島県産の原乳と茨城県産のホウレン草から暫定規制値を超える放射性物質が検出されて以降、農畜産物の出荷制限・出荷自粛が福島をはじめ東北・関東地方などに広がりました。福島県産の原木とシイタケからの基準値を超えるセシウムの検出を契機に、いわゆる風評被害を含めて原木シイタケは壊滅的打撃を受けるなど、国民の食の安全に対する不安が強まり、生産者の営農と生活が脅かされています。農民連は、政府に対策を要求するとともに、東京電力への損害賠償請求に全力をあげてきました。

 東京電力は原発事故を人災と認めず、「天災による想定外の事故」であると開き直り、賠償についても加害者意識のない理不尽な対応に終始しました。政府が立ち上げた「損害賠償紛争審査会」の中間指針は、賠償の対象を線引きするもので、特に風評被害の賠償対象県を限定したために東電に“賠償しない口実”を与えるものとなりました。東電は、この指針さえ踏みにじる許しがたい態度をとっています。

 こうしたなかで、東電への抗議と賠償請求、政府への対策を要求し、牛を引き連れ、ホウレン草を山積みした「4・26」「8・3」「12・26」などの行動は、マスコミにも注目され、国民世論で東電を大きく包囲する契機となり、損害を受けた被災者に大きな激励をあたえました。

 こうしたたたかいと結んで「あらゆる損害の賠償」を会員や農家に呼びかけ、福島県連をはじめ多くの組織が賠償を勝ち取っています。

 賠償請求運動の教訓は、(1)加害者責任を自覚しない東電が、賠償しないことや賠償額を削ることに執着しているなかで、請求してたたかうことなしに全面賠償は実現しない、(2)1年だけにとどまらない放射能被害は、泣き寝入りすれば離農の契機となる、(3)被害を受けた会員や農家が、自ら被害額を計算し、怒りをもって東電に請求し、農民連組織は援助することに徹したこと、(4)農家にとって最も切実な要求であり、会員拡大に大きく結びつく課題であること、などです。

 農民連のたたかいと実績は、「東電への賠償請求は農民連で」という信頼を広げ、岩手、山形、宮城、福島、茨城、群馬、千葉、長野、静岡県連などで会員拡大が前進していることは重要な成果です。

 同時に、政府が放射能の暫定基準値を2012年4月から100ベクレル(一般食品)に下げたことに伴って出荷制限の品目や地域が拡大し、「風評被害」も拡大していますが、東電は「風評被害」の賠償を拒否する姿勢を強め、不服があるなら「紛争解決センター」への申し立てや裁判に訴えろといわんばかりの態度をとっています。

 農地を汚された精神的損害や出荷制限、ほ場廃棄など生産者の尊厳を踏みにじっておきながら、それら精神的損害に対する賠償には応じず、さらに東電が支払う賠償金に課税していることも重大です。

  (3)放射能汚染から食の安全を守る取り組み

 農民連は、放射線が食の安全や土壌、住環境、健康を脅かしている中で、「農民連食品分析センター」に放射線測定器を導入するため「5000万円募金」を呼びかけました。この呼びかけには大きな反響が寄せられ、短期間に募金目標を達成することができました。

 募金を力に、ゲルマニウム測定器1台、簡易なカウンター測定器を1台、スクリーニング検査に対応できるシンチレーション測定器3台を導入し、シンチレーション測定器1台は福島県農民連に配備しました。測定器の導入以降、野菜やコメ、土壌などの検査が殺到し、食の安全チェックに大きな役割を果たしています。

 放射線測定器導入募金の成功は、「安全神話」に浸かって原発事故を引き起こした東電や政府に対する国民の怒りと、放射能汚染への不安のあらわれでした。そして、「安全・安心」「ものを作ってこそ農民」を合言葉に奮闘してきた農民連が、原発ゼロの立場から放射能汚染に立ち向かっていることへの共感でもあります。導入募金運動の最大の成果は、農民連が放射能汚染に立ち向かう機能を持ったことにとどまらず、運動をともに進める広大な結びつきとすそ野を切り開いたことにあり、農民連の社会的存在感をさらに拡大したことにあります。この成果は、今後の農民連運動を発展させる土台となるものです。

  (4)再生可能エネルギーへの転換と実践

 原発事故で、多くの国民が原発に依存しない社会の実現を求めています。農民連は、政府に原発ゼロの決断と再生可能エネルギーへの転換に踏み出すことを要求するとともに、農山漁村を再生する運動として実践を呼びかけてきました。世論と運動で政府に再生可能エネルギーの買取制度を実現させたことを契機に、各地で先進地の視察や学習、実践が広がっています。

 4、消費税増税反対、税制の民主化を要求して

 この間、民主党政権は2つの増税の押し付けを決めました。ひとつは、自民、公明とともに成立させた「復興財源確保法」です。所得税の25年間2・1%上乗せ、個人住民税の均等割を10年にわたって1000円引き上げ、所得控除の見直しで合計約9兆円もの庶民増税を押し付けました。一方、法人税は実質2%減税、4年目以降は4・5%の恒久減税で庶民増税を飲み込むとんでもないものです。

 もうひとつは、「福祉の安定財源」を口実に、公約違反の消費税を2014年4月に8%、2015年10月に10%に増税することを自民、公明との3党合意で強行したことです。増税とともに、「税と社会保障の一体改革」と称して社会保障に大ナタを振るおうとしています。増税は、従来型の無駄な公共事業の財源にするねらいも明瞭です。

 また、国税通則法の改悪が強行され、すべての事業者に記帳義務化が導入されたことも重大です。これは消費税を基幹税にする体制づくりです。同時に、税務調査にあたっての事前通知など、これまでの運動が反映した部分もあり、これを生かした今後の運動も重要です。

(新聞「農民」2013.1.14付)
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2013年1月

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