「農民」記事データベース20090727-886-07

若者が戻ってきた 農業で地域が元気に(1/3)

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  /甘くてやわらかくておいしい。

 日本の中山間地域は、どこでも過疎化・高齢化が進み、農業が衰退しています。ところが、過疎をくい止め若者が定住し、十数年ぶりに赤ちゃんが生まれた地域があります。その元気のもとは農業です。農業が若者を呼び戻し、農業青年が地域に元気を与えています。地域再生の柱が農業であることを実践している和歌山県古座川町平井地区と京都府舞鶴市西方寺地区を紹介します。


和歌山・古座川

ベビーブームにわく“ゆずの里”

青年が暮らせる村に着々と

画像 紀伊半島の山奥、和歌山県は古座川町平井地区。過疎化・高齢化がすすみ、小学校も保育園も廃止。「限界集落」とすら呼ばれたこの山村に、昨年、16年ぶりに赤ちゃんの産声が響きました。しかも3人も! さらに今年もう1人、赤ちゃんが生まれます。赤ちゃんのお母さんは皆、「農事組合法人 古座川ゆず平井の里」にゆかりのある女性たちです。集落の再生をかけて挑んだ特産のゆず加工が、村に活気を与えています。小さなベビーブームに沸く古座川町を訪ねました。
(和歌山農民連 松岡登)

 特産“ゆず”で地域おこしを…

 ゆずの里、平井地区は、古座川支流の渓流に沿って段々状に民家が散らばる、人口156人の山村です。昔は林業が盛んでしたが、その衰退とともに過疎化、高齢化が進み、今、人口の半数以上が65歳以上です。

 1960年ごろ、2軒の農家が副業にゆずの栽培を始めました。徐々に栽培戸数が増え、73年には搾汁工場を建設。果汁を搾った皮が「もったいない。活用しよう」と、85年には「古座川ゆず平井婦人部」の加工場を発足させ、紀ノ川農協(農民連加盟)を通じた出荷が始まりました。

 しかし集落の過疎化は進みました。97年に小学校分校が休校(実質的な廃校)となり、その7年後に本校も保育園も廃止に。「平井の里」代表理事の新谷綾助さんは、「いたたまれないショックを受けました」と当時を振り返ります。過疎を少しでも止め、若者が定住できる村にするにはどうすればいいのか――「柚子産業振興と過疎を考える会」を99年に発足させ、模索が続きました。

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代表理事の新谷綾助さん

 そして04年、「ゆずを軸にして農業を発展させ、農村を守ろう。地域に雇用をつくって若者が定住できる村にしよう」と、紀ノ川農協古座川班や生産者組合、『婦人部』などのメンバーが中心となって、『農事組合法人 古座川ゆず平井の里』がスタート。07年には、町内すべての農家が加入できるようになりました。

 「働く場」が赤ちゃんの誕生に

 昨年、出産した上地美香さんは、古座川町内に住む夫と結婚。2人目を出産してから「平井の里」で働いていましたが昨年3人目を出産し、今は育児休業中。「子どもたちが“ここが好き。どこにも行きたくない”と。ずっと古座川に住み続けたいです」と言います。

 また今年11月出産予定の大西佐登里さんは、大阪で結婚。夫婦で「田舎暮らしをしたいな」と思っていたところ、平井地区にある北海道大学の研究林で職員募集があり、移住してきました。1人目の子どもを保育所に預けて、「古座川ゆず平井婦人部」の工場で働き、今妊娠中の2人目が保育所に行く年齢になったら、また復帰したいそうです。「ここは空気も水もすばらしい。そしてこんな山奥なのに活気があり、雇用も生み出している。自慢できる産品があってうれしいです」と言う大西さん。

 新谷さんは、「『平井の里』が法人化した時に雇い入れた従業員22人のうち、30歳代以下が8人で、多くがUターンやIターン者でした。その後2人の女性従業員が結婚したり、3人の子どもも生まれて、働く場所の重要性を痛感しました」と、喜びもひとしおです。

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昨年、3人目を出産した上地美香さんと子どもたち

 青年らが生産拡大に意欲的

 今、「平井の里」の組合員は78人。総括責任者の倉岡有美さんは、「宿泊施設なども整えて都会から来てくれるお客さんに観光や農業体験をしてもらえる里にしたい」、「旧小学校の音楽室を改装して、売店・休憩所を作りたい」、「新しい製品を開発し、アイテムを増やしたい」と、目を輝かせながら語ってくれました。

 また、「平井の里」が農家の生産意欲の向上につながる買い取り価格の設定に努力していることも、ゆずの安定生産につながり、地域の発展の力になっています。遊休農地の拡大を防ぎ、生産を拡大しようと、従業員が生産に参加する取り組みも。昨年は、中年層の生産者が新たにゆず栽培を始めたり、農業で暮らす決意で古座川町に移住してきたIターン者が、高齢の生産者のゆず園を経営するなどの動きも生まれました。

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地元産の材料を使って、ていねいに手作りするのが「平井の里」のこだわりです

 「地域づくりの原点は農業です。地域おこしは町おこし、町おこしは国おこしにつながることを確信して、これからも事業を進めていきます」と新谷さん。「そして再び子どもの声が聞こえる保育園の再開を」――「平井の里」の挑戦は続いています。


(農)古座川ゆず平井の里

 ゆず果汁、ポン酢、ジャム、シャーベットなどゆず加工品を多数生産・販売しています。
連絡先 和歌山県東牟礼郡古座川町平井469
    TEL 0735(77)0123
ホームページ http://www4.ocn.ne.jp/〜yuzusato/
または「古座川ゆず平井の里」で検索


◇訂正 7月27日付4面の「ベビーブームにわく“ゆず”の里」の記事で、「紀ノ川農協古座川班や生産者組合などが中心となって、『農事組合法人 古座川ゆず平井の里』がスタート」とありますが、「紀ノ川農協古座川班や生産者組合、『婦人部』などのメンバーが中心となって、『農事組合法人 古座川ゆず平井の里』がスタート」の誤りでした。おわびして、訂正します。
 2009年8月10日、訂正しました。

(新聞「農民」2009.7.27付)
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2009年7月

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