「農民」記事データベース20130114-1053-05

農民連第20回定期大会決議(案)

持続可能な社会へ、
農業の復権と農村の再生を担える
農民連の建設を!!
(1/5)

2012年12月26日 農民運動全国連合会常任委員会

関連/持続可能な社会へ、農業の復権と農村の再生を担える農民連の建設を!!(1/5)
  /持続可能な社会へ、農業の復権と農村の再生を担える農民連の建設を!!(2/5)
  /持続可能な社会へ、農業の復権と農村の再生を担える農民連の建設を!!(3/5)
  /持続可能な社会へ、農業の復権と農村の再生を担える農民連の建設を!!(4/5)
  /持続可能な社会へ、農業の復権と農村の再生を担える農民連の建設を!!(5/5)


はじめに

 農民連は、2011年1月に開催した第19回定期大会決議にもとづいて運動をスタートさせました。その直後の3月11日に発生した東日本大震災と原発事故によって、被災者救援、復興、原発事故の損害賠償や放射能汚染から食の安全を守る運動、原発ゼロを要求する運動などに全力をあげてきました。

 また、2009年の総選挙で政権についた民主党は、公約を次々に投げ捨て、TPP参加への前のめり、消費税大増税、オスプレイ配備の強行などを推し進めてきました。こうした暴走政治に、一致点での共同を広げてたたかい、国会を解散に追い込みました。

 前大会から激動の2年間、農民連の運動は、食料を生産する農民の組織としての存在感を示すとともに、国民共同の“ちょうつがい”の役割を発揮しました。

 農民の多様な要求を実現する運動、生産を広げて地域を活性化し食料自給率を向上させる運動、会員と新聞「農民」読者の拡大運動などに全力をあげてきました。

 こうしたもとで開かれる第20回定期大会の目的は、(1)2年間の運動を振り返るとともに、新たな情勢に対応したたたかいを発展させ、農村で多数者になる組織をめざす方針を確立すること、(2)決算と予算の承認、(3)新役員を選出することにあります。

I 私たちをとりまく情勢

 1、総選挙結果と政治情勢について

  (1)信頼回復とはほど遠い自民党の議席拡大、問われる小選挙区制

 総選挙で、民主党は改選前の230議席から57議席へと大敗北し、3年3カ月続いた政権から退場することになりました。自民党は118の改選議席を294議席に伸ばし、自民党、日本維新の会と選挙協力した公明党も議席を伸ばして自公政権を復帰させました。

 TPP交渉への参加反対、原発即時ゼロ、消費税増税の中止などを掲げてたたかった日本共産党は、直近の国政選挙である2010年参院選より得票と得票率を若干伸ばしたものの、9議席から8議席に後退しました。選挙直前に旗揚げした「第三極」を名乗る勢力は、日本維新の会が11議席から54議席に前進し、日本未来の党は大きく後退しました。

 民主党の大敗北は、前回総選挙で掲げた公約を踏みにじり、消費税増税の強行、TPP参加の推進、原発再稼働と建設再開、オスプレイの配備強行など、民意を無視した暴走政治に対する国民の厳しい審判の結果です。

 議席を大幅に伸ばした自民党は、安倍総裁自身が認めているように、決して国民が信頼を寄せた結果とはいえません。政権交代に追い込まれた前回総選挙から比例票では218万票余り、小選挙区でも166万票近く減らし、得票率も比例区での獲得議席もほぼ横ばいです。自民党が躍進した最大の原因は、民主党が国民に見放されたもとで、第1位の候補しか当選せず半数が死票となる小選挙区制の影響によるものです。1票の格差の是正とともに、民意を反映しない小選挙区制度が民主主義の重大問題として問われています。選挙の構図を“民主か自民か、第三極か”とゆがめた報道を繰り返し、有権者の投票行動に大きな影響を与えたマスコミのあり方も問われなければなりません。

  (2)TPP交渉参加反対こそが民意

 TPP交渉に前のめりの民主党政権にきびしい審判が下されました。TPP参加を公然と掲げて選挙をたたかったのは「日本維新の会」と「みんなの党」だけでした。自民党の公約は「聖域なき関税撤廃を前提にする限りTPP交渉参加に反対」という曖昧なものでしたが、多くの候補者が「TPP参加反対」を掲げ、農政連と「TPP交渉に反対する確約書」を交わして選挙をたたかいました。こうした経過からも、今回の総選挙で示された民意は、TPP交渉参加反対にあることは明瞭です。しかし、アメリカと財界に支えられた新政権がTPP交渉にカジを切る可能性が極めて高く、TPP参加に反対するたたかいはますます重要になっています。

  (3)民意とねじれる国会、暴走するなら重大な矛盾に

 憲法9条を変えて自衛隊を国防軍に改め、アメリカと一緒に戦争する国に踏み出す動きが大きな争点になりました。改憲勢力である自民、公明、維新が国会の大多数を占める中で、憲法は戦後最大の危機を迎えています。しかし、「9条を守れ」の世論が多数であり、世論を無視して改憲に踏み出すなら国民との矛盾を深めざるをえません。福島第一原発事故で最も責任が問われている自民党は、事故への反省もせずに原発推進政策を掲げました。自民党が原発再稼働に踏み出すなら、たちまち「原発なくせ、再稼働やめろ」の国民世論との矛盾に突きあたるでしょう。TPP交渉参加や消費税増税、増税と引き換えにした福祉の切り捨てなども同様です。

 このように、民意と国会のねじれは大きく、自公政権が数の力で暴走するなら、民主党政権同様、国民との矛盾を広げて早晩、破たんすることは避けられません。

 農民連は、TPP参加反対などを内容とする「総選挙にあたっての農民連の重点要求」を掲げ、30万枚近い新聞「農民」号外に掲載して農家に届けて対話し、大きな反響を巻き起こしました。

 対話のなかでは、多くの農家から民主党政権への怒りや失望、自民党に回帰することの不安、多党化しているなかでの迷いが表明され、新聞「農民」号外は農家が政党を選択する重要な物差しの役割をはたしました。

 農民連の選挙に対する基本原則は、組合員の政党支持と政治活動を全面的に保障することにあります。同時に、政治的に傍観するのではなく、農民の要求を実現するために、一致する政治勢力と力をあわせてたたかうというものです。今後もこの原則を踏まえ、選挙のたたかいを発展させることが求められています。

 2、持続可能な社会へ―今、問われているのは

  (1)食糧危機の打開にも農業再生にも逆行するTPP・自由貿易万能論

 食糧危機が再び世界を襲っています。国連食糧農業機関(FAO)など国連の3機関は2012年9月5日に共同声明を発表し「食糧生産システムがさまざまな打撃や気候変動に耐えられるようにする方法が見つからない限り危険は続く」「近い将来に起こりうる最悪のシナリオを想定して準備しなければならない」と訴えました。

 FAOの調べでは、2012年の穀物価格は史上最高を記録しつづけ、その水準は世界中で抗議運動と暴動が起きた2008年を上回っており、約40カ国が食糧の「異常な不足」に苦しんでいます。その引き金になっているのが地球温暖化です。アメリカやロシア、ヨーロッパ、中南米を襲っている大干ばつと異常高温は、数年にわたって悪化を続け、より頻度高く発生し、食糧生産に重大な打撃をあたえています。地球温暖化にストップをかける国際的な合意を早急に実現することが求められています。

 いま、わが国が果たすべきことは、世界人口の2%にすぎない日本が世界に出回る食糧の10%を買いあさっているという恥ずべき現状を改め、世界でも有数の農業生産力を存分に生かして食料自給率を引き上げることです。それは、震災直後の1〜2週間は1日1食か2食で命をつなぎ、大都市のスーパーの棚から米やパン、牛乳が姿を消した東日本大震災の経験からも明らかです。さらに、政府が2011年8月に公表した「南海トラフ巨大地震」の被害想定では、東日本大震災に比べて浸水面積で1・8倍、建物被害で18倍にのぼるとされています。これらの地域には巨大輸入港湾や食品流通・加工の拠点が集中しており、いっそう深刻な事態になることは必至です。

 TPP参加を含む農産物輸入の完全自由化によって、食料自給率(カロリーベース)は40%から13%に激減します(農水省試算)。また、農水省試算を使った私たちの試算では、穀物自給率は27%から2・7%に壊滅します。世界を食糧危機が襲っているいま、TPP参加などもってのほかです。

 さらに、全国農協中央会の委託研究によると、日本がTPPに参加すれば、アジアの米需要をひっ迫させ、米価を2倍程度に押し上げる結果、アジアの米食人口の1割、2・7億人が飢餓に陥る可能性があります。「アジアの成長をとりこむ」どころか、「アジアに大迷惑をかける」TPP参加は二重三重に許されません。

    〈自由貿易万能主義から食糧主権へ〉
 経済評論家の内橋克人氏は、TPP推進派の「共通の錯覚」として「自由貿易信仰」をあげ、「原発安全神話のTPP版」ときびしく批判しています。

 「自由貿易」理論は、アフリカ、南北アメリカ、アジアを植民地にして成立した資本主義が、植民地からの原材料の収奪と植民地に対する加工製品の輸出や奴隷貿易を「自由貿易」の名で推し進めるためのイデオロギーでした。

 現代の貿易は世界を股にかけて利潤を追い求める大企業(多国籍企業)の支配下にあり、「自由貿易」ルールは大企業の利益を保証するためのものにすぎません。現在、世界の大企業上位500社の売上高が世界総生産に占める比率は43%であり、世界貿易の3分の2は大企業どうしの貿易が占めています。

 日本はこの傾向がさらに顕著であり、日本の輸出総額のうち70%前後は大企業の親会社から海外子会社向けの「企業内貿易」です。このうえTPP締結を求める財界・大企業のねらいは、“親会社から海外子会社への輸出に課せられる関税をゼロにしろ”ということであり、進出企業が相手国政府や自治体を脅すISD条項を使ってアジア諸国の投資規制や原産地表示の規則などの制限を取り払い、進出先で横暴に振る舞うことを認めさせることにあります。

 いま、声高に叫ばれている「自由貿易」とは、多くの人々が素朴に信じている「自由貿易」などというものではなく、「大企業の、大企業による、大企業のための自由貿易」であり、「鶏小屋の中のキツネの自由」にほかなりません。

 「自由貿易神話」の“神官”として君臨してきたWTOは2011年12月に「交渉は袋小路に入っており、近い将来に合意することは不可能になった」として、破たんを宣言しました。その2日後に国連総会は「食糧主権の検討」を求める決議を採択しましたが、もともと国連における食糧主権の検討はWTOと「自由貿易神話」に対抗したものでした。2004年春に開かれた国連第60回人権委員会では「食糧に対する権利に重大な否定的影響を及ぼしうる世界貿易システム(WTO)のアンバランスと不公平に対し、緊急の対処が必要である。いまや『食糧主権』のビジョンが提起しているような農業と貿易に関する新たなオルタナティブ(代替)・モデルを検討すべき時である」という勧告が採択されました。

 いま、食糧主権は中南米やアフリカ、アジアの国々で憲法や農業法の中に息づいています。「自由貿易万能主義」から食糧主権へ――これこそが持続可能な社会を求める世界の流れであり、TPPはこれにまったく逆行しています。

  (2)大企業中心の経済政策からの転換

 自公政権が「アベノミクス」の名で進めようとしている経済政策は、無制限に紙幣を刷って金融緩和を行い、大型公共事業をばらまいて「デフレ対策」をやり、そのうえで消費税増税を強行しようというものです。しかし、金融緩和によって市場にいくらお金を供給しても、内需が冷え込んだままでは国内投資に回らず、投機マネーや海外企業買収資金となって深刻な弊害をもたらすことは明らかです。

 200兆円ともいわれる「国土強靱(きょうじん)化計画」の中身は、高速道路や巨大港湾などの大型公共事業ですが、これは、景気対策には役に立たず、残ったのは借金の山だったという過去の破たんした政策の蒸し返しにほかなりません。このうえ消費税増税を強行すれば、経済にも財政にも破滅的な打撃をもたらすことは必至です。

 いま必要なのは、雇用の安定と賃金の引き上げ、生産費を償う農産物の価格保障によって内需を拡大し、経済循環を好転させることです。

 雇用は、1999年の派遣労働の原則自由化などによって正社員を切って非正規雇用に置き換える動きが急速に進み、雇用者に占める非正規の割合は、2000年の26%から2012年7〜9月期には36%に急増しました。平均賃金は、2000年の月収35万5000円から、2011年の31万7000円に減少しました。このような賃下げは、主要国のなかで日本だけです。

 農家の手取り米価が1990年の60キロあたり1万9400円から2010年に1万511円に暴落するなかで、日本の農家全体の農業所得(農業純生産)は6・1兆円から3・2兆円に半減しました。

 日本銀行の白川方明総裁でさえ、デフレ脱却のためには「賃金引き上げが不可欠」「家計が安心してお金を使える環境を政府がつくることが必要」と強調していますが、経団連は「定期昇給制度の見直しを聖域にすべきではない」とし、賃下げを求める方針を明らかにしています。さらに、大企業が国内からの輸出をやめて海外生産を行う理由として最も多いのが「人件費等製造コストの低さ」(76・1%)をあげていることからも明らかなように、大企業の空洞化衝動は根深いものがあります(日本政策投資銀行の調査)。TPPはこれに拍車をかけます。

 利潤の追求を最大の運動原理とする資本主義は、一方では、生産力を無制根に発展させようとする衝動に支配され、他方では、商品の最大の購買者である労働者・国民の消費をきわめて狭い水準に押し下げることに努める習性をもっており、こういうやり方が引き起こす生産と消費の矛盾が、大企業にとっても自縄自縛になっています。

 いま経済対策として最も急がなければならないのは、大企業のリストラなどの雇用破壊をおさえ、財界の圧力に屈した賃下げ政策を転換して「働く貧困層」をなくすこと、そのために最低賃金を全国一律・時給1000円以上に引き上げること、農産物の価格保障を実現することは不可欠です。

 大企業が不況のもとで積み上げている260兆円もの内部留保の一部を還元させれば、家計の所得を増やし、内需を活発にし、日本経済をまともにする道が開かれます。大企業に応分の社会的責任を果たしてもらう「ルールある経済社会」をつくってこそ、農民や労働者の暮らしがよくなるだけでなく、日本経済も、日本の産業も、未来が開けてきます。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2013.1.14付)
ライン

2013年1月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2013, 農民運動全国連合会