「農民」記事データベース20101213-953-05

TPP(環太平洋連携協定)阻止の
国民共同を構築し、農山村を再生する
“核”となる組織づくりに挑戦しよう(1/5)

農民連第19回定期大会決議(案)
2010年12月3日 農民運動全国連合会常任委員会

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はじめに

 農民連は、2009年1月に開催した第18回定期大会の決議と、方針を補強した2010年1月の全国委員会決議にもとづき、農業破壊を許さず、食料自給率の向上と価格保障の実現、生産を広げて国民に安全・安心な食糧を供給する運動、会員と新聞「農民」読者の拡大運動などに全力をあげてきました。

 農業・食糧、農山村を全面否定し、財界に都合のいい国に変えてしまう攻撃が吹き荒れるなか、これに反対する運動も力強く展開されています。このたたかいの帰趨(すう)は、日本農業の運命を規定するといっても過言ではありません。

 こうした情勢のもとで開かれる第19回定期大会の目的は、

(1)2年間の運動を振り返るとともに、新たな情勢に対応したたたかいの発展と、組織を飛躍させる方針を確立すること
(2)2009年、2010年度決算、2011年、2012年度予算を決めること
(3)新役員を選出すること

にあります。

【1】政治情勢とこの間の運動

1、自公を政権から退場させた総選挙と、政治情勢について

 前大会以降の最も大きな出来事は、2009年夏の総選挙で国民が自民・公明政権に審判を下して政権から退場させたことです。選挙で問われたのは、アメリカいいなり、財界中心の政治であり、農業では、輸入自由化政策と市場原理の名で農産物価格の買いたたきを野放しにする農政への審判でした。農民連・食健連が主張し、運動してきた方向に世論が動き、審判が下されました。

 民主党は、戸別所得補償、食料自給率向上、後期高齢者医療制度の廃止、労働者派遣法の抜本改正、米軍普天間基地の沖縄県外、国外への移設など、部分的ではあっても自民党政治を修正する政策を掲げて政権を担うことになりました。

 しかし鳩山政権は、選挙公約と国民の期待を裏切り、9カ月で政権を投げ出しました。代わった菅内閣は、沖縄県民の総意を踏みにじって普天間基地を県内でたらいまわしする“日米合意”の推進、アメリカと財界の要求に応えて日本の農業と食糧、地域経済を破滅させるTPPへの参加に向けた協議の開始、企業・団体献金の全面的復活など、自民党政治以上のアメリカいいなり、財界中心の政策を打ち出し、国民から強い反発を浴びています。

 選挙で示された農民や国民の審判は、国民が主人公の新しい日本の政治と、新たな農政を展望するうえで大きな前進でした。この国民の意思を踏みにじるなら、どの党が政権を担っても長続きしないでしょう。自公政権を打倒し、期待を膨らませた民主党政権の裏切りを体験した国民は、国民が主人公の新しい政治への模索と探求を強めています。

 選挙の結果は、政府と自民党、団体が一体となったこれまでの農政を一変させ、自民党政治を支えてきた団体が相次いで全方位の対応方針を打ち出しています。そして、米価対策やTPPに反対する運動できびしく政府に対峙(じ)し、一致する要求で従来の枠を超えた共同の広がりがつくられています。

 こうした条件をいかし、一致する要求で農協や広範な農業団体との共同を広げ、国民諸階層との共同に発展させるなら、農業・食糧、農山村を再生する新たな政治への流れになるでしょう。農民の要求を高く掲げ、農業と農山村の再生と政治を変える運動を結んで力強く発展させること、この運動を農村で担う農民連を大きくすることが、今ほど求められている時はありません。

2、政治を揺り動かした2年間の運動を振り返って

 (1)自公政権を退場させた農民連の奮闘

 自公政権の崩壊は、農民連結成以来の全国的な運動や他の階層の運動が彼らを追い詰めた結果ですが、自由化と市場原理一辺倒を内容とする新自由主義への国際的な包囲網の広がりとも深くかかわっています。アメリカと多国籍企業の利益を最優先するグローバリゼーションに対し、食糧主権の確立を掲げ、ビア・カンペシーナとともにたたかってきた農民連の成果でもあります。

 選挙のなかで、「農民連の要求と提言」、新聞「農民」号外で多くの農家や国民に働きかけ、米価下落対策を要求するたたかいや、FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)への態度を問う各党公開質問状(食健連)、「日本農業新聞」への意見広告などが、農家や農業関係者を激励し、農業・食糧問題を争点にするうえで大きな役割を果たしました。

 (2)農政の“2つの焦点”とのたたかいの前進

   (1)米価下落対策を要求するたたかい
 2009年春、わずかな需給のゆるみから、米価下落が進み、農民連はいち早く政府に対して、せめて100万トンまで備蓄米買い入れなどの対策を要求してきました。しかし、自公政権はなんらの手立てをとらず、09年産米の下落を促進しました。09年9月の政権交代以降、連続して米価下落が続き、10年産米に至っては、作況指数98にもかかわらず、業者の取引価格は10月の時点で対前年比15%、2100円(60キロあたり)もの劇的な下落となりました。JAの概算金は軒並み1万円かそれ以下となり、高温障害による収量減と品質低下に加えての米価下落は、農家の営農と暮らしに深刻な打撃を与え、地域経済にも大きな影響をもたらしています。

 米価下落の大本の原因は、「米改革」で政府が米の管理責任を放棄し、市場任せにしたことにあります。政府の需要見通しの誤りから生じた「過剰」にも何らの対策もとらず、備蓄米の買い入れを怠る一方、超古米の放出を続け、ミニマム・アクセス米の輸入を優先して行ってきました。

 民主党政権は備蓄米を超低価格で買い入れ、市場米価が下がっても「米戸別所得補償モデル事業で補てんされる」「需給調整のための買い入れはしない」とくり返し言明し、これが市場に「米価先安」のメッセージを発信し、業者には“買い控え”産地には“売り急ぎ”をあおり、米価下落の悪循環を招きました。

 農民連は、2009年春以来、「政府が自ら決めた備蓄水準を守れ」「生産費を保障する価格で買い入れよ」「過剰米対策で米価下落にストップを」等の要求を掲げ、全国的な運動を展開してきました。議会請願運動、地域集会やトラクターデモ、宣伝行動、農協・自治体要請などにとりくみました。JA全中・全農、全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)、日本チェーンストア協会、日本フードサービス協会に申し入れを行い、「日本農業新聞」紙上での意見広告も反響をよびました。2009年の「8・5中央行動」では、350人の農民と労働者による農水省包囲デモ、150人の農民による農水省交渉、与野党本部への要請行動にとりくみ、運動の大きな節目となりました。

 2010年は、「米つくってメシくえねえ」のスローガンを掲げた「9・10中央行動」が各地のとりくみに発展し、多くの農民や農協等の共感を広げました。

 こうした運動が情勢を動かし、全国農協中央会(JA全中)が農民連と同様の要求をかかげ、政府に要請を行うに至り、2009年11月に16万トンの備蓄米買い入れ方針を打ち出させ、2010年秋には、集荷円滑化対策の基金を活用した民間による過剰米対策を政府が容認せざるを得ない状況をつくりました。

   (2)WTO、FTA、TPPとのたたかい
 もう一つの柱であるWTO(世界貿易機関)や「EPA・FTA戦略」とのたたかいは、自公政権を退場させる契機になりました。しかし農民連は、食料自給率の向上や戸別所得補償を訴えて政権交代を実現した民主党が、WTOやEPA・FTAでは自民党以上に“促進派”であること、2010年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議をアジア・太平洋規模の自由化の枠組みづくりの契機にしようとしていること、戸別所得補償は農産物の輸入自由化のためのものであることを、一貫して批判して運動を強めてきました。2010年夏の参院選で民主党が大幅に議席を後退させたことは、米価下落対策をとらない民主党政権への怒りに加えて、農産物の輸入自由化政策に対する農民の怒りが示されたものでした。

画像 しかし菅内閣は、鳩山内閣が打ち出した「新成長戦略」を財界の自由化戦略に沿った方向で具体化し、アメリカの強い要求も受けて2010年10月1日の臨時国会冒頭で唐突に、TPPへの参加の検討を言い出し、11月のAPEC首脳会議で世界に向けて表明しようと画策するに至りました。

 農民連・食健連は、2010年6月に札幌市で開かれた「APEC貿易担当閣僚会議対抗行動」、10月の新潟市での「APEC食料安全保障担当閣僚会議」、11月の横浜市での「APEC首脳会議」に対抗する行動を展開し、自由化反対のアピールを行ってきました。

 こうした運動は、TPP反対の世論を強め、JA全中や全国漁業協同組合連合会、全国森林組合連合会と市民団体が共同した大規模な集会やデモに発展し、地方でも同様の運動が大きく広がる契機となりました。

 (3)農地法改悪とのたたかい

 2009年6月17日、参院本会議で自民党、公明党、民主党の賛成で農地法改悪案が可決・成立しました。農外企業や外資に対して農業への参入を自由化し、将来の農地所有に道を開くためのものでした。戦後の農地制度は、戦前の農民の命がけのたたかいの成果が実り、民主化の一環として確立されたもので、これを維持するための農地法の改悪は家族農業を中心にした日本農業の根幹にかかわるだけに、改悪を強行した自公民の責任は重大です。

 改悪法は成立したものの、農民連・食健連を先頭にした改悪法案阻止のたたかいは、短期間に情勢を動かし、法案に反対する団体請願署名は2000団体近くまで広がり、多数の農業委員会の反対建議や、地方議会の意見書採択も相次ぎました。各界の有識者による「共同アピール」も大きな力になりました。不十分ながらも法案を修正させたことは、こうした運動の反映でした。

 (4)口蹄疫(こうていえき)、鳥インフルエンザ、BSE対策の運動

 この2年間、鳥インフルエンザの発生や、宮崎県での口蹄疫のまん延で畜産農家の経営と暮らし、地域経済が脅かされました。

 2010年春に宮崎県で発生した口蹄疫は、11市町に広がり、牛・豚への感染・感染疑いは、21万1608頭、ワクチン接種後の処分を合わせると、殺処分された家畜は29万3896頭に及び、宮崎県の畜産と地域経済に重大な被害をもたらしました。

 農民連は、宮崎県連や「口蹄疫対策県民ネットワーク」と連携して、政府にまん延防止や農家の救済、地域経済の復興策を要求して運動を広げてきました。また、義援金や、「食べて支援しよう」と現地の食肉処理会社と提携した冷凍牛肉の購入を呼びかけました。農民連の運動は、「口蹄疫特措法」の制定や、不十分ながら基金をつくらせるなど、政府を動かす力になりました。

 BSE対策が不十分なアメリカが、日本政府に牛肉の輸入条件を30カ月齢以下に緩和する圧力をかけているなかで、これを阻止する運動を展開してきました。

 (5)温暖化防止、生物多様性を守るとりくみ

 食糧の輸入依存政策をやめて自給率を向上させることこそが温暖化対策にとっても不可欠であることを訴え、「食糧主権が地球を冷やす」を合言葉に運動を進めました。

 これまでの環境負荷に配慮した生産の努力や、国内で自生している輸入遺伝子組み換えナタネの告発などのとりくみ、COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)などの国際会議に対応した運動、公害地球懇署名、生産現場での低コスト・低負荷の生産努力などの運動を広げてきました。

 (6)「戸別所得補償」の批判と改善要求、「農民連の要求と提案」

 民主党政権は、「米戸別所得補償モデル事業」「水田利活用自給力向上事業」を打ち出しました。これらの政策は、民主党の選挙公約から著しく後退した不十分なもので、土地改良事業費を半減した「共食い」で予算を確保したものでした。

 農民連は、(1)2008年産米の生産費は60キロあたり1万6497円であるにもかかわらず、モデル事業では補償水準を1万3703円に値切り、地域の条件を無視した全国一律の交付であること、(2)下落したら補てんするというやり方が買いたたきの要因になりかねないこと、(3)「水田利活用自給力向上事業」の交付水準がこれまでの「産地確立交付金」等に比べて著しく減額されていることや、麦、大豆等の戦略作物以外の「その他作物」の交付単価があまりにも低すぎて転作が困難になる、などの点を指摘し、政府に改善を要求してきました。こうした運動が転作助成を上積みさせ、加工米の認定の幅を広げさせるなどの成果を勝ち取りました。

 こうした運動とあわせて、2009年7月に、歯止めなき輸入自由化にストップをかけ、価格保障と所得補償の2本立ての政策の実現、国をあげた本格的な後継者確保などを柱にした「農民連の要求と提言」を発表し、普及したことは、運動を広げる力になりました。

 (7)生産、販路を切り開く運動

 2009年11月の第2回見本市が前回を上回る規模で成功し、本部が呼びかけた「1組織・地域1プロジェクト運動」などの耕作放棄地を解消する運動、直売所、加工など、地域を元気にするとりくみが広がっています。2010年8月の「全国研究交流集会」は、全国の経験が交流され、運動を前進させる力になりました。

 米価の下落は、農民連傘下の産直組織の経営や、準産直米のとりくみにも影響を及ぼしましたが、全国ネットワークの力を生かし、粘り強く中小米流通業者との交流を積み上げ、基本的に取り扱い数量を維持していることは貴重な成果です。低米価や戸別所得補償のもとで、多くの農家や農協、自治体が販路の確保を求め、準産直米への期待を広げています。

 (8)組織的には

 前大会の成功をめざした全国的な運動の前進を力に、組織づくりに全力をあげ、全国的には新聞「農民」では2009年11月現勢で7年ぶりに前年を400部余り上回ることができました。しかし、その後の減紙傾向に歯止めがかかっていません。会員拡大は、通年的な拡大の努力が行われ、貴重な経験が作られているものの、会員現勢の後退傾向に歯止めがかかっていません。第19回大会を新たな前進に転化させる契機にすることが求められています。役員や専従者が高齢化しているなかで、次の担い手を育成・確保して若返りをはかることも待ったなしの課題になっています。

 県連では奈良県連をはじめ、会員と読者を前進させている組織が生まれていることは貴重な成果です。この間の会員拡大の特徴は、暮らしと経営が脅かされているもとで重税や負担増の軽減を求める要求にもとづく加入、大規模農家や集落営農組織が準産直米や産直、直売所などの生産・販売の要求で加入しています。農家の要求にかみ合った対話や働きかけを行えば会員拡大の飛躍は可能です。

 また、TPPなど農産物輸入自由化に対する農民の怒りが大きく高まっているもとで、たたかいの先頭に立つ農民連への期待も大きく、会員拡大を前進させる条件が広がっています。

 新聞「農民」は、食と農をめぐる動きや農政が激動しているなかで、現場の農民の声を伝え、世界の食や環境、米価問題、食の安全など、国民や農民の関心に応える報道を通して、自公政治に審判を下す役割を果たしてきました。農協や農業委員などに一定の読者を持っていることが、運動を前進させる力になっています。購読を働きかける努力をすれば読者拡大を前進させることは可能であり、働きかけの頻度を増やすことが前進のカギです。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2010.12.13付)
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2010年12月

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